untitled-08
二人は走り出した。現在位置e6から難民船の待つe1を目指す。距離にして約5km半だが、予定離陸時刻までは10分を切っている。彼らの足では絶望的だ。だがここは数時間前まで人間が住んでいた街だ。使えるものが必ずある。ヘイレルはあたりに気を張り巡らせる。ビルに激突した自動車。これは乗れそうにない。主を失い横たわるパワージャケット。だめだ。コックピットが潰れている。転倒したバイク。・・・これもだめか。燃料タンクがやられている。
ヘイレル「くっ!!」
投げ出しそうになる気持ちを、のどの奥で噛み殺す。
―――まだだ、他には何か―――
そう思った時だ。誰かに名前を呼ばれた気がした。
???「―――eの5だ!」
? 何の事だ?この声は・・・無線からか。
???「生きてるなら、eの5に向かえ!ヘイレル!!」
タスカーの声だ。ヘイレルは即座に問い返す。
ヘイレル「タスカー!ヘイレルだ。一体何の事だ?」
タスカー「ヘイレル・・・生きてたか・・・。今どこにいる!?」
意味がわからないまま彼は答える。
ヘイレル「eの6から5に向かうところだ。」
タスカー「そうか!ならばそのままeの5の中心に向かえ。」
ヘイレルは何の事だと問い返そうとするが、タスカーがそのまま言葉を続ける。
タスカー「ギルシーダをeの5に向かわせた!人が乗れるように出力を上げてある!!」
―――そういうことか!!―――
彼はようやく理解した。タスカーは、仲間たちは、ヘイレルを見捨てる事などできなかったのだ。
ヘイレル「お前達はもう着いてるのか?」
タスカー「まだだ。こっちは自力で何とかなる。ギルシーダだけ先に戻らせて手を加えさせた。」
バーンズ「散々考えてこの手しか見つかりませんでした。一緒に生き延びましょう!」
ヘイレルに熱い想いがこみ上げる。だが、涙するにはまだ早い。無事に脱出できたその時まで。
ヘイレル「わかった。e5中心に向かう。子供を1人確保したが、2人乗れるか?」
タスカー「出力だけなら2倍はある。それくらいなら問題ないはずだ。だが難民船も襲撃を受けているようだ。長くはもたない。急いでくれ!」
ヘイレル「見えた!あれか!!」
瓦礫と瓦礫の間、200mほど先に見つけた!ギルシーダだ。肩のアジャスターコイル(揚力発生装置)を無理矢理増設し固定している。ここに乗れという事か。ヘイレルは走りながら少年を抱え上げ、ギルシーダの肩に飛び乗った。
ヘイレル「いいぞタスカー!!」
タスカー「ギルシーダ!全速で帰還しろ!!」
ギルシーダが勢いよく走り出す。時速60kmは出ているか。つかまっているのがやっとだ。
―――ガアアアアアア―――
大型の咆哮がこだまする。ついに要塞化が完了したか。小型と中型が殲滅戦に行動を切り替える。難民船が心配だ。間に合うか?
タスカー「よし!こっちは今到着した。あとはお前だけだ!!」
ヘイレル「ああ!持ちこたえてくれ!」
残り1500m。
コジマ「難民船周辺の敵を排除した。だがこちらも最後のソルドールがやられた。戦力ゼロだ。次の襲撃を受けたらもたない!」
ヘイレル「クッ!あと少し。」
残り1000m。
―――見えた!難民船!!・・・え?―――
ヘイレルの視界にギルシーダの背中が映る。だいぶ遠ざかってギルシーダも体制を崩し、倒れる。続いてヘイレルの体に走る衝撃。地面に叩きつけられたのか。
少年の姿が見えない。一緒に振り落とされたのでないとすれば、ギルシーダの所か?ヘイレルが目を凝らすとギルシーダの脇に小さな影が動いている。立っている様子を見ると、どうやら無事のようだ。
しかしなぜ振り落とされた?彼がつかまっていたのはギルシーダの肩に増設されたアジャスターコイル。その部品ごと落とされたようだ。それには数箇所に銃撃を受けたあとがある。―――これは―――敵の銃撃!中型か!
―――どこだ!どこに!!―――
ヘイレル「!!」
後方、12時方向を見た彼は愕然とした。
彼は無線に向けて言う。
ヘイレル「ギルシーダがやられた。船から200mの所に少年がいる。回収してくれ。」
タスカー「確認した。お前はどこだ?」
ヘイレル「俺はそこから900mあたりだが・・・帰れそうにない。敵の群れに遭遇した。」
彼の目前には、無数の敵がひしめいていた。