混乱の時代、暴走する二つ名
昭和のテレビか!と突っ込みたくなるようなノイズと共に、キャスターが画面に向けて必死に叫んでいる。
背後には、観覧車が壊れ倒壊する多くのビルが煙を上げている。
『危険です!みなとみらいにいる方は直ぐに離れてください!』
背後で爆発が起きた。キノコ雲が出来た。
いや、ハリウッドかよ。テロでも起きたのか?
『こちらヘリからの中継です!空中に人がいます!!その人が腕を振ると爆発がッ!!あ!こちらに来ましッ!ドオオオオオオオオン!!!!!』
そこで映像が途切れた。
いや、世紀末かよ。
ネットもやばい事になってる。
──
何この映像w朝らから映画じゃんwww
ニュース番組でドッキリじゃ済まされない。
でも、世界各地で不可解なテロが起きているらしいよ。自衛隊も動いているらしい。
能力者登場!?異世界転生ktkr!!
なわけないでしょ、でもおかしいよね。
実は俺、事情知ってるww
は?なんだよつまらなかったら殺すよ
能力者を授かったんだよねwちなw俺もwww
つまんな
つまんな
同感
いやw本当なんだってwww
──
「本当なんだよな……」
人間、力を手に入れたら何するか分からないよね。
でさ、このネットの人もプレイヤーだとしたら、俺含めて3人も日本人ってことになるのだろうか。平穏にこっそり秘宝集めたかったんだけどなぁ。
引力操作について、上手く使えるようになった。熟練度ってより、イメージ通りって感じだから、想像力があればもっと強くなれる感じ?空飛ぶとかできないからなんとも言えないけどね。
使い方次第でチートだと思うよ。
さて、テレビのプレイヤーの能力者はなんだろう。
爆発系の能力者だよな……できれば関わりたくないなぁ。
まあ大丈夫だよね。うちは埼玉の田舎だし。
と、思っていた時期がありました。
☆☆☆
世界が混乱してから2日後、俺は都会に来ていた。
政府は未だに科学的に証明できないからといって未知の技術を疑い自衛隊が巡回し、海外では能力者の存在を認め、機関銃でバトっているらしい。爆発的に巨大化した森林化が起きたとか。都市を呑み込んだとか。環境問題解決じゃん。初代がエドテンされたと世界のファン達が湧いてたな。俺も湧いた。
そんな中、なぜ都会に来たかって?
俺の数少ない友人に誘われたからさ。ラインがきて『明日、15時、俺ん家集合、君に拒否権はない』これ信じられないけどいつも通りの呼び出し文句です。マナーなってないよね。仲良いから良いけど。
まあ世の中の混乱っぷりをこの目で見たかったし、あわよくば秘宝ラッキーゲットイベントあるかなって来たはいいけど、人混み凄くてね、能力者騒ぎの渦中にあるとは思えない人混み。
俺らはこうして社畜になるんか、嫌だなぁ。
と、思っていたんだよね。そしたら電車の窓の向こうにね、テレビで公開されてた見覚えのある顔したメンズが浮いてこっち見てるのよ。
で、手を振り下ろすわけ。
みなとみらいのテロ起こした日本人。青年風高校生君じゃん。あれこれ爆発すんじゃね?って思ったんだ。はいそれが今ここぉぉぉおおお!!!
──ドゴオオオオオンッ!!!!
激しい爆発音が鳴り、電車がくの字に曲がって脱線していく。俺はそれを電車の外で、飛ばされた車の後ろに身を隠していた。
ふう、無傷です。
しかし、こうしちゃいれない。だってこっちめっちゃ睨んでくるもん。
え、俺?やめてよ注目されちゃうじゃん。この情報化社会で顔見せるとか自殺行為じゃん。
咄嗟に手ぬぐいで鼻から下を隠した。帽子はさっきから被ってる。
完全防備ですね。防御力は皆無ですが。
「おい、何で生きてる!!」
めっちゃこっちみてくる。周りは俺しかいない。絶対話しかけてきてるじゃん。
「窓割って逃げたから」
凄い怒ってるので、早口で答えてあげた。そう、爆発する一瞬で、俺は窓ガラスに触れて、線路脇の小石を指定して、窓ガラスの引力を引き上げた。すると窓ガラスが小石にめがけて吹き飛び、俺はその穴から抜け出した。
自身の引力を操作、道路や車、建物等を交互に指定して、加速的に避難した。イメージは見えない糸使いのスパイダーマン。
「何の能力だよ!!」
「秘密だよ。それよりも君誰?名乗ってよ」
初対面で能力教えるわけないでしょ。よーく見たらやっぱり高校生くらいの顔の若さ。テレビで見た通り青年風高校生君じゃん。
名乗れと言ったら、急に機嫌よくなってる。
「俺の名前は、爆炎の直斗だ!聞いて驚け!俺は《爆発生成》の能力者だ!!」
爆炎の直斗wwwwww
あれw自分で二つ名つけたのかなwww
てか爆発生成なのに爆炎てww
思いっきり吹いてしまった。
てか能力教えるとか、こいつ絶対アホだ。
「それで、なんで俺を襲うわけ?」
「お前が秘宝を持っているからだ!」
「ッ!?」
なぜ知ってるし。めっちゃ驚いた表情しちゃった。クール演じていたのに。能力も秘石についても、誰にも言ってない。それにこいつは初対面だ。
何か見逃しているような、どこか不味い気がしてならない。
「さすが、爆炎の直斗……凄いな。よくわかったね。爆炎以外にも優秀な能力を持っているんだね」
こういうガキは、おだてりゃ木に登る。
「ふっ、お前、見る目あるな!確かに俺の最強の異能力……《第六感》はお前の存在を知らせてくれたからなっ!」
ほら、すごく丁寧に教えてくれた。《第六感》か……確かにスキルボードにあったな。200ポイントもしたから取らなかったけど。これ、《第六感》持ちのプレイヤーに俺が秘石持ってるのバレてるってこと?やばくね?
「話し合いしようよ。俺の秘宝さ、所有者が俺だから、渡せないんだよね」
とりあえず、この場を何とかしないとね。ヘリとか野次馬も集まってきたし。
「俺が有効活用するからそれはいい。爆炎使いの俺が最強なんだ。質問箱で、殺せば所有者が移るって言ってたしねッ!!」
こいつ人の話聞かないタイプじゃんってっ危なっ!?
──ドゴオオオオオンッ!
さっきまで張り付いていたビルが大爆発を起こしていた。これは、死人出るよな。いや、既に出ているか。
「ちっ、ちょこまかとすんなよ!!狙いがつかないだろ!!」
「爆炎の能力、他にも教えて欲しいけどな!」
「お前がお前の能力言えよ!!卑怯者!!」
──ドゴゴオオオオオオンッ!!!
こりゃ、どうにかしないとな……
幸い俺は今も無傷。引力操作の訓練が生きてるな。
さて、こいつどうしてやろうか。爆発を避けながら考えを巡らせる。
《引力操作》は、俺と俺が触れた物の引力関係は自在に操れる。そもそも、引力を発生させるのではなく、元々存在している引力という物体の性質を、好きにコントロールできるって話。
例えば、どんなに遠く離れても、触れていなくても、東京タワーを指定して、俺の引力だけを操作するなら可能。それをしたら、俺が東京タワーめがけて一直線に吹っ飛ぶけど。
ただ、東京タワーに触れれば、東京タワーが有する俺以外の引力操作に干渉することができる。つまり他の物に飛ばせたり、東京タワーに引き寄せたり。
俺が俺の引力を引き上げて、あの爆炎めがけて肉弾丸ライナーすることもできるけど、そんな事したらフュージョン以上の密着で仲良死だ。
それらをまとめるとこうだ。
☆俺ができる攻撃手段☆
一つ目。
俺が触れた物を使い、敵を指定して引力を引き上げて飛ばす事。自らサイコキネシスの様に触れた物の引力を操作して追尾することは可能。(指定するだけは制限なし。あくまで制限あるのは引力の操作)
二つ目。
敵に触れる事て相手の引力を操作する事。
そしたら重力を引き上げて潰したり、どこかの壁に貼り付けたり、お好きにできるね。
一つ目の応用で、飛ばす物と的の両方に触れる事で自動追尾機能搭載もできるね!
三つ目。
地球の引力を引き上げること!相手に触れたら問題なくできるけど、相手に触れずにそんなことしたら人類全滅だね!できるかわからないけど!
んー、三つ目論外だね。一つ目がいちばん安全だね。よし作戦会議おしまい!
煙が酷く、爆発音が止まない。
俺は今、ヘリからみたら、まるで令和のスパイダーマンじゃね?ってくらいの動きしてます。
それはいいとして、こいつ、まだ子供なんだよな。でも殺すけど。スキル危険すぎるし、何より、俺の命を狙っていている。
「おい爆炎、お前は俺を殺すんだろ?」
「そうだよ!とっとと死ねよ!」
「じゃ、俺に殺されても文句言うなよ」
「は?俺がお前なんかに殺されるわけねぇだろッ!!!!
──ドゴオオオオオオンッ!!
今の爆発で、俺が足場にしていたビルが崩壊した。
めっちゃ爆発するじゃん。クレーターと瓦礫の山がすごい。ヘリ上空に避難しているよ。未来のα世界線ですか?
さっきから俺は逃げ回っているが、何もしていないわけじゃない。
瓦礫に隠れながら、特に意味は無いが俺は指を弾いた。
「これはどうだ!《瓦礫星》!」
触れて回った瓦礫たちの引力を引き上げる。すると一斉に爆炎へ向けて飛んで行った。
ちなみに技名は今考えた。
「っ!うわ!なんだよ!!!!」
──ドドドドドドッ!!!!
「おぅ、全部壊された」
これは想定外だな。やばいかも。二つ目の攻撃手段、あいつに触れる必要があるな。
「お前ぇぇえ!!俺を殺そうとしたな!許さねぇ!」
何言ってんだアイツ……
あいつに触れるためには、陽動が欲しいな。
☆☆
あいつ、瓦礫飛ばしてきやがった。
許せねぇ!なんだよ!大人しく殺されればいいのにさ!他の奴らみたいに!
ずっと隠れてさ、卑怯なんだよ。
瓦礫が飛んできた。
「あああ!!うざいな!!」
手を振り下ろし、粉々にする。
意味が無いことを繰り返されて、イライラが募る。
その時──嫌な予感がした。
スキル《第六感》の影響だ。寒気がする。
「なんだ!何をする気だ!!」
辺りを見渡すが、何も反応がない。
……ん?地面が、揺れている?
次第に大きな揺れとなり、信じられないことが起きた。
「え、は?ビルが、浮いてる……」
それが俺めがけて飛んできた。
「はああああ!?そんなもの!効くかあああ!!」
両手をかざすと大爆発が起きる。ビルは粉々になり、直撃を免れたが、大きな煙が視界を覆った。
「くっ!息が苦しい!!」
何も見えない。真下に爆発を起こし、それで視界を晴らす。すると、《第六感》が今までにない警戒音を鳴らした。
「なにが……っ!?」
──ポン。
……え?肩を、叩かれた?
上を向くと、手ぬぐいで顔が見えない男が、唯一見える両目を細めてこういった。
「良い夢を」
「何をッ!?ぐあああああああああああああああああああああああっ!?!??」
何もできないまま、俺は……
☆☆
──ドゴオオオォォォォォ
爆発音ではない、叩きつけられる音が響き渡った。
俺は、爆炎の引力と、地球の引力を引き上げた。重力でいうと通常の80倍程の力に。空中から地面にたたきつけられたアイツは、花火のようにバラけて死んだ。
そう、俺が殺した。
崩壊した街並みが、ビルが火を上げてサウナのように熱い。
「ふぅ、その大惨事、どうしようか。まあ逃げるけど」
遠くからヘリの音が聞こえる。激戦してたので避難していたのだろう。爆発音が止んだので、様子を見に来たのだろうか。
立ち去ろうとすると、モノリスが開いた。
──
《爆発の秘石》を手に入れました。
──
こいつ、秘宝を持っていたのか?
目の前で浮かび上がっているそれは、雫のような形をしていた。確かに見た目は、秘宝だ。
でも、俺の《運命の秘宝》とは格が違う気がする。
「……っ!!まさか」
嫌な予感がした。最悪の仮説を想定をしてしまった。そして、妙に納得した。
格が違う秘石、俺の《運命の秘宝》と同格の《七秘宝》が名前からして合計7個。
プレイヤーの数は、43人。
そして、地球上に存在する秘石の合計は50個。
プレイヤーの数と、七秘宝の合計が50。
秘石の総数も50。
つまり、プレイヤー同士のバトル・ロワイヤル。殺し合い。プレイヤーを殺して秘宝を奪い、地球上に隠されている七秘宝を探す。
他のプレイヤーを皆殺しにして。それがこのゲームの本当の主旨なんじゃないのだろうか。
だから、ペナルティなんて必要ないんだ。プレイヤーに、殺されるから。
プレイヤーは、ひとりしか、残らないから。