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4-10 流星群の下で

ある晩、シリルとフェリシアは手を繋いで、少し高い場所のバルコニーに出た。

シリルが「見せたいものがある」と言ったのである。

 

そうして辿り着いたバルコニーで、フェリシアが空を見上げると……文字通り、星が降っていた。


「すごい……綺麗……!!」

「今日は、流星群の見える日なんだ。実はタイミングを見計らってたんだけど、綺麗に見えて良かった」


そう言ったシリルは、隠し持っていたらしい小箱を取り出した。緊張した面持ちで、赤いベルベットで覆われた箱の蓋を静かに開ける。


「えっ……指輪…………!?」


そこに入っていたのは、美しいダイヤモンドが嵌められた指輪だった。

 

「俺は……君と、仮初なんかで婚約してしまって。それにもう、君を沢山もらっているけど……。改めて、きちんと申し込ませてほしい」


煌めくアクアマリンの瞳は、ダイヤモンドと同じくらいに綺麗だ。彼の目はいつでも、フェリシアだけをひたむきに見つめている。

 

「愛しいシア。俺と結婚してください」


フェリシアは思わず、ほろりと透明な涙を零した。迷わずそれを受け取る。

 

「はい……」


涙で震える声で、やっと返事をした。シリルはそれで一気に緊張が解けたようで、ふにゃっと笑った。


「良かった……緊張した」

「すごく、嬉しい……。嬉しいに、決まってるわ……」

「ありがとう……。嵌めてみても、いい?」

「うん……」


長い指が、そっと指輪を持ち上げる。ゆっくりと嵌められたそれは、フェリシアの薬指にぴったりだった。

星空にかざしてみる。星の光を反射してキラキラと輝いて、まるで夢みたいだった。


「シア。少しだけ先の話になるけど……クーデターが成功したら、なるべく早く結婚できるように、準備を進めたいと思っているんだ。良い……?」

「ええ、わかったわ」


それからシリルは少し言い淀んだ後、もう一度フェリシアの瞳をはっきりと見つめた。その目はとても辛そうに、歪められていた。

 

「正直な、話をするよ…………シア」

「うん、なあに?」


フェリシアは両手で、優しくシリルの手を包み込んだ。彼の手は、ほんの少しだけ震えていた。

 

「クーデターの実現が、近付いてきて……俺は今、すごく不安なんだ……」

「どうして?」

「君が、死ぬのを……クーデターで、何度も、何度も。見てきた、から……」

「そっか……」


まるで血を吐き出すように、シリルが小さく零した言葉を、静かに受け止める。

最近は随分と前向きなことが多かったが、長年かけてできた心の傷は、すぐに癒えるわけがない。その傷はこれから長い間一緒にいることで、少しずつ癒していくべきものだ。フェリシアはそのことを、よく分かっていた。

 

「今回の周に、俺は全部賭けてる。君と想い合えて、今……こんなに、幸せだ。……幸せだからこそ、すごく、怖いんだ…………」

「大丈夫よ……。一緒に、乗り越えましょう?」


フェリシアは、そっとシリルを抱き締めた。

 

「二人で、一緒だから。きっと……大丈夫よ」

「うん……」


シリルはフェリシアを抱き締め返しながら、少しだけ泣いていた。



♦︎♢♦︎



「今日は、すごく良い思い出になったわ。ありがとう、シリル」

「それなら良かった。……抱いた後に連れ出したのは、本当にごめん。上手く我慢できなかった」

「ふふ。それ、謝りすぎよ?」


ベッドで眠りにつく前、いつものように抱き締め合う。最近のシリルは、以前ほど悪夢にうなされていない様子だ。


「そう言えば、今日は特に危険な未来は見えなかった?」

「うん。フェリシア種のパンの、黄金比率が見つかったくらいよ?」

「うん、平和だね。それは最高だ」


シリルはくすくすと笑った。フェリシアも一緒に笑う。そうして二人、ぐっすりと眠った。


全てが上手くいくと良い。

心の底から、そう願う夜だった。

これで第四章は終わりです。

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