第1話 プロローグ
家の近所に、怪しげな相談所がオープンした。
かつてはパン屋だったか、ラーメン屋だったか。
灯籠 ぼたん(とうろう ぼたん)は覚えていなかったが、頻繁に店がかわっていたのだけは覚えていた。
今、ぼたんはその怪しげな相談所の前にいる。
その扉にかかった看板には、おそらくコンビニで印刷されたであろうA3用紙を3枚ほど縦にテープでくっつけた相談所名が張られていた。
勇気を振り絞り、ぼたんは扉をノックした。
「どうぞ、開いていますよ」
中から聞こえるのは低く落ち着いた男性の声。ぼたんが恐る恐る扉を開けると、そこには太めの体格に和装をまとった中年男性が座っていた。
「ようこそ。私は仏原 芳一。この相談所の所長です。と言っても、私1人しかいないですけど……どうぞ、どうぞお掛けになって」
「あ、すみません」
ぼたんは仏原に促されるまま、ソファーに座る。
ギシギシときしむ。あまり、上等なソファーでは無い様だ。
「それで―――今日はどんなご用向きで?」
どういっていいものか。
しかし、もう入ってしまった。言うしかない。
「あの……ゆ、幽霊を……見るんです……」
だって『仏原心霊相談所』と書いてあるのだから―――。