untitled-09
バーンズ「・・・そんな・・・」
仲間たちは言葉を失う。ヘイレルが、このまま逃げれば難民船まで巻き込んでしまう。
ヘイレル「少年の回収を頼む。」
タスカー「・・・わかった。子供の回収はバーンズが向かった。」
ヘイレル「お前達の旅が・・・平穏である事を祈る。」
何かをこらえていたタスカーが、崩れ落ちるように語りだす。
タスカー「ヘイレル・・・。すまないヘイレル・・・!!俺たちにはもう・・・打つ手がない・・・」
その声は、自らの無力を噛み締めるかのようだ。ヘイレルはその声をなだめるように言う。
ヘイレル「もう充分だ・・・礼を言う。」
彼が無線を切ろうとしたその時だ。
???「うそつき!!」
少年の声が割り込む。落ちていた無線を拾ったのか。タスカーとのやり取りを聞いていたようだ。
ヘイレル「・・・坊主か・・・」
少年「おじさんは言ったじゃないか。必ず生き残るって。最後まで諦めないって!うそつき!!」
声の感じからして、移動していない。
ヘイレル「何をしている坊主!早く行け!!」
少年「いやだ!おじさんが来るまで待ってる!!」
時は一刻を争う。ヘイレルが威嚇し足止めしているが、敵の群れはいつ動き出してもおかしくない。
ヘイレル「俺の事は気にするな!船に乗れなくても脱出の手はある!!」
嘘だ。そんな考えがあるとは思えない。少年にもそれはわかる。
少年「嘘じゃないか!」
ヘイレル「嘘じゃない!」
少年「約束できる?」
ヘイレルは言葉につまる。約束などできるわけがない。少年がさらに続ける。
少年「俺は必ず、何があっても生き残る!約束する!おじさんも約束できる!?」
ヘイレル「・・・ああ、約束する。」
ヘイレルの言葉に優しさが戻った。背中を向けたまま静かに問いかける。
ヘイレル「坊主・・・名は?」
少年「俺は・・・カズマ!!」
ヘイレル「俺はヘイレル。ダグラス・ヘイレルだ。俺も約束する。必ず生き延びて、お前に会いに行く。」
その言葉に嘘の気配はない。
ヘイレル「カズマ・・・強く生きろ。仲間だけでなく、自分自身も救えるほどに。俺よりも強くだ!」
少年「うん。強くなって待ってる。」
ヘイレル「その時までお別れだ、カズマ。・・・未来で会おう。」
少年「うん!!」
少年はようやく走り出した。バーンズがそれを受け止め、船の方へ更に走る。ヘイレルが、しびれを切らして動き出そうとする大群を銃撃でけん制する。そして・・・タバコの包みを再び取り出す。先ほど吸えなかった最後の1本。その1本にようやく火をともし、大きく吸って、そして吐いた。
後方から高速回転するエンジンの音。その音が遠ざかってゆく。難民船がついに飛び立ったのだ。
ヘイレル「そう急かすなよ・・・。この一本を吸い終えたら、相手をしてやる。」
そう言って大群を見据える。弾薬は残りわずか。状況は絶望的だ。だが彼の目に陰りはない。そこに宿るのは、覚悟ではなく、生き延びるための決意。
―――約束か―――
少年を救うために交わした、嘘の約束。だがその嘘はヘイレル自身にも生きる決意を与えていた。
ヘイレル「助けられたのは・・・あるいは俺の方なのかもしれないな・・・。」
彼はまた少し笑った。タバコを投げ捨て、群れの中心に飛び込んでゆく。そして、少年との約束を想いながら、再びつぶやく。
―――未来で、会おう―――