untitled-06
―――うまくいった―――
大型から少し離れたビルの陰に姿を隠しながら、様子を伺う。マンジェロは大型の目と鼻の先、ビルの屋上で息を潜める。あとはタイミングを見計らって、マンジェロにグレネードを抱えたまま特攻をかけさせればいい。時間にして4分後といったところか。
既に撤退を告げるあの信号弾から15分が経過している。最後の一撃がうまくいけば、難民船は無事飛び立つだろう。そしてそのための準備は全て終わっている。彼は役目を果たしたのだ。だが彼に帰る場所はない。
ヘイレルはズボンのポケットからタバコの包みを取り出す。残っていたのは1本のみ。それは必然だったのかもしれない。思えばよく戦ったものだ。大型バイオウェポンズの突然の襲撃。あまりの数に軍も侵入を防げなかった。早々に本部は壊滅し、生き残った兵士達だけで、西に準備した難民船に臨時本部を作った。そして・・・。
多くの仲間が死んだ。多くの民間人が犠牲になった。結局、街を守る事はできなかったが、それでも難民船まではやらせずに済みそうだ。
――家族は――無事なのだろうか。避難していたとすれば既に飛び立った難民船の中だろう。――もう確かめる術はないが――。せめてたどり着く先に、人の住む街があることを祈るのみだ。
彼はライターに火をともす。タバコに口をつけゆっくりと吸い込みながらライターの火を近づける。
ヘイレル「いよいよ・・・最期か・・・。」
今になってようやくできたようだ。怖い事に変わりはないが、それを包み込むような静かな感覚。
―――これが、覚悟か―――
タバコを含んだ口元が静かに微笑む。そしてタバコに火がつこうとしたその寸前。叫ぶ声が聞こえた。