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恐怖の悪戯 〜メリーからのメール〜

作者: HERON

「なんの悪戯いたずらだよこれ……」


 加藤玲一かとうれいいち。誰がどう見たって、いたって普通の高校生。

 誰かに呪われたりするような犯罪だって、呪われるようなことを誰かにした覚えは無い。


 そんな加藤に、ふざけた悪戯としか思えないメールが届く。


『あたしメリー。今からあなたを殺しに行くの』


 加藤も初めは誰かの悪戯だと思い、あまり気にしなかった。

 だが、しばらくして冷静になり、もう一度、あの悪戯メールを思い直してみる。

 すると、すぐに自分の見落としていた事実に気づく。


 こんなメールがニュースから来るはずがない。なら友達か? いや、違う。なら、知らない奴か? そうには違いない。でも……


「なんでアドレス帳にも登録してないのに、発信者にメリーって名前が書いてんだよ……」


 思わず声を発してしまう加藤。

 更に、そのメリーという悪戯野郎を通報しようと、どんなアドレスなのか調べようとすると、更に驚くべき事実を知る。


「アドレスがない……」


 そう。メリーと書かれた発信者にはアドレスがないのだ。ということは、どうやって加藤の携帯にメールを送信したのか……

 加藤はもう焦るしかない。額からは冷たい汗がポタポタとしたたり落ちる。


 手に持つ携帯を部屋の机に置き、一度携帯の事を忘れて落ち着こうとする。当然、忘れられるはず無いのだが、常に手に持つ携帯を持つことすら体が拒否したのだ。今は携帯の事を忘れたい……


 すると、体が拒否した今を狙ったかのように鳴り響く携帯。

 取りたくない自分と取った方がいいと思う自分が頭の中で交差する。


「取るしかない……よな」


 加藤は携帯を取った。

 しかし、加藤は携帯を見る事が出来ない。体が言う事を聞いてくれない。

 だから加藤は眼を瞑りながら取った。机に向かって手を伸ばし、手探りで携帯を探し当て、慣れたような手口でメールを開く。


 そして、恐る恐るゆっくりと眼を開ける。

 そこには……


「誰だ。誰なんだよ!」


 発信者、メリーの文字。

 誰の仕業か見当もつかない現状に、加藤は焦りや恐怖。更にイライラも溜まる。

 その感情も関係しているであろう。今まで大事に扱ってきた机に対し、初めて、ドンッ! と思いっきり拳を叩きつける。拳からは少量の出血。机には加藤の思いが染み付いた傷がついた。


 メリーが加藤に送った文章はこうだ。


『あたしメリー。今、あなたの住んでいる町にいるの』


「どうする?」


 加藤は悩む。しかし、焦って焦って……中々いい案が思い浮かばない。

 もう、こうなっては仕方ない。ここまできたら自分だけの問題ではない。家族……友達に相談しよう。加藤はそう決めた。


 加藤は早速友達に電話する。

 だが……


「繋がらない……」


 誰一人電話が繋がらない。普通に考えてそんなことはありえないはずなのに。


「友達が駄目なら!」


 加藤は震える手で携帯を投げ捨て、下の部屋にいる家族の下へ向かった。

 慌ただしく階段を降りる加藤。

 しかし、階段を降りきった時、加藤は、焦りすぎて頭から飛び去っていた事実を思い出す。


「いねえ……いねえよ! 今は家に俺しかいねえ!」


 そう。家族は旅行中。

 高校生にもなって家族と旅行なんてなぁ……と思った加藤は、家族と旅行に行くのを拒否したのだ。

 これは偶然なのか。それともメリーがこの時を狙ってきたのだろうか、それは分からない。


 とにかく今、加藤は家族と一緒に旅行に行かなかったことを激しく後悔した。

 だからこそ、リビングの机に置かれてある、母親が気分良く書いたであろう『行ってきま〜す。おとなしく留守番頼むわよ玲一! じゃあね〜』という置き紙を見て、無性に悲しくなった。


 こうなったら自分でなんとかするしかない。

 家から出るのはかえって危ないだろう。メリーはどこに潜んでいるか分からない。気分はホームアローンだ。家の鍵を全て閉め、メリーを入り込めないようにする。

 流石に、ホームアローンのように様々な仕掛けを作る技術も道具も加藤には無く、それは断念した。


 心が吹っ切れたのか、冷たい汗も引き、焦りも消えたように見える凛々しい表情で自分の部屋のドアを開ける。

 すると、加藤の帰りを待っていたかのように携帯の音が鳴る。もう、偶然とは思えない。


「入ってきて見やがれメリー……俺は絶対殺されないからな!」


 自分に言い聞かせるように叫ぶ加藤。

 そして、携帯を手に持つ。

 だが、やはり恐怖は消え去っていないようで、携帯を持つ手はガクガクと震えている。

 しかし、ここで恐怖に負けるわけにはいかない。加藤はガクガク震える手でメールを見る。


 当然のように、発信してきたのはメリー。そして、その内容は……


『あたしメリー。今、あなたの家の前にいるの』


 もう、メリーは加藤の家の前にいる。

 しかし、加藤は焦らない。


「どうせ、俺が焦ってドアを開けて家の外を見るのを狙ってるんだろうが、その手にはのら……」


 加藤に寒気が走る。さっきまで引いていた冷や汗がまた滴り落ちてきた。

 今度は、歯がガチガチ震えるオマケ付きだ。

 加藤は慌てふためきながら携帯を手に取り、もう一度、さっきのメリーからのメールを確認する。


 加藤の予感は当たった……

 加藤は見落としていたのだ。メリーのメールにはスクロールがあった。

 ずっとずっと下に、まだ文が隠れていた。

 加藤は、この文を見て恐怖のどん底に落ちる。


『鍵を閉めたって無駄よ。どんな困難があってもメリーはあなたを殺しに行くの』


 加藤は恐怖した。

 自分の髪の毛は真っ白になってしまったんじゃないか。そんなことを考えるくらい恐怖した。周りを見るのが恐い。もう少しで……もう少しで……メリーが自分の前に現れる。そして……


 加藤は恐怖で動くことが出来ない。携帯だって投げつける気力も無い。目の前の机に放りっぱなしだ。

 そして自分は、ずっと自分の部屋の椅子に座りっぱなしだ。今の加藤に吹っ切れたような凛々しい表情は無い。間違いなくメリーの恐怖に怯える絶望の表情だ。


 そして、そんな加藤の心をひねり潰しにくるかのように鳴る携帯の音。

 加藤は机に放った携帯をヨロヨロと手に取り、メールを見る。


 それはもう間違いない。加藤にとって絶望のメール……


『あたしメリー。今、あなたの後ろにいるの』


 加藤は諦めた。

 もう生きることを諦めた。だから、最後に納得して死のう。加藤はそう思った。


 なんだか、そう考えると自然と体が楽になった。冷や汗も引いた。恐怖も無くなった。手も震えない。表情も何だか爽やかだ。


 すると、生きることを諦めた加藤が、メリーからきたメールに返信し始めた。

 内容は……


『最後に聞きたい。どうして俺を殺すんだ? 俺があんたに何をした? これくらい答えてから殺してもいいだろ?』


 加藤の納得というのはメリーが自分を何故殺すか。すなわち、自分の罪を知りたい。

 メリーから納得する答えが返ってこれば、それはもう仕方が無い。


 しばらくして返ってくるメリーからの返信。


『人間が憎いから。だからあなたを殺すの』


『それは俺を殺す理由にはならない。だって、俺が何かしたわけじゃないんだろ?』


 メリーの理由に納得のいかない加藤。


『あなたが何をしたとか関係ないの。あなたが人間だから殺すの。あたしは人間を憎んでるから。それ以上の理由もそれ以下の理由もないの』


 そんなメリーの返信に加藤は、納得することを諦めた。


『そうかい。なら仕方ないな』


 加藤は最後の返信を済まし、クルッと後ろを振り向く。

 その眼は当然、死にに行く者の眼。生気のない眼だ。

 いや、そのはずだった……


「これはどういうことだ……」


 なんと、加藤の後ろにいるメリー。加藤に生きることを諦めさせたメリーは人形のように小さい少女だったのだ。

 人形のように小さく、左手に携帯を持つ少女。右手にナイフでも持っているかと思いきや何も持っていない。着ている服も可愛い感じのワンピースだ。つまり、恐い要素が無い。いや、人形のように無表情な顔は少し不気味だろうか。


 この事実に、とてつもなく欲望に満ちた生気が加藤の眼に宿る。


「俺は死なない。俺は死なない……俺は死なない!!」


 征服したい欲望。金持ちになりたい欲望。それに匹敵する欲望。生きたい欲望が今、加藤にはある。その欲望にとりつかれてしまえば、もう止められない。

 加藤は、小さい少女メリーを殺してでも生き延びようと行動する。


 さっきまで諦めていた姿が嘘のようだ。

 ニタニタとした表情を浮かべながらメリーに襲い掛かる。

 生きることを諦めた加藤も、心の底では生きたかったのだ。生きる希望を探していたのだ……


 しかし、そんな加藤の希望は早々と打ち砕かれた。

 加藤の殴りかかる右手に、メリーの小さな右手が少し触れたかと思うと、加藤の右手は弾け飛び、地に落ちた。もう、加藤の欲望も消し飛んだ。今あるものは、加藤の悲鳴と、無情にも垂れ続ける血だけだ。


 加藤の歯がガチガチと震える。冷や汗が滴り落ちる。残った左手が震える。涙や鼻水が零れ落ちる……加藤は二度目の絶望を味わった。もう、加藤に希望は訪れない……


 加藤はメリーによってグチャグチャにされた。

 悲鳴を上げながらグチャグチャにされた加藤。もう、原型も無い。


 そんな、加藤かどうかも分からない肉の塊を見て、ずっと無表情だったメリーが、顔を緩めてクスッと笑う。


 そして、その肉の塊をワンピースの中に詰め込むメリー。どうやって詰め込んだのであろうか……


 その後、メリーは器用に携帯を使い、また誰かにメールを送ると、スッと姿を消した。


 メリーが姿を消した直後、加藤の携帯の音が鳴る。

 そう。メリーからの最後の送信……


『あたしメリー。今、あなたと一緒にいるのメリーと一緒に苦しむの……』

 初めてのホラー作品です。

 初めてのホラーなので、メリーさんを題材として書かせていただきました。やはり、題材がある作品は書きやすいものです。

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