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バーンズ「クラーツ小隊、バジハール小隊壊滅!」
走りながらバーンズが言う。どの隊も戦力の消耗が激しい。彼らの隊も既に1人を失っている。
ヘイレル「ウィルマーは!?」
バーンズ「ウィルマー小隊は健在!ルーク1!ナイト2!!」
ヘイレル「残るルークは1か・・・。」
ルークとはガンナー(戦車)の事だ。ナイトはパワージャケット(人型戦車)の事を指す。この時代では、よく戦力をチェスの駒になぞらえる。
敵の大将は大型のバイオウェポンズ。これが無数にいる小型、中型の個体に指示を与えている。蜂の女王のようなものだ。先ほどヘイレル達が戦っていたのは小型。中型は高さ3mを越える。大型は巨大な竜のような姿で、移動は遅いが力が強い。甲殻も硬く、ルークの大口径砲でなければ致命傷をあたえられない。
―――せめて戦闘機やミサイルがあれば―――
だがこの時代にそんなものはない。200年前、世界が滅ぶ原因になった事故。人工粒子『イーター』流出事故。この粒子イーターに一定以上の相対速度で衝突した物質は、例外なくプラズマ化し消滅する。弾丸程度ならば当たらない可能性も高いが、巨大な飛翔体はほぼ間違いなく当たる。このことにより、飛行兵器は存在意義を失った。イーターは世界に流れる摂理すら変えてしまっていた。
バーンズ 「『大型』の居場所がわかりました!確定ではありませんが、おそらくfの7!!」
彼らは戦場の位置取りをチェスボードになぞらえて共有している。ヘイレル達はdの5を12時方向に走っている。
ヘイレル 「近いな!他の小隊は!?」
バーンズ 「コジマ小隊 hの5、トレイル小隊 hの7、タスカー小隊がdの7ですが戦力ビショップ1で民間人を護衛中!」
ビショップとはドールマンサー(人形遣い)の事だ。
ヘイレル 「ウィルマー!!」
無線に向けて彼は叫ぶ。
ウィルマー「聞こえていた。現在f3に移動中、7分かかる。f4のビルが射線上に入る。排除してくれ。」
コジマ 「それは俺達が行こう。ポーン1、ビショップ1で充分だ。」
トレイル 「大型を目視で確認した。fの7だ。まずいな、既に根をはり始めてる。」
大型のバイオウェポンズは移動後に巣を定めると、大地に根をはり、要塞のような形態をとる。装甲はさらに強固となり、ルークでも撃ち抜くのが難しくなる。そして同時に、要塞化した大型は、周囲の安全を確保するため、全配下に殲滅を指示する。そうなっては勝ち目はない。
ヘイレル「トレイル、戦力は?」
トレイル「ポーン1、俺だけだ。」
ヘイレル「f6に後退しろ!合流する。」
トレイル「それじゃ間に合わない!現地で合流だ。先に始めてるぜ。」
バーンズ「トレイル軍曹!無茶だ!!」
トレイルからの返事はない。死ぬ気だ。爆発の音がした。大型の怒号が聞こえる。トレイルがそこで戦っている。
―――やらせねえよ・・この・・化け物が!!―――
無線にトレイルの声が入る。音が小さいのは無線を投げ捨てたからか。そして何かがひしゃげる音と、こらえるような苦痛の声。
―――へっ・・くそっ!・・ちったあ痛そうにしろ・・・―――
トレイルの声は、そして消えた。勝ち誇るような大型の雄たけびが前方と無線の両方から響く。
バーンズ「・・トレイル軍曹・・・」
ヘイレルも目をすぼめ、歯を食いしばるが、すぐに元の表情にもどす。悲しんでいる時間はない。