1-11 好きになっちゃダメだよ
フェリシアはシリルに部屋まで送られた。そこで手を離し、彼が切りつけられていた場所をぎゅっと押した。
「痛っ……!!」
「やっぱり痛むのね?もう…………念の為消毒して包帯を巻くわ」
「もう塞がっているから、大丈夫……」
「大丈夫じゃないわ。ベッドに座って」
「…………はい」
フェリシアが冷たい声でぴしゃりと言うと、シリルはしおらしくベッドに座った。騎士団に借りてきた救急箱を開けて、手早く処置していく。
「……慣れてるね」
「前世医者だったのよ」
「そうなんだ」
順番に傷を見ていく。傷は塞がっていて止血できているものの、やはりダメージ自体は残っているようだった。丁寧に包帯を巻きながら、フェリシアの薄緑の目からはぽろぽろと涙が零れ始めた。
「……どうして泣いているの?」
「貴方の戦い方、私は好きじゃないわ」
「…………」
「自分の身をもっと守って欲しい。貴方が傷つくのは嫌」
「…………うん」
静かになった部屋で、しゅるしゅると包帯を巻いて手当をしていく。シリルは身体までとても綺麗だった。最後に隣に座って、シリルの頬に手を当てた。
「できたわ。…………もう無茶はしないって、約束してくれる?」
「うん、わかった」
「良い子ね」
するすると撫でると、アクアマリンの瞳が心地良さそうに細められる。まるで子供みたいな、あどけない表情だった。フェリシアはまた、シリルの孤独を垣間見た気がした。
――私は、この人がどうしようもなく好きなんだ。
フェリシアはそう思い知った。その衝動のままに、シリルにちゅっと口付けた。
「…………っ、ダメだ、シア」
「なに……?」
「今は、ダメだ……。君に触れたくなる…………俺は行くよ」
フェリシアは去ろうとするシリルの服の裾を、くいと引っ張った。この人を独りにしたくなかった。
「触れて良いわ」
「え……」
「シリルになら、良いわ」
「…………!!」
シリルは、待てを解かれた犬のように勢いよく、フェリシアを押し倒した。そのまま覆い被らされ、口を塞がれる。
「ん………………」
口が離され、アクアマリンと間近で目線が合った。フェリシアは思わず告げようとした。
「シリル。シリル…………私、貴方のこと…………」
するとシリルは、フェリシアの唇にとんと指を当てた。それ以上は言わせない、というように。
「俺みたいなのを、好きになっちゃダメだよ」
「…………」
「ダメだよ、シア」
「…………想うだけ、でも?」
「…………うん、ダメだ」
そう言われるんじゃないかと、何となく思ってた。
こんなに優しく触れてくれるのに、どうしてダメなの?
貴方はどうしてそんなに、悲しそうなの?
他に、好きな人がいるから……?
フェリシアはポロポロと、絶え間なく涙を零した。その涙を、シリルはまた優しく拭った。
疲れ切ったフェリシアが眠ってしまうまで、彼はずっとそうしていた。




