2-2 悪夢
シリルとフェリシアの秘密の逢瀬は続いていた。
別れ際、キスをするのだ。
「ん………………」
触って貰えば触って貰うほど、この人に触れられたくなる。もっともっと近づきたくなる。
好きになってもらえなくても、この人が好き。
フェリシアはそんな気持ちを一生懸命しまいながら、シリルに言ったのだった。
「お芋……見つかったよ」
「…………え!?」
「ライカ芋っていう品種がいいみたい。いま未来の一つで見えたの。辺境にマグダレーネっていう良い植物学者もいるわ」
「粘膜接触…………効果あるんだな」
「うん…………」
また、この触れ合いを止めなくて良い理由ができた。フェリシアはホッとした。
「ホッとした顔してる」
「だって……嬉しいから」
「なんでそういうこと言うかな……俺、我慢できなくなるよ……」
「しなくて良いよ?」
シリルは泣き出しそうな顔でフェリシアの細い体をぎゅっと抱き締めて、言った。
「シア……俺は君を大事にしたい」
「大事にされてるよ?シリルが触ってくれる手は、いつだって優しくて心地良いもの」
「……そうなの?」
「うん。だからキスして欲しくなるの…………」
シリルにぎゅっと抱きつき返して、その頭を撫でる。
この人が本心で何を考えているのかは、分からない。
それでもフェリシアは、今この人に触れていたかった。
するとシリルが意外な提案をして来た。
「シアを抱きしめて寝ても良い……?」
フェリシアは満開の笑顔で答えた。
「もちろん!」
「ありがとう、シア」
シリルは愛おしげに、フェリシアをぎゅっと抱き竦めた。
身を清めた後寝衣になって、シリルに抱き枕をしてもらう。すぐちかくに人形みたいな綺麗な顔があって、緊張した。
「シリル、綺麗だね……」
「こっちのセリフ」
「?」
「おやすみ」
その日からフェリシアは、シリルの腕の中で眠るようになった。彼は女の子みたいに綺麗な顔をしているけど、身体は結構鍛えていて、逞しい。それに顔を預けて、彼のウッディーノートの香りを嗅いでいると、すぐに眠たくなるのだった。
それに、もう一つわかったことがある。
「…………――――!!!ぅ…………!!!」
シリルはしょっちゅう、ひどく魘されているのだ。ひどい脂汗をかいて、苦しそうに呻くのだ。そう言う時、シリルが決まって言う言葉があった。
「……――――シア…………!!シア、死なないで…………――――!!!」
シリルはフェリシアの夢を見ているようなのだ。それも、よくない夢を。
「――――――…………シア…………おれをおいていかないで……………………っ!!」
彼の目からは絶え間なくポロポロと透明な涙が零れ落ちる。だからフェリシアは必死にシリルを抱き締めて言った。
「シリル、大丈夫。フェリシアよ。ここにいるよ」
「――…………シア………………忘れないで…………」
「忘れないよ。置いていかないよ。ずっと傍に居るよ」
「シア………………シア……………………よかった…………」
そうするとシリルは悪夢から覚めて、安心するようだった。シリル自身は夜こうして魘されていることに、自覚がないようだ。
あなたは私に、一体何を隠しているの……?
フェリシアの疑念はつきないが、ただシリルを安心させてやりたくて。何度も名前を呼んで、抱き締めるようになったのだった。




