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エピローグ

「途中までは順調にクーデターを起こせたけれど……結局最後は、国王にすっかり助けられてしまったね」

「テオドールの様子は異常だったもの。貴方に余程執着していたんだわ。皆無事だったし、これで良かったのよ」


数日後、シリルたちはいつものように執務室で話をしていた。シリル陣営が誰一人欠けることなく、あの夜会を乗り越えられたのは僥倖(ぎょうこう)だった。


あれからすぐに動きがあった。

元王太子テオドール、そして元騎士団長ベルトは、死刑。すぐに毒杯を賜ることになったのだ。

 

また、カロリーナは実行犯ではないとして釈放されたが、稀代の悪女としてすっかり有名になってしまった。

彼女は実家から、すぐに出家させられたのだと言う。この出家には、国王の意が強く働いていると見られる。


「一ヶ月後には、王位継承だって」

「国王も、体調が万全ではないようでいらっしゃったからね……」


国王はあの場を気力で立ち上がり、立派に演説していたが、やはり相当無理をしていたようだ。立って話せる状態だとは言え、病であることには変わりないそうだ。

今後は安静に過ごし、急いでシリルに王位を譲った後は、隠居するのだと言う。


「そういうわけで、国王の助けは得られない。今日も俺たちで政務を頑張ろう」

「結局こうなるんですね……」


クリストフが自棄気味に呟いた。彼の激務は、今後も順調に続きそうである。



♦︎♢♦︎

 


時は巡って翌年の四月。例の夜会から、もう一年が経った。

今日は、国王シリルとフェリシアの結婚式である。

 

あの後も冷害は続いたが、三年目も飢饉には至らなかった。品種改良で生まれたフェリシア種の栽培が、一気に国民に広がったのである。そのお陰で小麦は不足しなかった。

民が飢えるどころか、むしろ食糧不足の周辺国よりも潤沢な小麦を輸出して、大きな利益を得たくらいである。そんなフェイトラール王国を滅ぼそうなどと考える国はいなかったようで、戦争が起きる気配も全くなかった。


 

シリルとフェリシアは式を終えて、結婚を記念するパレードを開いていた。

災害が起きるとすぐに現地に駆け付ける二人である。それゆえ国民人気は非常に高く、行く先々で大きな歓声が上がり、花びらのシャワーが舞った。国中がお祭りムードだ。

シリルは立派な白い正装に身を包んでおり、国民に向かってずっと大きく手を振っていた。フェリシアは大振りのフリルがついた、華やかなウェディングドレスに身を包み、彼に寄り添って幸せそうに笑いながら手を振っていた。


二人の結婚式は幸せ一色のまま、無事に終わった。

そして、シリル政権は大変長く続いたのである。


その後の皆の話を少ししよう。

 

クリストフは、あの夜会のあとすぐにプロポーズをし、ハンナと結婚した。何とトラウトマン公爵家に婿入りして、公爵を継いだのだ。ノルベルトは初めからそれを狙っていたらしい。

公爵になったクリストフは、そのままノルベルトの跡を継いで、宰相にも抜擢された。異例の出世である。

しかし、彼は稀代の名宰相としてその名を残した。妻のハンナは、子ができてからもずっと彼のすぐそばで、彼の補佐を務めた。

 

ヴィルヘルムはシリルの命ですぐに騎士団長となり、一度は分裂した騎士団をまとめ上げた。

彼は陞爵され、侯爵となった後、すぐにノイラート公爵家のアンネリーゼと結婚した。夫婦仲睦まじく、ヴィルヘルムは大変な愛妻家としても知られることとなった。

また、彼は騎士団内部を改革し、国を守る組織としてより強靭に仕上げるという功績も残した。

 

ダークは隠密を止めて、シリルの護衛騎士となった。

彼は表で護衛をしつつ、裏で諜報も担い、シリルの政権を支えた。

そして妹ルーチェも成長した後、十五歳で近衛騎士団に入団して活躍することとなった。

ダークとルーチェは、シリルにラインハルトという姓を与えられた。そして両者ともに、それぞれ騎士爵を与えられたのだ。

ダークは成長した後、スージーという侍女と結婚した。彼女は生涯、フェリシア付きの侍女を務めることになる。

ルーチェも成長後、近衛騎士団のゲルトという男性と恋愛結婚をした。

 

ココとルイーザも無事に結ばれた。二人は夜会前には、既に恋人になっていたようだ。

ココはしばらくの間、中央で政治を担った。そして三十でルイーザを連れて森に戻り、ディルカ族の長となった。

ディルカ族はシリルと良好な関係を築き続け、大変繁栄した。

 

また、シリル政権の重要人物としてはマティス・ノイラートも挙げられる。彼は一度分裂した貴族を、よく取りまとめた。

息子の代になってからも貴族の団結力を強め、シリル政権を支えた。

 

植物学者マグダレーネは、その後も国の支援を受け、次々と新たな小麦品種や作物を開発した。

彼女は品種改良の始祖として研究史に名を残し、国から褒章を与えられた。

 

 

さて、臣下がそんな活躍をする中。

シリルとフェリシアはと言うと――――いつでも手を繋いでいる、大変仲の良いおしどり夫婦として、皆に広く知られるようになった。

 

シリルはフェイトラール王国の国難を幾度も乗り越えさせた名君として、国民から愛されることになる。

また、王妃フェリシアは彼を支える美しい賢妃として、国民から絶大な人気を誇った。

二人は子宝にも恵まれ、三人の王子と二人の姫が生まれた。家族で力を合わせて国を治め、王室はその後長きに渡って繁栄した。

 

二人の馴れ初めについては様々な憶測が語られ、沢山の創作物の対象になった。

中でも『シリルとフェリシア』というシンプルなタイトルの文学作品は、宰相クリストフの妻として有名なハンナ・ショーンが執筆したものだ。

その小説は、「侯爵令嬢を第二王子が拉致するところから始まる、驚きのラブロマンス」として、大変なベストセラーとなったのである。



 


fin.

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