untitled-05
足音が遠くなる。ヘイレルは静かに目を閉じてつぶやく。
ヘイレル「さて・・・と・・・」
考えているのだ。戦う術を。生き残る事はできないが、無駄死にするわけにもいかない。難儀な事だと彼は少し笑い、目を開いた。
ヘイレル「行くとするか!!」
ヘイレルは9時の方向へ走り出す。目的は武器の確保。彼がいるのはfの6。たしかe6で全滅した小隊があったはずだ。クラーツの小隊。編成はポーン1、ビショップ1、ナイト1。
ヘイレル「マンジェロ!その場で乱数射撃!回避行動を最優先!!」
マンジェロをf6に残し、おとりにする。ヘイレルはその場を離れるため指示を出せなくなる。持ちこたえられるかはもはや運任せだ。
ヘイレル「!!あそこか!!」
500mほど先に人型兵器が崩れ伏せているのがわかる。太いシルエットと4mはあろう大きさ。パワージャケット(ナイト)だ。コックピットの外壁が剥がされている。パイロットは・・・既に食われたあとだろう。近づくにつれてその惨状がわかる。おびただしい量の血を吸った砂。そこかしこに散らばる戦闘服の切れ端。遺体の一部も見つからないのは、全て食い尽くされたからか。装備のほとんどが使われずに残っているところを見ると、抵抗するまもなく全滅したということだろう。その無念は計り知れない。彼はナイトの側面に目をやる。大腿部に大型グレネードが3個。これがあればかなり時間をかせぐ事ができる。それと散乱した戦闘服の切れ端から装着された弾薬を剥ぎ取って、もと来た道を引き返す。マンジェロの方向に目をやる。やはり苦戦しているようだ。囲まれている。だが読み通り!
ヘイレル「マンジェロ、上空から退避!10m!」
マンジェロは取り囲む小型、中型の群れをジャンプして後ろに下がる。
ヘイレル「7時の方向へ群れを誘導しろ!」
上手い。さらに注意を引かせる気だ。ヘイレルは手薄になった大型の近く、9時側のビル脇に姿を隠す。大型の周辺には小型が数体、中型も3体残っているがそこまで行く必要はない。まず下準備として、大型グレネード2つにマーカーをつける。マーカーとは小型の発信機で、ソルドールにより的確な指示を与えるためのものだ。そして3つのグレネードそれぞれにリモコン式の発火装置を取り付ける。それら全てをその場に置き、さらに気づかれないように大型の前面に回りこみ、大型から4時方向にあるビルの屋上に向けてマーカーを発射する。
―――準備完了だ―――
一呼吸おいて彼は指示を出す。
ヘイレル「マンジェロ!マーカー1へ移動!全速!」
そして彼自身も大型に突撃を開始する。まずはハンドグレネードを一撃。大型の腹部に着弾。のどの傷には当たらなかったがそれでいい。今は彼がおとりだからだ。小型が、中型が、そして触手が動き出す。近づきすぎず離れすぎず、敵の注意を引きつける。そして・・・来た!!マンジェロだ!
ヘイレル「マンジェロ!武器を捨てろ!」
指示を続ける。
ヘイレル「マーカー1、マーカー2のグレネードを拾い、大型前面に移動!!」
がら空きとなった大型前面を横から突く。マンジェロが空高く飛ぶ。真横には大型ののど。あの傷跡。
―――今だ!!―――
ヘイレル「マーカー1を大型に!!」
マンジェロが大型の前面を通過する。グレネードを敵ののど元に残して。そしてヘイレルはスイッチを押す。降り注ぐ閃光。地を揺らす爆音。さすがはナイトのグレネード。歩兵のものとは桁が違う。しかし敵の装甲はその威力すら上回る。だが充分だ。3分、いや2分でも要塞化を遅らせる事ができればいい。そのわずかな差で救えるものがあるからだ。
続けて次の起爆スイッチを押す。今度は大型9時方向のビルから光があふれ、崩れ落ちる。1つだけ置き去りにした大型グレネードだ。
ヘイレル「マンジェロ!マーカー3へ!!」
そう言って自分も8時方向へ走り去る。今度はビルの崩壊をおとりとして自分の姿を隠す気だ。e6へ向かう。