主役は遅れて登場する
私の生き甲斐は、思い通りに人を動かす事。
私の意のままに、ね。
~エミールのメンバー、ベル~
「待たせたな、みんな」。
深紅のマオカラースーツを着用し茶色いショートのツーブロックの髪型をした男が、数人の付き人達を従えて微笑を浮かべながら食堂に姿を現した。
「御疲れ様ですッ!! エスティー様ッ!! 」。
メンバー達(オムツ一丁の男以外)は椅子から立ち上がり、上座に腰かけるエスティーに挨拶をした。
「御疲れ、諸君。どうぞ、座ってくれ」。
エスティーは笑みを浮かべたままメンバー達にそう促した。
メンバー達が席に着いた時、複数の魔法陣が青白い輝きを放ちながら卓上に浮かび上がってきた。
そして、その魔法陣の中から湯気と共に食事が浮かび上がってきた。
「エ、エスティー様っ! や、ややややはりっ! な、ななな納得いきませんよっ! 」。
エスティーと共に現れた坊主頭の男が酒の入ったグラスを回し始める彼の側に立ったまま、激しく狼狽した様子でそう言った。
「コバ、その話は後だ。まずは席に着け」。
「っっ...!! 」。
コバという男はエスティーにそう促され、渋々と自身の席に着いた。
「それで、今日はどないしたん? 」。
センコーは読んでいた本を懐に戻し、そう話を切り出した。
「いや、もう少し待ってくれ。もうじき来ると思う」。
エスティーがセンコーにそう答えた時、食堂にウェーブとファイドが姿を現した。
「遅れて申し訳ありません」。
ファイドはそう言いながらエスティーの方まで歩み寄り深々と頭を下げた。
「エスティー様、この度は御迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございませんでした」。
ウェーブもファイドに続いて深々と頭を下げてエスティーに詫びた。
「いや、問題ない。それよりもウェーブ、体調の方は大丈夫なのか? 」。
「はい、大丈夫です。御気遣いいただきありがとうございます」。
「そうか、まぁ...かけたまえ」。
「はい」。
ウェーブはエスティーにそう促され、ファイドと共に席に向かって足を運び始めた。
「ねぇ~、ここ空いてるから座って~」。
「お、おい」。
ベルは嬉々とした様子でファイドの袖を掴み、半ば強引に隣の椅子に座らせた。
そして、ウェーブはそのファイドの隣に座った。
「あら~? ウェーブさん、エスティー様が着席されてるのに遅れてくるなんて失礼じゃなくて? 」。
ベルはファイドの片腕にしがみつきながらそう言ってウェーブを嘲笑った。
「いや、僕がウェーブに夕食会の事を伝え忘れていたんだ。それでちょっと遅くなったんだ」。
ファイドはそう言ってウェーブのフォローをした。
「伝え忘れ...? あ~! そうね~! ウェーブさんは侵入者を逃がした上に無断で単独行動したペナルティーで謹慎処分中なのよね~! 忘れてたわぁ~! ごめんなさぁ~い! 」。
ベルはウェーブを心底馬鹿にした様子でそう声を弾ませた。
「...」。
ウェーブはベルに目を合わさず黙ったままうつむいていた。