第十一話 いや、お前かい!
お待たせしました! 今回は軽めです。
コツコツと石畳の上を歩いてくる音が聞こえた。やっと外へ出られる、そう思い、息を吐いた。
石畳の向こうから音が近づいてくると、少しずつその姿が見えてきた。それは、教師どころか人間のものとは思えないほど膨れた腹を持つ異形だった。俺はまずい、そう直感した。
「おい、みんな気をつけろ。あれは、教師じゃない。まして、人ですらないぞ!」
「そうね、これはまずそうだわ。みんな動ける? まあ、死にたくなければ、無理してでも動いてもらわないといけないのだけど!」
「……? なあ、俺の気のせいだったら悪いんだが、ハンカチがぼたぼた落ちてるっぽいぞ」
「アオキくん、西宮さん、あれは……というかあの人、神宮寺くんだよ」
シズカちゃんがそう言うと、西宮はどこか納得した様子で言った。
「ヤマモトさんが言うなら、神宮寺くんで間違いないわ。まだ、脱出できる見込みはないけど、あの人影については安心してもいいわ」
はあ? あれが神宮寺君? 俺はそう思ったが、西宮とシズカちゃんのことを信じることにした。そして、ついにその音の主の姿が捉えられる位置まで移動してきた。
「やあ! 西宮さんと……その他」
確かに、あの異形の正体は神宮寺君だった。
この世界に来てからというもの、オオヤマダを筆頭とするやつらにツッコミを入れまくっていたせいだろうか。俺は反射的に言ってしまった。
「いや、その他はないだろ!」
神宮寺君はどこか見下すように笑った。
「ああ、確か君は……アオキちゃんだったかな? 悪いね、黒歴史かと思ってあえて触れないようにしていたつもりだったんだけどね」
「ぐふぉ……」
俺の心は早々に折れかけていた。
「ちょっと、リーダー! アオキくんがかわいそうでしょ!」
今、俺のことをかばってくれたのは、神宮寺のパーティメンバーか? あの栗色の髪に栗色の目……どっかで見たことあるな。どこだっけ……あ、思い出した。入学式で隣だった子だ。
「いやあ、僕としたことが少し感情的になってしまったみたいだ。失敬、失敬」
「もう、勘弁してよ? 昔からそうなんだから」
「神宮寺くん、うちのパーティメンバーが失礼したわ。ごめんなさい」
「構わないよ、西宮さん。できそこないの平民たちの尻ぬぐいは大変だろうからね。そこは理解しているつもりだよ」
「もう、だから! そういう態度がダメって言ってるの!」
「ああ、そういえばそうだったね。ごめんね、ハルカ」
神宮寺君はそう言うとおもむろに彼女の頭を撫で始めた。撫でられている彼女のほうもまんざらでもなさそうだった。
「わかればいいのよ、わかれば」
あ、完全に思い出した。あれだ、サカシタ・ハルカさんだ。あれ? サカシタさんも平民じゃなかったか? ……というか俺たちは何を見せられているんだ?
西宮は軽く咳払いをすると話し始めた。
「仲良くしているところ悪いんだけど、今私たちは、このダンジョンの中に閉じ込められている、いえ、ループしているようなの」
神宮寺君はサカシタさんの頭を撫でながら言った。いや、そろそろ離れろよ。
「そうだね、実は僕たちもループしているみたいなんだ。ハンカチーフを目印にしながら進んだからね、間違いないよ」
「はえー、ハンカチってそんなに便利なものなんですか。俺も十枚単位で持ったほうが良いですかね?」
神宮寺君はため息をついた。
「君は危機感ってものがまるでないね。まあ、興味があるなら僕の行きつけの店を紹介するけど」
おお、神宮寺君の行きつけのハンカチ屋か、期待できそうだな。それに、この世界に来て初めての友達との買いものだ。なんか、ワクワクしてきたぞ。
「それはありがたいです! よっ、ハンカチ王子!」
神宮寺君はやれやれという反応をしながらも、再び話し始めた。
「王子? 少し不敬だとは思うがそう呼ばれるのも悪くないね。君には特別に僕のことを神宮寺と呼ぶことを許可しよう。ただ、もうハンカチ王子とは呼ばないでくれよ、不敬だからね」
「え、いいんですか? じゃあ今度ハンカチの店に連れて行ってくださいよ。約束ですよ!」
西宮はさっきの咳払いよりも大きく咳払いをした。
「アオキ、ちょっと黙っていてくれるかしら。話が進まないわ」
「え、ああ……こんな状況なのに邪魔して悪い。もう邪魔はしないから」
確かに状況を踏まえていない発言だったよな……。ていうか、約束をしたのはいいが、よく考えてみるとハンカチって絶対十枚単位で買う必要ないよな。軽々しく約束なんてするんじゃなかったか。
「わかればいいの」
唐突にオオヤマダが真面目な表情で話し始めた。
「それで、ハンカチ王子はループの原因を何だと考えているんだ?」
「だから、ハンカチ王子は不敬だといっただろう? それに君のは二番煎じだ。恥を知りたまえ。まあ、原因は予想がついているけどね。おそらくは、学校側が仕組んだことだろうね。あるいは……」
西宮は神宮寺に視線をやりながら、その声を遮るように言った。
「そうよ、オオヤマダ、あなたは黙っていてちょうだい。話の腰を折らないでくれるかしら」
「そうだね。オオヤマダくん、二番煎じはちょっと……」
「入学式のときも自己紹介のときもそうだけど、オオヤマダくん、あなたは何がしたいの? 邪魔をするならよそへ行ってくれる?」
西宮は当然として、シズカちゃん、サカシタさんまでオオヤマダに注意するとは……。ここでオオヤマダにはしっかり反省してもらう必要があるようだ。
「オオヤマダ、俺でもさすがに引くぞ」
「ええ……」
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