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5-1決戦前夜

とうとうクーデターを起こす決戦の日、その前夜となった。明日の大きな夜会にはテオドール、ベルトを初めとする主要貴族が皆顔を揃える。そこでことを起こすのだ。


シリル陣営は、最後の確認を行なっていた。

 

「打ち合わせ通りだ。向こうの陣営の騎士たちを夜会中に拘束して間引くのが、ヴィルを中心としたチーム」

「はい」

「索敵にルイーザとココ。索敵結果を脳内伝達(チューニング)で受信するのがハンナ。それを聞いたヴィルが、他の騎士たちを現地に送って、次々と拘束する。動員できる騎士は十名」

「十分です」

「当日は俺が≪防音結界≫(サウンドバリアー)で守ります」

「よろしく頼むよ。クリストフとハンナまで巻き込んでしまってすまないね」

「ハンナは俺が守るので、大丈夫です」


クリストフの爆弾発言に、ハンナは真っ赤になってずずっと後ずさった。クリストフはその様子を見て、楽しそうに笑っている。どうやらやっと、積年の想いが届いたらしい。

シリルは微笑みながら続けた。


「別働で国王を助け出すのが、ダークを中心としたチーム」

「はい」

「ルーチェと、騎士五名を連れて行ってくれ。少数精鋭のチームにした」

「十分です」


ダークはやる気満々だ。ルーチェはここ最近、すっかり隠密としての動きをマスターし、兄を助けている。


「残りの騎士は俺たちと一緒に夜会会場へ。数が少なすぎても怪しまれるからね」

「向こうの騎士も、少しは残しておかないといけないわね」

「そうだね。テオドールの目を欺くことが重要だ。俺たちは、夜会中にヴィルのチームと合流。向こうの騎士を取り押さえるため、予定時刻になれば速やかに配置につくこと」

「「「はい!!」」」


成り行きをヴィルヘルムの横でじっと見ていたアンネリーゼが一歩進み出た。婚約してから、アンネリーゼも本格的にこちらの陣営に加わったのだ。


「守りは任せてほしいわ。私の守護が外れてしまったら、なるべく来てちょうだい」


アンネリーゼの魔法の一つは≪祈りの守護≫(メイデン・プレイヤー)。事前に守護を与えておいた人物を、あらゆる攻撃から守ることができるという強力なものだ。守護が発動するのは一度限りだが、お守りとして心強い。

だが、少し心配になったフェリシアは尋ねた。


「アンネの魔力は大丈夫そう?無理してない?」

「大丈夫よ。今まで時間をかけて、全員に守護を与えてきたから……今は、魔力に余裕があるの。一日十人くらいなら、当日なんとかできるわ」

「アンネリーゼの魔法は、俺の≪反射≫(リフレクション)の強化版だよね」

「シリルのは、遠隔でも瞬時に使えるし。また使い所がちがうわね」


アンネリーゼは微笑んで言った。


「アンネリーゼは≪治癒促進≫《メディケーション》も使える。回復の要でもある。敵に狙われないように、ヴィルには注意を払ってほしい」

「必ず護ります」


ヴィルヘルムが頼もしく答えた。


「では各自、明日のもう一度動き方を復習。共に頑張ろう!!」


その場にいる全員が、力強く返事をした。一致団結だ。

 


♦︎♢♦︎



夜、二人は沢山泣いた。これが最後かもしれないと思ったからである。

 

「全部が無事に終わったら……早く、結婚しようね」


しかし、寝る寸前になって、シリルは小さくそう言った。僅かだが、微笑んでいる。

フェリシアはそれだけで幸せいっぱいになった。

 

「きっと乗り越えられるわ」

「うん、きっと幸せになれるよ…………」


二人はその日、手をしっかりと繋いで眠った。フェリシアの頭の中には、明日の危険なビジョンがいくつも流れ込んできたが、その日はシリルに伝えなかった。

全ては明日で良い。そう思ったからだ。


――どうか明日の夜も、無事に、一緒に眠れますように。

心の底からそう願った。

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