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珈琲


 コーヒーが普通に飲めるようになったのは、スティービーワンダーがCMに出ていた缶コーヒーを飲むようになってからでした。今はいろんな色の缶が出てるけど、あの当時は金と銀の2色だけでした。


 CM曲の非売品アルバムが欲しくて、一生分の缶コーヒーを飲みまくりました。おかげさまで、無事に当選が商品の発送とともに知らされました。


 そのアルバム、まだ大事にとってます。



 子供のころ週末に家族で出かけると、必ず喫茶店に寄りました。

 コーヒーなんて飲めなかったので、私はオレンジジュースです。

 でも子供心に、このケーキに合うのは絶対にオレンジジュースじゃねえんだよなあ……なんて生意気なことを考えてました。


 やっぱり喫茶店に出てくるケーキはコーヒーに合うケーキなんですよね。やっぱケーキにはコーヒーです。


 喫茶店に行くたび、親が「コロンビアで」とか「グァテマラで」とか頼んでるのが、なんか超かっこよくて、うちの親スゲーって思ってました。(ちなみに私はコロンビアもグァテマラも実はちょっと苦手です)



 巷では雰囲気だけのなんちゃってカフェみたいなのばっかり増えて、本当に美味いコーヒーを出してくれる喫茶店って減ってしまいましたよね。

 チェーンの喫茶店もガチャガチャうるさくて好きではありません。


 でもね。


 すっげえいい店見つけたんすよ。


 客、全然入ってないんすけど。なぜならめっちゃ店に入りづらい雰囲気だから。でもねそういう店が最高なんすよ。


 ただ営業時間が私の勤務時間中なんで、なかなか顔出せないんです。


 たまたま別件でその店に寄れる時間ができたんです。わくわくしながら入りました。


 メニューがね、素敵なんです。


 浅煎り、中煎り、深煎り別にブレンドや豆が表記されてるんです。


 まだ飲んだことない豆の種類もたくさんありました。

 ちなみに初入店時は無難に中煎りブレンドを注文し、ちゃんと美味しかったのを確認済みなので、今回は良さげなストレートを頼むつもりで入店しました。


 スペシャリティコーヒーをストレートで。

 ああもう、なんたる贅沢。

 でもさ、仕事頑張ってるんだし、たまには贅沢したっていいよね!


 どうしよ。悩む。

 なかなかいいお値段するしな。

 せっかくなら自分の家じゃ絶対に飲めないやつを選びたい。


 今日の気分は珍しく浅煎りだ。


 あんまり浅煎りって飲まないから、豆の名前見ても全然ピンとこない。


 そこで目に止まったのがゲイシャの文字でした。


 ごめんなさい。深煎り派の私は実はその時あんまりゲイシャのことがよく分かってませんでした。

 コーヒー界のトップオブザトップの御方だったなんて。お会いできて光栄ですと頭を下げなければいけないコーヒー様でございました。


 ただ値段がすんごい高くてびっくりしました。


 高くて失敗したらやだなってビビってゲイシャ・ブレンドを選んだ無知なヘタレでした。

 次に行った時は絶対にストレートでゲイシャを選びます。いえ、言い直します。ゲイシャ様を選ばさせていただきます。



 カップがテーブルに運ばれてきた時の香りからすでに別格でした。


 甘くて、柔らくて、深い香りが広がります。


 やばい。これ絶対にやばい。香りでもうやばい。これもう絶対にやばい。(すでに語彙力崩壊)


 速やかに手に持っていたスマホをしまい、姿勢を正して真摯にゲイシャブレンド様に向き合いました。


 カップから立ちのぼる湯気が鼻腔をくすぐり、驚きました。


 自分の知ってるコーヒーの香りと、あまりにも違うので。


 唇に触れるコーヒーの温度もすごく優しい温かさなんです。

 実は私は猫舌なんですけど、そのコーヒーはすぐに口をつけることができました。


 後で知ったんですが、ゲイシャの香りが壊れないように高温抽出はNGなんだそうです。


 溶けるように口の中で甘さと香りが膨らんでいくんです。こんなに調和の取れた味のコーヒーを初めて飲みました。


 ねえ! なにこれ! こんなコーヒー初めて飲んだんだけど! ねえ! すごくない!? こんな美味しいコーヒー飲んだの初めてなんだけど! 温度からカップの口当たりから全てにおいてパーフェクトなんですけど! ねえちょっと誰か聞いてー!!


 誰かと感動を分かち合いたいのに、客は私ひとりしかいません。ガラガラの貸し切りです。


 すっごく時間をかけてコーヒーを飲みました。


 これはね、ゆっくり時間をかけて飲んだ方が、きっと淹れてくれたバリスタさんへの誠意だと思うんだ。だからきっとバリスタさんだって、コーヒー一杯でいつまで粘るんだこの客は……なんて思ってないと思うんだ! そんな言い訳を自分にしつつ。(でも半ば本気)


 ただただ一杯のコーヒーとだけ向き合い、他にはなんにも考えず、自分の感覚を全てコーヒーを飲む空間だけに切り替えました。


 味わわなければもったいない。


 スマホ片手に飲むなんてもったいない。


 そんな気持ちにさせてくれるコーヒーでした。

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