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第3話


「あれ、これって……」


見下ろした先にあるのは、赤色のちいさな石だった。

見覚えがある。ありすぎる。

確か名前は"隷属の石"で、その名の通り相手を強制的に従えさせることができるやつだ。

本来は闇市などで売買されているものだが、たまに性根の腐った貴族などが持っていることもある。

そう、あのタルダリーヤのように。

あんまり見ていて気持ちのいいものではないが、俺の魂はこいつに縛られてるから――ん?


「えっ!あれ!?なんでここにあるんだ!?」


隷属の石は2つあって、ひとつは隷属させる側、もうひとつは隷属する側が持つことによって効力を発揮する。

俺の場合は、俺が隷属する側の石を持ち、タルダリーヤが隷属させる側の石を持っているという訳だ。

見に触れるだけでも効力はあるが、俺の場合はさらに強い効力を得るために体内に埋め込まれているはず。

そしてもうひとつはタルダリーヤが持っているから……。


「俺、自由になった……のか?」


胸の奥底から、嬉しいやらわくわくやら期待やら不安やらが全部一緒くたになって湧き上がってくる。


「自由、自由なんだ!!やった!!」


そして歓喜のままに走り出そうとした俺は――何かに引っ張られるように動けなくなり、そのまま倒れ込んだ。

忘れていたが、そういえば俺はなんでか動けないのだった。

誰かに見られた訳でもないのに少し恥ずかしくなり、のそりと静かに起き上がる。


「なーんで動けないんだろうなぁ……」


小さな石の周りをぐるぐる。

こんなもの見たって楽しくはないが、なぜか動ける範囲の中心にはこいつがいて……。


「うわ、こいつかぁ!!」


絶対こいつのせいだ。

この中心にちょこんと存在している石によって、俺の行動範囲が狭められているのではないか?

つまり、悔しいが俺の魂はこいつに縛られていて、この石と離れることはできないのではないだろうか。

ということは、この石を持てば俺は自由に行動できる……?


「……俺、天才すぎ」


さぁそれでは早速。

先程まで俺に埋め込まれてたとかそんなことは気にしない。

雨で汚れとか血とか流れ落ちて綺麗なんじゃないかな。

こいつを見るだけでなんだか頭が痛いような気もしてくるが、なんとかそいつに手を伸ばして――すり抜けた。


「……ん?」


もう一度。

感覚が鈍っているのかも。

今度はしっかりと石を見定めて――再びすり抜けた。


「……ぇぇええええ!?!?」


なんですり抜けるんだ!?

ほかの石は?……すり抜ける!

草は?……すり抜ける!

そこら辺で微睡んでいる鳥は?……すり抜ける!


俺自身は……?


「あれ……俺、俺……」


色鮮やかな草はらの緑が、透ける。

遠く遠く広がる空の青が、透ける。

俺を縛り続けていた赤が、透ける。


濁流に飲み込まれたのにも関わらず、傷1つない俺の手が、淡白く透けていた。


「え、俺……死んだの?」


本来死んだ魂は、天へと昇り神様のところにかえるらしい。

いい事をした魂も、悪いことをした魂も、疲れきった魂も、みんな等しく天に昇って、そしてそこで罰を与えられるのだという。

罰の大きさは魂それぞれで、いい事をした魂は次が幸せな人生に、悪いことをした魂は苦しい人生に。

だから、悪いことはしてはいけないと。

神様は全てみているから。

だからいい事をするんだよ。

これが全世界に広まっているトワロ信仰である。


ただ1つ、例外がある。

"未練"が強く残ってしまった場合だ。

強い未練は魂を縛り付け、未練を果たすまで天に昇ることはできず、幽霊になってこの世界を彷徨うのだと言う。


つまり、俺は。


「ゆゆゆゆゆゆゆうれい!?!?」


未練があるから成仏できないけど魂が隷属の石に縛り付けられてるから俺はここから動くことが出来なくてそもそも未練が何なのかも分からないしいや未練が分かった所で動けないし


「……ん?」


ずっとこのままここに居続けるなんて無理だ無理すぎるやっと自由になれたと思ったのになんでだよせめて成仏させてくれよ頼むよ後生だからさ


「これはなかなかいい素材だ……マイヤ」

「……は、はい!」


そういえばお母さんたち元気かな俺が逃げ出したからもしかしたら酷い目にあってるかも……いやあの人達はそんなにヤワじゃないしなんならおれの方が大変なんだよなそうだよそうなんだよ


「わ!わわわ!!!なんですかこの素材!」

「僕の剣を強化したいんだが、どうだろう」


あーーー本当にどうしよう俺の未練って何なんだよ王都にある美味しいケーキを食べれなかったことかいやあの小さな街で出会った女の子に告白できなかったことかないややっぱり


「や、やってみます……!」

「頼む」

「はい、が、頑張ります……!!」


……こんな事ならタルダリーヤの野郎に一発ぶち込んでおけばよかった――。


「ユナイト」


「なっ、なんだぁ!?」


気づけば目の前が真っ白に光り輝いて、俺は思わず目をぎゅっと閉じてしまう。

痛くなるほど眩いそれはやがて段々と小さくなっていき、そして……。


「……っ!」

「だ、誰だお前!?!?」

「君こそ……いったいどこから……」


目を開いた先には、美しい海が広がっていた。

太陽の光を受けてきらきらと輝く金色の髪と、その海を掬いとったようなブルーグリーンの瞳に思わず目を奪われる。


「ろ、ロイアー様?どうしたんですか……?」

「おーい!いったい何事だ!?」

「……いや、それが、僕にも分からないんだ……」


ふと気づけば、回りが賑やかになっていた。

ブルーグリーンから目を離して隣を見れば、おどおどとした女の子が。

向こうからやってくるのはガタイのいい男と、うさぎの耳が生えた溌剌そうな女の子、そしてのんびりと歩く魔性のお姉さん……。

あ、ごめん、ガタイのいい人、ちょっと近いかも……あ、透けてる透けてる、そこ俺の左膝……。


「……皆には、見えないのか?」

「何の話だァ?」

「いや……今、ここに良い素材が落ちていたから、マイヤに錬金してもらったのだが」

「はあああ!?!?」


どうやら俺の姿は目の前の男にしか見えていないようだが、そんな事はどうでもいい。

今、こいつはなんて言った?

ここに落ちていた素材を……。


「錬金した!?!?!?」


嘘だろ、じゃあ俺は今、こいつの手にある剣に縛り付けられてるってことか――!?

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