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犬を飼う  作者: 森三治郎
7/12

7、出産


 10月27日、10月も、もうすぐ終わる。この日一日中雨が降り続き、夜半まで降っていた。その夜、マルがヘンだった。珍しく食欲がなかった。

おかしいな~と思っていたら、吐いてしまった。身体をなでると、ブルブル震えている。

「マル、どうした」と聞いても、マルはあらぬ方向を見るばかりだ。

そのくせ何事か訴えるごとく、甘えるがごとく「クウ~、クウ~」と苦しそうに鳴く。

「ハッ、ハッ」と呼吸も荒い。

寒かろうと敷いた古シーツを、前足で叩いたり、引っ張ったりと不思議な動作をしている。

 苦しそうな様子は、間欠的に夜半まで続いていた。このまま、よくならないようなら明日にでも先生に相談してみよう。


 翌朝、見たら、トイレシートとその下に敷いた新聞紙がメチャクチャに千切られて、木の葉を敷き詰めたようになっていた。

「マル、お前・・・・」

朝の散歩は、出てすぐに引き返してしまった。食欲はない。時々、思い出したように鳴き、そしてうずくまって震えている。

その日、夕方になって病院へ行った。

「妊娠ですね。もうすぐ生まれるのですよ」とのことだった。

すべてが氷解する思いがした。この前の具合の悪さは、ツワリだったのだ。間欠的な痛みは陣痛だったのだ。

まだまだ先のことだと思っていたのに、里親の心配がにわかに差し迫った現実の問題となってきた。幸い、先生方も里親探しに協力してくれるとのことで、心強い。ありがたい。


 家に帰ってからも、マルは何となく落ち着かない。初産何だから、仕方ないんだろうと思っていた。しかし、どうも様子がヘンだ。ムダ吠えなんかしない、たとえ泥棒なんかが来ても吠えそうもないマルが誰もいない闇に向かって「オオ~ン」と吠えている。

不審に思い外を見たが、誰もいない。

「マル、どうしたんだ」と聞いても、落ち着きなくうろつくばかりだ。

 しばらくして、「ヒー!」と切迫した悲鳴をあげた。ついで「キャッキャーン」と、甲高い悲鳴をあげて、マルがいきなり子を産み落とした。

「近々ですよ」と言われていたが、今日この日の夜とは思わなかった。

 私は、生々しく、衝撃的で、感動的な瞬間を目の当たりにした。

マルは子犬を産むと、すぐさま胎盤やら、何やら、羊水ごと生れ出た子犬をなめ始めた。マルはノーテンキでも無自覚でもない、ごく当たり前の立派な母親だった。

産んだ瞬間から、母となった。今までのワガママな甘ったれが、いきなり母親に変身した。


 女とは、何というドラマチックな生き物なんだろう。母とは、何と偉大なんだろうか。

私はなすすべもなく、呆然と見つめていた。

しばらくして、マルが急に立ち上がった。落ち着きなく、ウロウロと歩き回ってから又「ヒー、キャキャーン」と前と同じ、甲高い悲痛な叫びをあげて、第二子を産み落とした。

そういう事が、四回あった。

四度目の出産を終え「マル、よくやった」と声をかけた時には、もうだいぶ夜もふけていた。


 四匹の子犬は、いずれも丸々と健康そうだ。ビロードのような毛並みをして、顔も丸っぽく“ムーミン”の出来損ないみたいだ。「ミャアミャア」と鳴いている。

 ビロードの色と柄が、四つの個性を示していた。


第一子 オス、薄い栗色、頭頂部分が薄く尾に向かい少しずつ濃くなっている。前足首と腹の一部が白。鼻の付近と後ろ足首が黒っぽい。父親似。


第二子 メス、一子より濃い薄い栗色。口鼻付近白。そのから顔の真ん中に棒状に白が額まで伸びている。下腹全体と両足首、および尾の先が白。

鼻がピンク。一番小柄、模様がオシャレ。


第三子 オス、ブラウン基調に黒の微かな細かい縞模様。鼻付近、尾が黒っぽい。下腹は薄いブラウン。身体の色が母親似。


第四子 オス、一子より濃い栗色。配色は一子と似ている。

元気がいい。


 マルはすっかり母親になり、腹もすっきりした。私と暮らし始めた頃の体型に、戻ったようだ。


母は偉いですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >母は偉いですね。 そうですね(^ω^) 偉くて、そして強い。 新しい命のため、強くなるのだと、そう感じました。
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