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4-1 二人で二周目

シリルと二人で挑む『二周目』が始まった。シリル曰く、この周は今までと全く違い、異質だと言うことだ。


まず、前回の周との『ずれ』が全くなかった。

ダークやルーチェなど、小説に登場しない面々が同じように仲間になったのだ。


「皆とまた会えたのは嬉しいけど、全くの初対面に戻っているのは、やっぱりショックね……」

「そうだよね……。シア、大丈夫……?」

「私は、貴方がいるから大丈夫よ。でも、シリルは……ずっと一人で、こんな辛い思いをしてきたんだなって……」


フェリシアは俯きながら言った。シリルは何度忘れられても、自分を想ってくれたのだ。想像を絶するほどの孤独の中で、彼は一体どれほど辛かったことだろう。

しかしシリルはとても優しい顔をして、フェリシアの手をぎゅっと包みながら言った。

 

「シア、ありがとう……。でも、今回は君が覚えていてくれたから、全然違う。俺はいま、幸せだよ」

「そっか……」


二人はそうしてお互いを励まし合いながら、辛さを乗り越えていった。

時間を掛ければ、仲間たちとはまたしっかりと心を通わせることができた。


他のことも、細かなことまで前回と全く同じだった。植物学者マグダレーネが協力者になったし、ライカ芋が見つかった。なので今回は、大変スムーズにことを進められた。

水害が起こる日も、氾濫の場所も同じだったので、前回よりも更に被害を防ぐことができた。ディルカ族のことも、より早く助けることができた。


前回と違った点が、一つだけある。祝福の鏡が、初めから存在しないアイテムになっていたことだ。

ディルカ族の長老に聞いても、そんなものは知らないとのことだった。心の色を見ても嘘の色じゃなかったので、この世界線には存在しない物なのだろう。あの鏡は、あの時にもう役目を終えたのだ。

 

二人で相談し、今回の周で変えたこともある。

信頼できると判断した者には、シリルの『繰り返し』の話をすることにしたのだ。これまで積み重ねたシリルの経験を共有すれば、今回の周に活かせると思ったのである。

実働しているシリル陣営では、クリストフ、ハンナ、ダーク、ルーチェ、ココの全員が、『繰り返し』のことを既に知っている。


そして二人は思い切って、ノイラート公マティスと、トラウトマン公ノルベルトにも、『繰り返し』のことを話した。

公爵二人と相談した結果、今回は堂々と第二王子派閥を作るのではなく、水面下でひっそりと仲間を増やしていくことになった。テオドールの増長を許しているという形を、敢えて作るのだ。そうして、こちらを攻撃する動機を与えないようにする。

全てを詳らかにするのは、クーデターの時だ。大っぴらに活動できない点は痛手だが、安全性を第一に取ることにした。

 

それから、フェリシアとシリルは、テオドールの参加している夜会を徹底的に避けた。前回のような武力鎮圧を起こされては、まだ対抗できないからである。



♦︎♢♦︎

 

 

その日は仕事を早く切り上げ、事情を知る者たちだけで食事をしながら、雑談をしていた。

クリストフの≪防音結界≫(サウンドバリアー)を発動しているので、機密性の高い話でも堂々とできるのだ。

 

「えっ……あの、俺。ものすごい恐ろしいことに気づいたんですけど……」


連日の激務でやつれ気味のクリストフが、顔を青褪めさせて言った。

 

「何?」

「シリル様って……こ、この激務の生活を、何十年も、繰り返してるってことですか……!?」

「まあ、大体は。全てを放棄してシアと逃げようとしたこともあったけど、ダメだったし……」

「し、信じられない……!!ヒエエ……!!」


クリストフは、恐ろしいお化けでも見たような顔をしている。しかし隣に座ったハンナは、メガネをクイっと直しながら生真面目に言った。

 

「いえ……でも、納得ですわ。十代の王子が突然、ここまで政務を上手く回せるようでは……逆に怖いです」

「それはそう。俺は、慣れてるからね」

「確かに!シリル様は、何十年も王様をやっているような貫禄があります!」


ココが目をキラキラさせて言った。まあ実際、シリルはそれくらいの経験を積んでいるということになるだろう。

 

水害を乗り越えた今は、冷害に向けて備えている真っ際中だ。今の季節は二年目の初夏。ここから冷夏になり、冷害が始まるのだ。


「品種改良の進み具合は、どうなんですか?」

「前回と同じだから、すごく効率よく進んでるよ。来年の夏には間に合うんじゃないかな?」

「この冬を、小麦の備蓄とライカ芋で乗り切れば……何とかなる見込みが高いってことですね。となると、計算の前提が変わってくるな……」


クリストフは、またぶつぶつと計算をし始めた。今は休憩中なのに、これはもう立派な職業病である。しかしその様子を、隣に座ったハンナはうっとりとしながら見つめていた。こちらもある意味重症だ。

 

「早急の課題は、騎士団の掌握だな……」


シリルが呟いた。騎士団長と王太子が完全に癒着しているので、クーデターを起こそうにも武力が足りなさすぎる。そこでフェリシアが尋ねた。

 

「今までの周で、騎士団の掌握が上手くいったことはあるの?」

「あるよ。鍵は、副団長ヴィルヘルムだ。上手くクーデターまで漕ぎ着けた周も、何度かあったけど……その時は全部、ヴィルヘルムに騎士団の掌握を担ってもらった。彼は小説に登場するから。毎回必ず居たしね」


アンネリーゼの想い人ヴィルヘルムは、やはりキーマンのようだ。しかし今のところ、上手く接触できていない。

 

「クーデターが成功したことは、一度もないのよね?」

「ない。毎回、クーデターの最中に……シアが攻撃されて、死んでしまった。だから、クーデターを乗り越えたことは一度もないんだ」

「それも対策を考えないといけないわね……」

「私、常にお兄ちゃんと影に潜んで、≪運命拒否≫(オート・キャンセル)を発動できるようにします!」

「ルーチェ、大丈夫なの?」

「大丈夫です。私も今、隠密としての動きをお兄ちゃんに習っているので!」

「俺がしっかり教えます」


ダークとルーチェもやる気満々だ。頼もしい仲間たちがいるから心強い。

皆でくだらない話などもしながら、その日は楽しい時を過ごして解散となった。

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