表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

郡崎秋斗

 僕の記憶障害は、後天的なものだった。

 中学三年生のときに交通事故に遭い、その時の頭の打ちどころが悪かったらしく、脳が傷つき、事故前後一ヶ月の記憶を失った。


 だかそれだけでは終わらなかった。

 僕の記憶は、眠ると消えてしまうようになった。

 朝、目を覚ますと、自分のことや部屋に飾ってあるもののことは分かるが、昨日何をして何を食べて何処に行ったか、そういうことは一切覚えていないのだ。


 だから日記をつけることにした。母がどうせ書くならね、と上等な革の表紙の日記帳を買ってくれた。

 一ページ目には、

『僕は記憶障害です。朝起きたらこの日記を読むこと。』

 と書いた。

 その一文を書いた日、僕は事故に遭ってから初めて涙を流した。

 ああ、僕はもう今まで通りには生きられないんだ。どこにでもいる、普通の学生とは違う人間になったんだと。

 夕方まで子供みたいに声を上げて泣き続け、次の日はまぶたが重く、頭が割れるように痛かった。

 でも、それも僕にとっては記憶にない出来事だ。


 嫌なことやつらかったことは日記には書かないようにしていた。記憶障害という重すぎる枷をはめられたのだから、そのぐらいは許してもいいだろうと思った。


 ところが、夕凪と出会った日はどうやら日記を書かなかったらしい。

 夕凪に聞いた話だとその日は山に登ったそうなので、疲れて眠ってしまったのだろうか。

 あるいは、夕凪とはもう二度と会うことはないと考えて、思い出さないためにあえて書かなかったのか────


 それすらも本当のことは分からない。

 僕は何も覚えていられないから。


 ただ、夕凪のことを覚えていたいと思っていたことだけは分かった。昨日、夕凪と────おそらく二回目であろう────出会いを果たした瞬間に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ