Destiny is sometimes cruel.
あっつあつのお茶をイッキ飲みした後、拷問部屋(客間)から飛び出して、キンキンに冷えた麦茶をイッキして、お腹を壊した。
いや、頑張ったよ?1年分の汗を流した気分。
そんな俺の頑張りがあってか、優奈ちゃんは許してくれたらしい。
ただ、また思い出したら、おでん用意してくれるそうだ。
なるほどね、冬にいじれということか。
そんなこんなで3人仲良くスイカ食べながら、やっとの思いで普通に会話する事になった。
「なぁ、なんでニューヨークに行ったんだ?」
さすがに、脳死でプレイヤーを殺しに行ったとは言えない。
「特殊な事情があってな」
「それって、お前がプレイヤーだからか?」
「そうそう、え?なんで知ってんの?」
びっくりした。
「そりゃ、今話題だからな。理解困難な特殊な能力を使う人のテロ」
「ちょっとまて、俺はテロしてない」
「でもニューヨークで皆殺しにしたんだろ?巨人の足」
「巨人の足ちゃう。でもそれはそう」
「なんで?」
急に、啓介が真面目な顔になった。
なんで殺したんだ。そういう意味だろうか。
……俺がスキルを手に入れたから、ハッスルして人を殺していると思われているのだろうか。
心外だな。
「殺されかけたから」
不可抗力です。あんなの交渉じゃなかったし。
啓介は俺を見て、優奈をみた。優奈ゆっくりと頷いた。
なんだろう。
「そっか、お前の事だもんな。爆発テロはどういうこと?」
「爆炎の直斗が俺を襲ってきて、やり返した」
「あ〜そういう事か。お前がテロなんて向いてないもんな」
「だろ」
啓介はどこか納得したような、安心したような顔をした。そりゃ親友が好んでテロしてるとか嫌だよな。
「お前がお前のままで、よかった」
「変な心配しやがって」
「だな」
啓介は、スイカの種を庭に飛ばしながら言った。
「心底よかったって思う。オサムじゃなくて、武田直斗の方が、爆発のテロ犯だったんだな」
思わず、手にしたスイカを落としそうになった。
……ちょっとまて、なんで啓介は爆炎のフルネームを知っているんだ。
嫌な予感がする。
「なぁ、啓介はプレイヤーなのか?」
もし、啓介がプレイヤーなら、俺は、どうしたらいいんだ?唯一の親友だぞ。
恐る恐る、聞いてみた。
心臓が、バクバクする。
ところが、安堵してニコニコしていた啓介は嫌そうな顔をすると
「ちゃうわ。嫌味かよ。羨ましいよ〜俺もスキル欲しかったんだけど!お前のスキル見せろよ」
……よかった。本当よかった。この反応は、嘘じゃない。冷や汗が止まんねぇ。
俺が重いため息をつくと、優奈が心配そうに、俺を見てきた。
「何か、怖いことがありました?」
「いや、大丈夫」
「そう、ですか」
気にすんなと言った。JKに心配されちゃ、ね。
啓介がどんなスキルか教えろと目を輝かせてくる。距離が近いわ鬱陶しいな!
「俺のスキルそんなに知りたいか?」
「おう!知りたい教えてオサム先生!」
「えぇ〜全然良いけど。ふたりとも秘密だよ」
俺は《引力操作》について教えることにした。満更でもないし。誰かに自慢したかったし。
もちろん、《変人》については秘密にするけど。絶対馬鹿にされるから。
「まずね、オリジナルスキルというものがあって、プレイヤーによって固有スキルがあるんだよ」
「おお!」
「それで俺は、《引力操作》というスキルを手に入れた」
「なにそれ強そうかっこよさそう!!」
さすが啓介、初見の俺と同じ反応だ。優奈ちゃんも興味津々らしい。
「何ができるかっていうとね、触れた物の引力関係を操作できるんだ」
そう説明しながら、スイカの種を水平方向へ飛ばした。重力分の引力を相殺、もとい擬似的な無重力状態なので、力の方向へ進む。
「お〜!不思議ですね!」
「マジックじゃん。オサム宇宙ステーションかな?」
「こんな事もできる」
跳ね返ってきたスイカの種を、地面に叩きつけた。それも、引力を爆発的に引き上げて。
庭の地面には、スイカの種と同じサイズの穴ができた。分かりづらいが。
「え!何が起きたんだよ!」
啓介と優奈は、種がめり込んで行った場所をまじまじと見ている。
「……これ、どんなに大きなものでもこうやってできるんですか?」
「まぁね、色々と制約があるけど」
「やば、チートじゃねぇか」
「こんな事もできる」
俺は地面を蹴って、宙に浮いて見せた。このままだと、空へいつまでも登っていくので、力を調節する。
「え!俺もやりたい!浮きたい!」
「私も!」
「じゃ、俺に触れて」
宙にいる状態で手を啓介に差し伸べると、思いっきり叩かれた。その勢いで俺は回転する。
「ぶぁっははははははー!!!」
「ぷっ、ふふ、あ、すみません!」
空中で無様に回転する俺を見て、啓介はまたも指さしながら腹を抱えて笑い、優奈は面白かったのか顔のにやけが隠しきれてない。
こ、こいつら!!
あ、やべ目回るスイカ吐きそう。
背中から地面に降りて、停止した。
この兄妹……今までにないテンションの上がり方だな。それもそうか。こんな話聞いて、不思議なことを目の前にしたら、俺でもこうなるよな。
おかげさまで《引力操作》の弱点を見つけた気分。やっぱり空中戦は向いてないな。
啓介がいつまでもわらっているので、地球との引力関係を、重力分の引力を断ち、無重力状態にさせた。
「啓介、ジャンプ」
「え?おわ!おおおお!すげぇな!体が変だ!」
あいつの方が無様じゃねぇか。そう思うくらい空中で暴れている。手足が気持ち悪く動いているが、表情は最高だな。
「スイカの種のように叩きつけることもできる」
「ぅおおおおおおい!!絶対するなよ!絶対だぞ!!」
「丁寧なフリありがとう」
「いやあああああぁ」
ちょっと仕返しできた気分。スッキリするわ〜
「ははは、安心しろー。あ、優奈ちゃんもやる?」
後ろにいる優奈ちゃんに対して、片手を差し出した。
啓介に対する直前の、笑えない冗談の脅しが効いたのか、優奈ちゃんの顔がひくついている。
あー、若い子の前でやっていい事と悪いことがあるよな。ムラムラしてやった。後悔はしていない。
「……怖い事はしないでくださいね」
「うん、しないよ」
「信じていますから」
涙目じゃねぇか。悪いことした気分。
だけど、手を俺の掌にそっと置いてきた。
信頼、と受け取って良いのだろうか。
いや、好奇心が抑えられないだけか。めっちゃわくわくしてるし。小刻みにジャンプしているし。
俺を見ながら、早く早くとした表情で、小刻みにジャンプしている優奈ちゃんめっちゃ可愛い。このまま見ていたいけど、また顔が赤くなってきそうなので、《引力操作》を使った。
「おお!すごいです!からだが軽い!」
啓介と違って、空中でも品がある。あー、すっごい楽しそう。
しばらく遊ばせてあげようかな。
収納箱から大きな岩を取り出して、啓介にゆっくりと投げつけた。
「そーれ受け取れ〜!」
「ッ!?うおおおおおおおおおおおおい!!」
「あ、お兄ちゃん!危ない!」
啓介の背中に直撃した。が、エネルギーが移動しただけ。つまり振り子の法則。よって無傷。
「あれ、なんで俺強くなった?」
「あ、なるほど。オサムさん。驚かせないでください!」
優奈ちゃんがプンプンしている。でもどこか楽しそうだ。
「当たっても挟まれない限り痛くないから、キャッチボールでもして遊びな」
「おおおおお!!さすがオサム!お前は俺の親友だ!!」
わかるよ。普通じゃ持ち上げられない物を、持ち上げたりできたら、最高だもんな。ロマンだよな。
俺は片手を上げて返した。
あのふたり、楽しそうだなぁ。
ちなみに、なんでわざわざあいつらの体に触れたのか。それにもちゃんと理由がある。
確かに、半径5メートル以内だったら同等の引力操作ができるが、それより離れたら、操作ができなくなるからだ。危険だろ?
つまり、触れてない状態で無重力状態にして吹っ飛ばしたら、再び5メートル近づくか触れるかしないと解除できないんだ。戦闘向きなんだよな。それに害悪能力。
しばらくすると、遊び疲れたのか戻ってきた。《引力操作》を解除する。
「おお〜体がめっちゃ重い」
「今なら宇宙から地球に帰ってきた人の気持ちがわかります」
ふたりとも息を切らしている。わかるよ。その気持ち。
「なぁ、《引力操作》のスキル、お前がその気になれば即死じゃね?」
「だね」
「チートじゃん」
「まぁ、多分だけどほとんどのプレイヤーのスキル、チートだと思う」
「それは戦ってきた他のプレイヤーの体験談?」
「そう。手を振った方向の物が大爆発したり、100メートル以上の津波のような土砂に襲われたり、巨大な森林が襲ってきたりした」
「災害じゃん。お前なんで生きてんの」
「とにかく頑張った」
「あぁ、そっか」
啓介が、どこか呆れたようにしており、優奈はニコニコしている。
「そうだ。聞きたいことある?」
質問タイム、欲しいよな。
すると、啓介が手を挙げた。
「プレイヤーになる方法!」
「知らん」
知るか。
優奈が手を挙げた。挙手しなくてもいいのに。
「なんでニューヨークに行ったのですか」
「プレイヤー殺すとさ、居場所バレるんだよね。あと観光」
啓介が手を挙げた。
「スキルを使えるようになる方法!」
「知らん」
知るか。欲望じゃねぇか。
優奈が手を挙げた。
「なぜ、他のプレイヤーと敵対するのですか」
難しい質問が来た。なんて答えるかな。まぁ、素直に答えていいか。誤解されたら嫌だしね。
「うーん、俺が、生き残るためなんだよね」
「それって、どういうことですか?」
「それはね、秘宝を全部集めるには……!ちょっとまって」
緑のモノリスが点滅してる。急だな。いつもか。
開くとこのように表示された。
──
【プレイヤー情報】
Player name タキ オサム が
Player name ジョイソン をキルしました。
※【プレイヤー情報】は、殺した者の現在地の時刻を基準に、12時に全プレイヤーに通知されます。
プレイヤー総数が、40人になりました。
残り時間 1758/1781
──
あー、アメリカで、ちょうど12時になったのかな。すっかり忘れていたよ。
でもこれで、他のプレイヤーは俺が日本以外にもいくってことを知ったから、効果どうかわからないけど多少はカモフラージュになったんじゃないかな。
モノリスの確認が終わって、ふたりの方を見る。
「あぁ、ごめん。ちょっとね。それで、優奈ちゃんの質問何だっけ」
すると、優奈ちゃんは、
「えっと、ジョイソンって、誰ですか?」
と、怯えたように、言ってきた。