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チャチャ丸とまさはるの日々

作者: 島島

疲れたサラリーマン・まさはると、ちょっとおせっかいなフナムシのチャチャ丸が織りなす、ゆるくて温かい日常を書きました。

まさはるは疲れていた。


満員電車、上司の小言、鳴り止まないチャット通知。

生きるだけで精一杯な日々の中、ふと降りた駅は、降りる予定のない海辺の無人駅だった。


「……まぁ、たまにはいいか」


そう言って、スーツのまま防波堤に座った。


そのときだった。

足元から何かが動く気配がした。


「おい、スーツ。お前、顔ひどいぞ」

「えっ……?」

「目の下のクマが、カラスの足跡みたいだ。深刻だな」


そこにいたのは、フナムシだった。

しかも喋っている。


「オレの名はチャチャ丸。ここらじゃちょっとした相談役さ」


****


最初は幻覚かと思った。疲れてるんだな、と思った。

でも翌日も、その次の日も、まさはるが駅で降りて海へ行くと、チャチャ丸はいた。


「今日は何があったんだ? 仕事? 恋愛? 上司の靴が臭かったとか?」


口は悪いが、妙に的確だった。


****


チャチャ丸との日々は、まさはるの中で特別な時間になっていった。

誰にも言えないことをつぶやけば、チャチャ丸はすぐに茶化して、でも最後にはこう言ってくれる。


「まぁ、お前はよくやってるよ。ちょっと休めって、海も言ってんだろ」


その言葉が、まさはるの心をふっと軽くする。


****


ある日、まさはるは会社を辞めた。

決して衝動ではなかった。ずっと溜め込んでいた「もう無理だ」という気持ちに、ようやく正直になっただけだった。


防波堤に座るまさはるに、チャチャ丸が言った。


「……お前、辞めたな?」

「うん」

「後悔してるか?」

「いや、今は風が気持ちいいって思えるくらいには、生きてる」


チャチャ丸は、海風に吹かれながら静かに言った。


「人間って大変だな。でも、お前はちょっとマシな部類だ。ちゃんと自分を選んだ」


****


その日から、まさはるは毎朝、海に行くようになった。

地元の小屋で釣りの手伝いをして、チャチャ丸に相談されることも増えた。


「なぁ、最近フナムシ界の若ぇのがな……生意気なんだわ」


今では、相談役は交代していた。


****


まさはるとチャチャ丸。

人間とフナムシ。

だけど、どこか同じ風を感じて生きている、ちょっと不思議なふたりの日常。


今日も、防波堤に潮風が吹いている。


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