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プロローグ

 朝六時。

 うるさいアラームが部屋中に鳴り響く。

 手探りでアラームのもとであるスマホの音を止め、また眠りにつく。


 ジリリリリリリリリ……


 また鳴り始めたアラーム。止めたはず、と体を起こしてようやくスマホを確認する。今鳴っていたアラームはどうやら設定しておいた二個目のアラームのようだった。


 早朝からのアラームとの格闘で疲れてしまった……とスマホを軽く睨みながら、重たい体を起こす。


 ベッドを適当に整え、制服に着替えて部屋を出る。ダイニングに下りると、朝食とコーヒーの良い香りがした。

 先に起きていた母と挨拶を交わし、自分の席に着く。するとすぐに朝食が出てきた。我が家は朝こそしっかり食べなさいという方針なので、私もそういう体に育っていた。

 ダイニングには私以外まだ誰もおらず、母は父と弟の分の朝食をせかせかと作り続けていたので、私は席から立ってテレビのリモコンのボタンを押した。

「……続いてのニュースです。和歌山県◯◯市の住宅街で、女性が複数ヶ所を……」

 朝からやっているテレビ番組といえばニュースぐらいなのに、朝食時に殺人事件のニュースはちょっと、とすぐさまテレビを消した。


 きっとこれが最適なのだろうというぐらいにきれいに焼き目のついたトーストをひとくち囓る。うん、美味しい。いつもと変わらない味、いつもと変わらない風景。

 これが私の日常だ。


 最後に少しだけ残しておいたコーヒーを口に含み、飲み込む。私の年代だとブラックコーヒーを飲める人は少ないが、私はその少数派(マイノリティ)だ。


 「行ってきます」

 声をかけてみたが、返事はなかった。まだ幼い弟がちょうど起きてきて、母はその世話で忙しそうだったので私はそそくさと家を出た。別に気にしない。母も父も、私に関心がないわけではないと知っているから。


 いつもの道を少し小股で歩く。朝早いとはいえ夏は暑いので、なるべく体の無駄な動きを減らす。汗をかかないように荷物は最小限にして、紫外線対策で折りたたみの日傘を差す。

 しばらく歩くと見慣れたバス停が見えてきた。まだバスは来ていないようだ。あそこまで行けば雨除けの屋根があるので、少しだけ歩みが早くなる。もう日傘を持つ手には汗が滲んでいた。


 プシュー……


 五分ほどするとバスが来た。定期をかざして乗り込み、運転席の真後ろに座る。ここが私の定位置なのだ。


 私、春海夕凪(はるみ ゆうな)(セント)ニコラウス学園という私立の学校に通っている。

 『名門大学の合格者を何名も輩出した進学校』や『有名なスポーツ選手の出身校』という肩書きは全くない、どこにでもある普通のミッションスクールだ。

 聖ニコラウス学園はいわゆる女子校で、生徒数はかなり少ない。しかしそれに対して教師の数は倍近くで、生徒ひとりひとりに細やかで丁寧な教育を、というのがうちの学校の教育理念らしい。


「えー次はー、聖ニコラウス学園前ー、聖ニコラウス学園前ー。ご利用、ありがとうございましたー」

 運転手の感情のかけらもないアナウンスを聞き流しながら、降りるときの礼儀は守ろうとぺこりとお辞儀をした。すると意外にも運転手はにっこりと笑い、見送ってくれた。人は声によらないな。


 そんなことを考えながらまた小股で歩き始めると、後ろからそれはそれは大きな声が聞こえた。

「ゆーうーなっ!」

「おわっ」

 いきなり後ろから飛びかかられたので、バランスを崩しそうになる。やっとの思いで耐えた私が振り返ると、そこには私の親友である幸崎 百合子(こうざき ゆりこ)が満面の笑みで立っていた。

「どう?びっくりした?」

「びっくりしたも何もないよ……心臓止まるかと思った」

「えぇ〜、それはないでしょ」

「あるんだってば」

 なんて冗談を言い合いながら、学園までの短い道のりを二人で歩く。百合子は自転車通学で、私はいつか自転車で突進されるのではないかと毎日こっそり怯えているのだ。

「そういや夕凪、今日数学の小テストだよ?勉強してきたー?」

「えっ、そうだっけ……やばい、全くしてないし範囲も知らない」

「うわぁそれかなりピンチ!」

 百合子はけらけらと笑っているが、私にとっては笑いごとではない。このテストで赤点を取った日にはもう、母の大目玉を喰らうのは目に見えている。

 そもそも百合子と私はレベルが違う。百合子は常に成績学年一位の秀才で、全国模試でも上位に名を連ねている。そのうえ生徒会長を務めるという優秀っぷり。愛想もよく、性格も明るく朗らかな為、生徒からも先生たちからも気に入られている。

 一方の私は成績は中の中、運動も普通、特に得意なこともない平々凡々な高校生。さらに性格は根暗で友人と呼べるのも百合子ぐらいなものだ。

 テストのことを考えると気が重いが、横で鼻歌を歌っている頭の良い親友に教えてもらおうなどと考えつつ私たちは学園の門をくぐった。

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