ウェーブの処遇
組織での役割は魔法陣の研究とか魔法で防衛対策をする事だよ。
~エミールのメンバー、シゲ~
「さて、メンバーも全員揃った。まずは乾杯といこうじゃないか」。
エスティーがそう言って持っているグラスを揚げると、メンバー達(オムツ一丁の男以外)も後に続いた。
そして、皆はグラスに入った酒をゆっくりと口に含んだ。
「諸君、久々の夕食会となるのだが...今日は色々と話さねばならない事がある。まぁ、食事をしながらリラックスして聞いてくれたまえ」。
エスティーはグラスに入った酒を一口飲むと、再び口を開いて話を切り出した。
「まずは、日頃からエミールのためにメンバー達をまとめているSクラス諸君達の働きに大変感謝している。ここ最近は我々のテリトリーに蛮族が侵入したり、諸国軍が山脈付近に接近したりと我々エミールだけではなく山脈内に存在する他組織との間に緊張状態が続いている。近々、ゴクアクボンドやヒラメキーナと会談を行い、各組織と情報や現状を共有していきたいと思う。それと...」。
エスティーはそう言うとウェーブの方に視線を移した。
「今日でウェーブの謹慎を解除する。ウェーブは自分のチームに復帰するように」。
「はい、申し訳ございませんでした」。
ウェーブはそう詫びながら深々と頭を下ると、エスティーに微笑を浮かべながら小さく頷いた。
「うむ、以後気を付けるように。この件に異論はないな? 」。
エスティーがメンバー達にそう確認した時...。
「そんなのあり得ませんわっ! 」。
ベルは不満げな様子で椅子から立ち上がった。
「ベル、異論があるのか? 」。
エスティーは片眉を吊り上げてベルに問いかけた。
「もちろんですわっ! ウェーブさんは防衛部隊の立場でありながらテリトリーに侵入してきた外敵を逃がしたのよっ!? 私達のテリトリー内に危害を加える人間を見す見す逃すなんて、そんな事はあってはならないですわっ!? 」。
「その件に関してはウェーブだけに非があったわけではない。当時テリトリーの防衛強化が不完全であった。連携が上手く取れず侵入者に対応できなかった組織全体の問題だ。そして、その責任はエミールの長である私にある」。
「それだけではございませんわっ! ウェーブさんが独断で山脈を下って騒動を起こした件もエミールの秩序や治安を脅かす有害な行為ですのよっ!? 厳罰を求めますわっ! 最下部のCクラス降格を望みますっ! 」。
ベルがそう食い下がると、エスティーは小さく溜息をつきながら首を横に振った。
「ウェーブを現地で保護したファイドが証言した。追跡したその侵入者を捕らえ損ねて負い目を感じていたウェーブは一人でその侵入者の魔力を辿っていたが、大型魔獣の群れに遭遇して危機に瀕していたらしいな。確かにウェーブによる無断行為は決して許されるべきではないが、侵入者の追跡する姿勢に関しては評価したい。今回は大目に見る事にしよう」。
「そ、そんなっ...!! 」。
ベルが反論しようとした時、隣に座っているファイドが彼女の手首を掴んだ。
「...」。
ファイドは真顔で首を横に振りながらベルに座るよう促した。
「...」。
ベルは腑に落ちない様子であったが渋々と椅子に座わり黙り込んだ。