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望む暁。革命軍


 丁度一週間が経った。


 爾は亨と掃除業を続け、食費や宿代をなんとか食いつなぎながら、ずっと模索していた。


 ――どうすれば、赤羽に認められるか。


 そんなことを考えているうちに、時は来た。


 爾と亨が昼間から宿の床で寝そべって話をしていたときのことだ。掃除の仕事も見つからず、丁度この生活に嫌気が差し始めた頃だ。


 爾は、ただ純粋な強さを欲していたが、それをどうやって手にすればいいのかが分からずにいた。亨に聞いてみても、亨だって戦いとは無縁の人間であったし、そもそもその温厚で人情味のある性格が、戦闘にむいていないのは明白であった。


 そこでどうするすべもなく、安定した仕事も、革命軍への希望も見つけられないまま、朝からずっと惰眠を謳歌していたのだ


 しかしそんな時、ふと、窓から外に目をやると、やけに騒がしい。亨は窓を開けて、外をのぞきこむ。


「革命軍が無事帰還したらしいぞ」


「赤羽さんが帰ってきた!」


 窓からそのような会話が耳に飛び込んできた。爾は聞いて飛び上がった。


「すぐに行かないと!!」


「待って爾、僕も行きたい」


 すぐさま支度をして、家を飛び出る。今度は亨も一緒だった。 勿論目指すは革命軍入団、ひいては外の世界に出る事だ。


「うん。良いよ」


 赤羽の返事はいたって簡単だった。


「え、ええ!?」


「いいんですか!?」


 二人はそのあっけない返答に驚いて歓喜の声を上げた。


 ――強くなりたい。だから革命軍で働かせてくれ。


 大体そんなようなことを、赤羽に提案し、懇願したのだ。


 まさかこんなあっけなく承諾を得られるなんて思ってもみなかったので、奥の手を色々考えていたのだが、それを使うまでもなかったらしい。最悪、二人で集めた銀貨をすべて差し出してでも、革命軍に入ってやろうと、大きな覚悟を持ってここに出向いた二人だったから、赤羽のある種そぐわないともいえるその言葉に拍子抜けしてしまったというわけだ。


「強くなりたいんだろ? 大歓迎だ。ただ俺らもそんなに余裕があるわけじゃあないから、自分のことは自分でやれよ」


 赤羽は二人にそう言い聞かせた。


「じゃ、爾。君にはそこのでかい奴、亨にはそこののっぽが世話に付くから。いろいろ教わっておきなー」


 二人のもとに、男が二人歩いてきた。どちらも爾が洞窟の出口で見た二人だ。ならばあの少女もいるのかと辺りを見回してみたが、どうやらここにはいないらしい。


「でかい方が島野、長い方が灯下だ」


灯下櫂(とうもとかい)と申します。よろしくお願いします」


「俺は島野大樹(しまのだいき)だ。よろしく」


 灯下は深々とお時儀をし、島野は胸を張って爾に手を差し出した。


 

 そうして、爾と亨の革命軍生活が始まった。


 爾は望み通り、毎日のように外に出て、森の中で島野に剣術を教わった。爾も毎日真剣に練習に励んだ。


 亨は爾のように好戦的な人間ではないので、革命軍で家事をすることになった。今まで料理から洗濯まで、革命軍の家事全般を担っていた灯下の下(重複しているみたいだが)で、革命軍のあれやこれやを学んだ。


 森の中、爾と島野は向かい合って立ったまま、お互いの目を見つめている。二人の手には剣に見立てた2メートル足らずのまっすぐな木の棒が握られている。


「爾。悪くない目つきだ」


「師匠こそ。今日は燃えてますね」


「ふ。そうかもな!」


 島野は走って一気に間合いを詰める。そしてその剣先が交わらんかとしたとき、目にもとまらぬ速さで互いに攻撃を繰り出した。


 読みあい、狙いあい、弾きあう。その一瞬に起きた戦いの壮絶さは二人だけが理解している。爾は再び距離をとって、息を整えようとする。


 その時、爾は自分の剣が真っ二つに折れていることに気づく。島野の攻撃を防御しよう受け止めた時に亀裂が入ってしまったらしい。


「負けました」


「? お前は武器がないと戦えないというのか?」


 爾は両手をあげて、降伏するが、しかし、島野はそれを許さなかった。


 島野のはまだ戦いは終わっていないと言わんばかりに、棍棒を構え直して、戦意をむき出しにする。


 爾は聞いて、嬉しそうな笑みを浮かべると、手に乗った二つの木片を足元に落とした。


 姿勢を低くして、地面を蹴る。それを認めた島野も、息を荒げながら走り出した。武器を持った島野相手に、爾は恐れることもなく身一つで飛びかかる。


 島野に手加減という考えはなく、向かってくる爾を打ち返すように棒を振りかざした。しかし、爾はまるで棒を避ける風のように、体をうねらして華麗によけ、そのまま体当たりをした。


 かなりの勢いと力を持った体当たりを、島野はその大きな体で受け止めた。


 爾はすぐに体を起して蹴り技を繰り出す。全身を駆使した渾身の回し蹴りは、しかし島野のカウンターの餌食になってしまった。爾の体がソフトボールのように軽々しく吹き飛ばされ、地面にバウンドする。


 なんとか地面に両足を付けたが、意識をか細くつなぐのが精いっぱいだ。朦朧とする意識の中、爾の目の前に、二つに折れた棒が転がっているのが見えた。爾はこちらへ歩いてくる島野へ向かって全力で木片を投げつける。


 直線をなぞるように宙にまった木片は、油断していた島野の顔面に直撃した。その場に倒れた島野は理解が追い付かず、混乱する。そのわずかな隙に、爾はチェックメイトを掛ける。


 爾の固くつくられた拳は、島野の顔面すれすれで止められた。島野は鼻先に振れる感覚ですべてを悟った。


「ふっ。私の負けだ」


 爾は拳を緩め、身体を起こした。


「いや、僕の負けです。目の見えない師匠に、こんな非道な手を」


 島野は失明している。両目を閉じたまま、音と気配だけで爾と闘っていたのだ。


「確かにちょっと鼻がいてぇけど。元々そういう条件で戦ってたんだから、勝ちは勝ちだ」


「はい! でも今度は誰もが納得できる勝ち方をしたいです」


「そんなのは要らねぇよ。目的があるなら、守りたいものがあるなら、何がなんでも勝たなきゃいけねぇ。お前もいつかそんな時が来る」


 すると、爾のすぐ後ろから声がした。


 ――そうだね。


「弱点を突かれた島野も負け、遠慮した爾も負け。どっちも負けで、俺の勝ち」


 赤羽の声だった。爾の気がつかないうちに、首には赤羽の手が回され、完全に背後を取られていた。


「その声は赤羽。全く、敵わんな」と島野。


「赤羽さん。いつから見てたんです?」


「いつからって、最初からだよ。みんな分かってないなぁ。勝つ方法は戦いだけじゃないんだよ。こういうのを漁夫の利って言うらしいけど、なにを言おうと勝ちは勝ち、負けは負けなんだよ」


 赤羽は爾の首に手を回したまま、続ける。


「さて、それはいいとして。もう飯の時間だぞ。灯下達が待ってる」


「そうですね。すぐに行きます」


 地下に戻ると、亨と灯下櫂が晩飯を調理していた。


 長身細身メガネのインテリ風貌とはあべこべに、料理が得意らしい。


 その証拠に、彼の作った料理を食べた者の体は癒され、表情からは幸せがあふれるのだ。何より、その顔をみた灯下の嬉しそうな表情が彼の性格をよくあらわしている。


 彼は家族が多かったせいか、料理だけでなく家事全般得意らしく、ここでもその才を遺憾なく発揮している。聞くところによると、革命軍の参謀としても有能だそうだ。


 亨は灯下の補佐として今は配膳や皿洗いなど、雑用を慣れた手つきでこなしている。


 食事の準備ができると、全員が席に着いた。机を囲うようにら灯下、亨、爾、島野、赤羽、その隣には羽癒が座った。


 机の上には、素朴ではあったが、6人が満足に食べられるだけの食事が用意されていた。下の街では、いくら掃除に勤しんでもこんなご馳走にはありつけなかったので、やはり贅沢と言えるだろう。


「美味いか」


「はい!」


「美味しいです!」


 赤羽がいつものように質問し、2人がそう応えると、灯下が嬉しそうに言った。


「良かったです。街で採れた貴重な食材です。残さず食べてくださいね」


 街で採れた貴重な食材を、こんなに惜しみなく使えるという点はいかにも国の最高機関と言った感じだが、ならば尚更、爾や亨があんなに簡単に入軍できたのが不思議だった。


 チームメイトがやけに少ないのも、違和感を覚えざるを得ない。革命軍と名乗っているのだから、軍らしく、大群を形成しても良さそうなものだが、実際の人数は6人。以前までは4人だったというのだから驚きである。


 爾のような希望者が少なく稀なのかとも考えたが、街の活気を見るとそうも思えない。革命軍自体が方針として、少数精鋭を掲げているのならば、規模の小ささには納得がいくが、ともすればやはり爾や亨が平然とここにいるのは不自然であった。


 爾はそんな疑問を料理と一緒に咀嚼することなく飲み込む。


「街、行ってみるか」


 食事中、赤羽が不意に思い出したかのようにそう切り出した。


「街? グリマヘイトの街ですか?」


 爾がきょとんとした顔で問う。亨も似たような表情を浮かべ、灯下に助けを求める視線を送っている。


「そうですね。二人にも、経験が必要ですしね」


 灯下はわかりきった様子で赤羽に同調する。


 島野は切り替わった空気をものともせず、食べる手を止めない。それでも聞いてはいるようで、二人の言葉に大きく頷いて見せた。


 まだ爾や亨の話したことのない人物、羽癒(うゆ)は話しを横目に静かに食事を続けている。


 長い白髪に丸く穏やかな瞳とは裏腹に、にじみ出るどこか攻撃的な雰囲気は人を寄せ付けず、他の仲間ともあまり言葉を交わさない。唯一、赤羽とは辛うじて話すようだが、それすらも珍しい光景として扱われている。


「羽癒もいくか?」 


 赤羽の問いに彼女は黙って首を縦に振った。


「そうか、爾と亨は勿論連れて行くから準備しておけよー」


 赤羽の問答無用の傲慢な態度には、もう誰も驚くことはない。亨はすでに説明すらも諦めて投げだしていた。


「師匠、街って一体?」


「元俺らの街というか、巨人の街っていうか――まあ行って見れば、わかるさ」


 爾の質問に島野が困った顔で言葉を濁した。


「じゃ、明日。各自準備しておくように」


「準備って具体的に何が必要ですかね」


「とりあえず心の準備だけ済ませておいてくれればいい。あとはこっちでやる」 


 と、赤羽が取り繕う。


「は、はぁ。わかりました」


 爾はすぐに食事を済ませ、部屋に戻った。爾にとって今回の提案は念願のものだった。島野は巨人の街と言った。そこに行けば爾の中の本当にやりたいことが見つかる気がしていた。


 爾は入軍時に与えられた小さな洞穴の部屋で、明日に備えて眠りにつく。しかし、興奮して、いつまでたっても眠れそうにない。仕方なく起き上がり、食事をしていた居間に戻った。そこでは亨が食事の片付けに手を焼いていた。


「あ、爾。もう寝たのかと思ってたよ」


「亨こそ、一人でおつかれ」


「まぁこれが僕の仕事だから」


「なにか手伝うよ」


「あぁ、ありがと。じゃあそこのお皿取って」


 爾は指示通り食器を重ねて通るのもとへ運んだ。


「亨は準備はいいのか?」


「うん、僕のは灯下さんが用意してくれるって」


 爾の手伝いもあって片づけを終え、ソファで腰掛ける。


「爾はいいよなぁ。強くて」


「何だよ。俺なんてまだまだだよ」


「それに比べて僕って奴は、本当になんにも出来ない。どうにもうまくいかなくて、心折れそう。灯下さんは優しいけど」


「でも、いつも助かってるよ。ほんと」


「そうかなあ」


「俺も早く、ここの戦力になれるように頑張らないと。亨は何かないのか? 目標みたいな。こう、やりたいこととか」


「んー。なんとなくで爾に着いてきて見たけど、僕なんかに何かできるのかな」


「きっと出来る。だって亨は俺なんかよりずっとすごい」


個人的に最初の方の展開には興味がないので脳死で書いてます。


脳死で読んでください。


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