1、弟子がまた新たなタイトルを所持していることが判明した。
「・・・成る程、じゃあ、『魔符』だと一枚1回っきりなのが、
錬金術で作った『錬金譜』ならば、同程度の術・・・火の攻撃なら数回を分けても、
連続でも使用できると・・・?」
「はい、ただ、錬金術は代価が必要なので、作る際にその準備が面倒な事と、使用の際、使う為のきっかけの
エネルギーが必要になってきます。わずかでは、あるのですが・・・。」
「成る程・・・そうゆう事か。」
ずぞーーー。
「・・・しかし、私は錬金術について、学校で齧る程度しか学ばなかったが、聞けば聞くほど、
可能性を秘めている。これは、国家でも今後もっと腰を据えて、研究した方が良いかもしれない。」
「一国の、王太子にそう言っていただけて光栄です!!・・・ですが、まだまだ錬金術自体の認知度が低いので、まずは、知ってもらわないと、怪しい御業だと思っている者もまだまだ多いので・・・。」
ずぞ、ずぞ、ずぞぞぞ。
「今度議会でも、学校の授業時間数を増やせないものか、駆け合ってみよう!」
ずずずずずずずず・・・。
「本当ですか!?そんな事、願ってもない、お話です。」
ずぞーーーーーーーーーー。
「・・・・って、うるせーーーぞ!アニエス!!」
アニエスは、むぐむぐと、先程、近くの露店で買ってきた汁麺を啜り噛みながら、
じとりと、話をしていた俺とセオドリック殿下を睨んだ。
「・・・だったら、あちらで話せばいいでしょう?
ここはキッチンなんですから。何でここで話をするのですか?」
まあ、確かにそうなのだが、
相変わらず、小憎らしい態度や、いけ好かない言動を言われても、そのやたらめったら可愛い顔を不機嫌にしながら、そのミニスカートで綺麗なそのお御脚を組みなおされると。
そのミニスカートの奥がチラリでも見えるのではないかと期待させ、怒りを霧散させる。
超かわいい顔と桁外れなスタイルの良さは、本当に下手なアーティファクトよりよっぽど役に立つと思う。
・・・因みにこいつはミニスカート着用時。
必ずタイツかストッキングを着用している為、めったにその中身が見えるという事がない。
全くけしからん話である。
若いのだから、生足で良いではないかという話なのである!!
「折角、ここに来たんだから、アニエスの顔を出来るだけ見ていたくてね?」
そう言い、やたら甘いマスクを笑顔にし、セオドリック殿下はアニエスの腰に手を回すも、アニエスはそれをていッとばかりに跳ねのける。
「人がものを食している姿なんて、面白くもなんともないでしょう?
別に逃げたりしませんので、どうぞ続きは隣の研究所でしてくださいませ。」
「アニエスは相変わらず、連れないな?そう言うなら、
私とデートのひとつもしてくれればいいものを。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。保護者同伴なら、構いません。ですが、セオドリック様と二人っきりになるは危険だと、過去に嫌というほど学んでいますので。了承しかねます。」
「(仮)にも婚約者になったというのに、婚約者殿は冷たいな?」
「あくまで(仮)で、それも互いの様々な条件、利害一致ゆえのものだという事お忘れなく。」
「たまには、ご褒美が欲しい・・・。
その身体のどこかにキスマークを付けるとかの・・・。」
「今からひとっ走り、セオドリック様の分の汁麺を購入して来るので、
それがご褒美ではだめですか?」
セオドリック殿下はひたすら甘い雰囲気に持って行こうとするも
それをアニエスはひたすら払いのける。
こんな姿を見せているから、最近、ハイ・ソサエティではアニエスを『鉄の処女』と揶揄する人間もいるらしい。
まあ、実際はやっかみだろうがな・・・?
中身がどうあれ、現時点で、王太子妃に一番近いのは間違いなくアニエスだし。それを面白くないという奴は、セオドリック殿下が人気な分だけ、決して少なくない。
「アニエスは、(仮)婚約してからの方が態度が冷たいぞ?前は、あんなに優しかったのに・・・あの時だって・・・。」
「・・・!きゃっ、セオドリック様やめてください。これ熱いんですよ!?」
しかし、そんな冷たい態度にめげることなく、
こうして、本人に嫌がられながらも抱き付いていく、その鋼メンタルは、単純に男として見習いたい・・・。
って、いうか今抱き付く際、アニエスの豊かな胸をセオドリック殿下の腕が絶対に掠めた。
俺は見ていたぞ!
いや、別に羨ましくなんかないがな!・・・・・・くそ!嘘です。羨ましいです!!
「アニエスを抱き枕にしたら、絶対よく眠れる・・・。」
「眠くないのなら、日中、身体を動かしてください。よおおく眠れるようになりますから!」
「了解。それでは、ベッドで二人飽きるまで動かそうか・・・。」
「ばかあーー!!」
どうしよう。このイチャイチャに当てられて仕事すんの、
単純に苦行すぎるんだが・・・。
「セクハラ殿下、お嬢様から離れてください。『悪音』を掛けますよ?」
そこに現れた救世主。愛弟子その2に俺は今、心から感謝する。
「アレクサンダー、やり取りは順調?」
「はい、滞りなく。」
そう言いながら、アレクサンダーは涼しい顔で、セオドリック殿下を粘着テープを外すように、
べりっと剥がし、隣の席に座らせる。
相変わらず、そのアレクサンダーの番犬防壁っぷりには惚れ惚れしてしまう。
「ふん、私を出し抜こうったってそうはいかないわよ?権利書はこちらの手の内なのですからね?」
「お嬢様、(仮)ではありますが、王太子殿下の婚約者なのですから。
目立った行動は余計な敵を作りかねませんよ?『(仮)』ですが・・・。」
「・・・妙に(仮)を強調してないか?アレクサンダー・・・。」
「仮・・・1、 本物・本式ではなく一時的な間に合わせ。一時的な見せかけ。」
「おい。」
(仮)・・・とは言え、アレクサンダーはアニエスが王太子殿下と婚約したのが、どうにも相当、面白くないらしい。
そりゃあそうである。足掛け11年近い初恋である。並みの想いではないだろう。
単純に一人の人間をそこまで想い続けるのは、凄いと思う。
俺は、前に結婚を約束していた彼女ですら、そこまで強い想いを抱けなかった。
「アレクサンダーも食事がまだでしょう?デリバリーでも頼みましょうか?」
「いえ、ひとっ走り、自分で買ってきます。」
「それにしても、何かこの辺露店が増えたよな・・・。」
「ようやく、こちらの工場の準備が整って本始動したので、従業員に食事を提供しようと、外からの業者が増えているんですよ。」
「なんか、いよいよ会社って感じだな?ここは、相変わらずなのに・・・。」
「師匠は今まで通り、のびのびと研究してくださればいいです。研究成果に焦りは禁物ですから。」
そういい、若き女社長は、スープを飲み干した。
「ふう、鳥の出汁が利いてて美味しかった!ごちそうさまでした。」
そう言い白い首筋を拭い、
暑いのかブラウスの第3ボタンまで開けると、白い胸元が少しピンクっぽく色づいて、零れたそうにこちらを覗いている。
思わず「こぼれたいんだろ?・・・我慢せず、こぼれたっていいんだよ?」と声を掛けてしまいそうになる。
「・・・こんなに、日々誘惑して来るくせに、指一本触れさせてくれないのは、どんな罰なのかとは思いませんか?ジオルグ殿。」
「確かに・・・これを間近で見せられるのは、忍耐を要せられますね・・・。」
しかし、本人はどこ吹く風。という感じで、仕上げに野菜ジュースを飲んで食事をフィニッシュした。
「そういえば、セオドリック様。私に頼みがあると言っていませんでしたか?」
「・・・ああ、恐らく、世界中で頼めるとしたら君だけだからな。」
え、改めてのプロポーズか・・・??
やめてくれ!俺の存在を忘れないでくれ!!
「はい、何でしょうか?」
「・・・特別ダンジョンの鍵を開けてほしい。」
しかし、それは、俺が想像していたものとは違う願いだった。
「ダンジョンの・・・・・・?」
「ああ、世界で、開けられる人間は君を含めて3人だけだからな。」
どういうことだ??
「・・・アニエス、お前、妖精まで飼っていたのか?」
ダンジョンの鍵は基本精霊か、妖精しか開けられず。神殿が術者を300人くらい集めて大仰な儀式をして、呼び出さない限り、妖精なんてものにはめったに会えない。1500年くらい前は、それこそ、そこら中にいたそうだが・・・。
「妖精を飼っているというか・・・。」
そう言い、アニエスは若干口ごもる。
「ジオルグ殿、というかアニエスが妖精なんですよ?」
あん??
「・・・セオドリック様、お気持ちはわかりますが、・・・そんな風にのろけられましても・・・。」
しかし、セオドリック殿下は大真面目な顔をして、話を続ける。
「いや、そうじゃない。アニエスは正真正銘エルフの血を引いていて、その身体の4分の1はエルフの血が流れてる。」
・・・エルフ?あの半神半精。妖精を統べる幻の民。絶滅したともされるあのエルフ??
「いやいやいや、まさか、まさか・・・。」
「・・・その証拠に彼女の実兄は、超大国ヴァルハラ帝国皇帝クラウディウスⅠ世だ。」
ヴァルハラの皇帝の話は、俺も知っている。
本物の世界に降り立った神と崇められ、その実力・容姿。
何よりその魔力が人智をはるかに超えたものであり、今現在最も強い魔力を有するとさえ言われている。
そんな次元の違う物語みたいな御仁の名が出て、俺は思わず面食らった。
「・・・いやいや、アニエスは公爵家の娘でしょう??どうして、皇帝・・・しかも外国の皇帝と血の繋がりがあるというんですか??」
「ロナ家はもともと、多くの王家を輩出する名門で、クラウディウス陛下は7歳でその実力が見込まれ、
前皇帝陛下の養子に入ったんだ。それはひとえに、彼がエルフの先祖返りだからだと言われている。」
「はあ!?」
「だからアニエスは、正真正銘、皇帝陛下と両親を一緒にした妹なんだよ。」
そんなスッとんきょんな話があるもんか!!とアニエスを見ると
本人は、頬杖をついてそっぽを向きながらも否定しない。こういう場合、こいつは性格上、間違っていたら必ずその訂正を申し出る。・・・て、ゆう事は・・・。
「・・・お前本当に、エルフの血を引いてるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・一応。」
本人はその話が面白くないようで。若干、不機嫌顔になっている。
「・・・エルフの血が流れていても『魔力無し』じゃ、恰好が付かないですよ・・・看板だけ立派みたいで。」
そう、アニエスは、ぶつぶつと言った。
「だが、ダンジョンを開ける鍵については、その血があればいいのだから。どうか協力してくれないか
アニエス・・・?」
それに、アニエスはくるりと殿下に向き直り。
「・・・・・・・・・早速(仮)婚約者の立場を利用されるのですね?」
「確かにその通りではあるが、面と言われるのは辛いものがあるな・・・。」
アニエスは、暫く考えたあと、ため息をつき、
やれやれと言った感じでセオドリック殿下に向き直った。
「・・・私も殿下には助けて頂いた恩がありますから、解りました。『鍵』になりましょう。」
そう言い、アニエスは了承した。
「ありがとう!!」
「・・・ただし・・・。」
そう言い、アニエスは俺の方をちらりと見た。・・・嫌な予感がする。
「師匠も必ず一緒に連れていくというのが条件です。」
「えっ・・・・・・!?」
なんで!?
「・・・ダンジョンはほとんどが、ヴァルハラ帝国より東に集中しています。ということは、ヴァルハラの裏からの差し金なのでは無いのですか?」
「・・・ご明察。ついでに、婚約の挨拶をご所望らしい。」
「なら、尚更、師匠は一緒に連れていきます。」
そう聞き、セオドリック殿下は、ジトッと俺を値踏みするように見てきた。
「・・・わかった。」
「それでは、詳しい日程について、まずは、お教えいただけますか?」
「それは、ノートンが来るまで待ってくれ。もうすぐ迎えに来るから。」
「アニエス、アニエス!・・・なんで俺も一緒に行くんだよ!?」
俺は思わず、アニエスに食い掛る勢いで聞いた。すると、アニエスはきょとんとした様子で
「え?だってちょうどいいでしょう??」
「何がだよ!?」
「・・・錬金術の実力や有用性を世間に訴えるのが。です。
・・・師匠も先程、セオドリック様と話していたでは無いですか?認知度があまりに低いのが問題だって。・・・どうせならヴァルハラ皇帝陛下に大々的に宣伝していただきましょう。
大丈夫、ヴァルハラは相当に先進的な国ですから。
むしろ、ローゼナタリアで宣伝するより、早く受け入れられると思います。」
「はあ?・・・何を言って。」
「私は使えるものはとことん使う主義なんです。それこそ、ゴミになりそうなものから、大国の皇帝陛下まで・・・。」
その目には強い意志からくる、本気の光があった。
「・・・私は師匠の伝説を、過去のもので終わらせるつもりは、今も一切ありませんから!」
そう言い頷いて見せる。俺は、それに、つい勘違いしそうになる。
でも・・・だったらなんで・・・。
そう、喉にせり上がって来そうな言葉を飲み込む。
「・・・じゃあ、二人ともよろしく頼む。」
「はい。」
「・・・はい、わかりました。」
俺は、セオドリック殿下の方を見る振りをして、アニエスの姿を斜めから眺めた。
いつもと変わらぬ、再開した時と変わらぬ印象の横顔・・・。むしろ、日に日に綺麗になっている気さえする。そして考える。
ーーーなんで、
じゃあ、なんでお前は、仮でもセオドリック殿下と婚約なんかしたんだよ!という言葉を飲み込んで・・・。
外伝その3より、割と月日がたったお話になります。