俺より明らかに変人がいるじゃないですか
次の日、ニューヨークにあるホテルの一室で目が覚めた。
部屋の中を靴で移動するのが慣れないっす。何でまだニューヨークにいるかというとね、ボストン向かうにと着くのが夜になると思ったからなんだよね。
早めにチェックインしたんだ。なのにやることが無くて超早く寝たのよ。
コーヒーを淹れながら、テレビをつける。
「昨日、政府関係の建物が跡形もなく崩壊し、行方不明者が多数出ています。遺体のような形跡を多数発見しましたが、どれも人の形をしておらず、身元確認が遅れております」
「何があったのでしょうか」
「恐らく、能力者の仕業だと思うね。あんなに大きかった施設を一日で更地にするなんて不可能だ」
「確かにそうですね。どのような能力だと思いますか?危険性はどれほどでしょうか」
「正しくは分からないけど、何かで潰す能力だと思うね。跡地をみると巨人が足踏みしたのかと思ったよ。危険性は遥かに高いね」
「ボストンでは土砂と森林化の被害が相次いでいますが、何か関係性はあるのでしょうか」
「どうだろうね。同一人物では無いと思うから、今このアメリカに、ふたり以上はいるんだろうね。凶悪な殺人者が」
昨日ぶっ壊した建物がニュースになっていた。キャスターが能力者がいると、意気揚々と話している。なんの能力なのかと解説するニュース番組まであるよ。まだ朝の5時だぜ?さすがハリウッドの国。
昨日の事もあるし、オリジナルスキル《変人》の説明がグレードアップしてたから、他にも更新されているかもしれない。改めてスキルの確認するか。
心の中でスキル表示をイメージする。
目の前に青色のモノリスが現れた。
──
名前:タキ オサム (21)
種族:人間 変人
七秘宝
・運命の秘宝〈運命を統べる〉
オリジナルスキル
・変人(固定)
・引力操作(固定)
・干渉の権能
スキル
・収納箱
・進化
・可能性
──
「っ!!」
おおお!原因はわからないけど、〈lock〉や〈ーーーー〉とかで隠されていた《運命の秘宝》の効果がわかるようになってる!しかし運命を統べるとは一体。
そして、オリジナルスキルも増えている。
どこで手に入れたんだ?身に覚えがないけど……もしかして七秘宝の効果かな?
全部説明みるか。
──
オリジナルスキル《変人》
【自覚無き変人が人として変化する】
オリジナルスキル《引力操作》
【周囲の万物の引力関係を操作する】
オリジナルスキル《干渉の権能》
【干渉の権能を得る】
スキル《収納箱》
【インベントリに存在を収納する】
スキル《進化》
【何らかの進化条件必須スキル】
スキル《可能性》
【機会を得えて、より優れた運命を選択できる】
──
ふむ。開示情報が増えたのは人を殺した経験値とか?こればっかりはわからないな。
このシステムでは、よくある熟練度とか、レベルの概念が無いからね。
スキルは単なる媒体で、全てはイメージ力に依存している気がする。
ツッコミその1!
オリジナルスキル《変人》の説明また変わっとるがな。並べるとこうだ。
【人として変】
【変人が人として変形する】
そして、
【自覚無き変人が人として変化する】
……どういう事だ、説明文失礼だなおい。
能力の違いはわからない。変形と変化ってほぼ同じ意味だと思うんだが。
手を棒にするイメージをしてみる。できた。伸ばせるし。如意棒できるんじゃね?
そして顔の形も、変えられたね。これは変形の力かな?
手錠外した時は大活躍だったからな。説明が変化になっても、変形の時に使える能力が使えてよかった。
次に変化についてだけど……羽を生やすとか?
イメージしたけど、できなかった。できないんかーい。
その後、色々試したけど、結局違いがわからなかった。言葉の綾って事?まあ、便利スキルだから許そう。
しかし、自覚無き変人ってなんだよ。
まず俺変人じゃないから。
ツッコミその2!
オリジナルスキル《引力操作》めっちゃ強くなったよね。なんで?
説明では
【触れた万物の引力関係を操作する】これが、
【周囲の万物の引力関係を操作する】こうなった。
これは、オリジナルスキル《干渉の権能》の効果だろうか。それとも隠し経験値ボーナスとか熟練度upでもしたのだろうか。
そもそも、《変人》もそうだけど、スキルが強くなるってシステムは本当にあるのだろうか。
もしかして……スキル《可能性》と《進化》の影響だったりするかもしれない。
そしたら選んでよかったじゃん。まあ、審議だな。
でも、一部の空間を指定して通過したものに引力関係を操作するとか、戦術が広がったよな。
あの、弾丸を打ち下ろして無効化した時のやつ。
《干渉の権能》については干渉の権能を得るって話だけど、《引力操作》自体が存在する物に干渉するスキルだからな。
新しい力を手に入れたってより、既存の能力の幅が増したと考えるべきか。
でも効果がよくわからん。権能ってなんだし。
結局は何が原因でこのオリジナルスキルを手に入れたのか分からず終いだけどね。
そんなことを考えていると、朝の6時になっていた。
目の前に緑色の点滅するモノリスが表示された。
これは……プレイヤーが死んだって情報だ。直ぐに確認する。
──
【プレイヤー情報】
Player name ジャック が
Player name ドリフ・プードル をキルしました。
※【プレイヤー情報】は、殺した者の現在地の時刻を基準に、12時に全プレイヤーに通知されます。
プレイヤー総数が、41人になりました。
残り時間 1765/1781
──
ふーん、ジャックか。
携帯を収納箱から取り出して、ネットを確認する。今が12時の場所は、ここアメリカが朝6時だから……ヨーロッパか。
ヨーロッパで、ジャックというプレイヤーがいるのね。ニュースになってないかな。
ネットニュースを調べたが、ヨーロッパでスキルバトルがあったような大きな不思議事件は見つから無かった。
スキルとかの手がかりがあったら良かったんだけど。
ボストンのニュースを見てみるが、やはり森と土砂だらけ。このプレイヤーは何がしたいんだか。都会アマゾン化計画かな?
直接会って見る予定だし、そろそろ出発するかー!
ホテルから街を見下ろすと、ポリスがうじゃうじゃいたので顔を変えてホテルを後にした。
☆☆☆
次の日の昼、ボストンに着いた。
風景がこの世のものとは思えない、まるでアリのように小さくなってジャングルに飛び込んだような。そんな感覚だ。
話は聞いていたし、上空写真などを見てでっかい森林だな〜とは思っていたけど、この木の太さ、規格外だぞ。
そりゃ人がいないわけだ。暮らせるかこんな場所。というより、木が未だに成長を続けている。危険ってより、怖いな。
俺は今、美術館前にいるんだけど、これがまた酷い有様でね。
一度観光したかったから、中に入ったんだよ。そしたら室内まで泥と木の根っこ。
辛うじて残っていた芸術作品を見たけど、なんだ。正直に言うとよくわからなかったね。雰囲気はよかったし、ひとりで美術館って貸切みたいで最高だったよ。
途中、芸術作品か分からない人間の形をした臭いがやばい置物が散らかっていてさ。
あれがアメリカンジョークってか?たはっー!さすが世界の美術館!さすがに怖すぎたよ〜!臭かったし!
そんなこんなで歩いていたらね、建物崩壊してるから道に迷っちゃってさ。そろそろ臭いキツいから出口探してたんだけどね、なぜか地面が揺れてきてさ。
地震かな?って思ったんだよ。でも地震大国我が日本人として言えることはこれは地震じゃない。何かが迫ってくるような地鳴り?
地面に耳を当てていると急にズズズズ!!!って音がして建物揺れたんだよね。
あれ、これってもしかしてピンチ?やばい感じ?って思ったんだよ。そしたらこの広場の入口から土砂がドバーッ!まるで消防のホースから吹き出る水のような勢いで俺を襲ってくるわけ。
やっぱこれ割とピンチじゃん……どうしよっかなって思ったはいそれが今ここぉぉぉおおお!!!
咄嗟に天井を《引力操作》で吹き飛ばし、その穴から緊急脱出する。
──ドドドドドド!!!
低音と共に美術館が土砂に埋まっていった。これニュースでやってた土砂使いのプレイヤーじゃん。
ちなみに俺は、宙に浮いている。周りを見渡すと、渦巻く土石流にサーフィンボードに乗ってるウェイ系の上裸マッスルがいた。
土砂でサーフィンとは。
「Yo 兄ちゃん!何で浮いているんだYo 」
なんだコイツは。
「おい筋肉、何で土石流でサーフィンしてんだよ」
「……」
「……」
「Yo 兄ちゃん!俺の名前はジョイソンだ!よろしくな!」
「あぁ、よろしくな筋肉」
「……兄ちゃんの名前教えてくれよ」
「……まぁ、いいか。タキ オサムだ」
「っ!やっぱりな、ハハ!」
こっちみてベロ出しで笑ってくるんですけど!!
やばい。こいつ絶対やばいやつじゃん。見た目から中身までやばいやつじゃん。おい運営、ここに変人がいるぞ。
「おい筋肉、俺は敵対したいわけじゃない。お前は土砂使いだな?森林化もお前の仕業か?」
「それは違うYo!そいつはアンの仕業だ」
語尾のトーンが癇に障るわ。森林化は他のプレイヤーか。なるほどね、土砂だけでも強力なのに、ひとりでこんな土砂の入り交じった森林が作れるとかおかしいもんな。
鎌をかけてみることにした。
「アンはどこにいる?」
「秘密だYo!」
「なぜ庇う。お前らは喧嘩していたんだろ?」
そう、この間までコイツらは殺し合いをしていたのではと俺は考えている。ここまでの道のりや、土砂と森林の入り組んでいる感じが、戦っていたのではと予想していた。
「よく知ってるな!仲直りをしたんだYo!そして……ふたりで他のプレイヤーを殺すことにした。喧嘩は5年後の約束でね!」
想定通りだ。これは、戦う流れだな。筋肉が土砂をにぎにぎしている。何か仕掛けてくるのだろう。
まあ、戦うってより殺し合いか。だが、相手の能力は割れている。そして、向こうは俺の能力を知らない。
多分アンは隠れて隙を狙っているのだろう。
筋肉が叫んだ。
「《アップ・ロード!》!!」
地面が振動して、宙に浮く俺めがけて土砂が上昇してきた。その流れにサーフィンで乗り、登ってくる。
土石流。あれを喰らったらひとたまりもないだろう。
それを避け、収納箱から瓦礫を取り出した。ちなみに爆炎の遺産だ。
もちろん全て事前に触れてある。
「《瓦礫星》ッ!!」
「へへっ!Yo!Yo!」
機敏な動いて避けやがる。が、これは手動なので当たるまで追尾する。
「おお!追ってくるとは驚きだYo!《ウォール》!」
上昇する土砂から飛び出した、筋肉を守る土砂の壁は、瓦礫を呑み込み無力化した。
そして、土石流の頂点まで来た。俺と同じ高さだ。
「俺は一発KO最強オリジナルスキルを持っている!ここは俺の空間!逃げられないぜ。終わりだYo!」
思わず笑ってしまう。
「そうだな。お前も俺の近くまで来てくれた。終わりだな」
先に動いたのは筋肉の方だった。拳を前に掲げ、俺に向かって飛んでくる。
「《一撃の拳》ッ!!」
が、その拳は空振りした。
「な、んで避けられるんだYo!?」
そんなの決まっている。
「ここは俺の空間だからだ。そして、チェックメイト」
──ポン。
俺は、ジョイソンに触れた。