中編
翌日の放課後、桃香は校舎裏に向かっていた。
「うーん、どうしようかなぁ……」
彼女の手のなかには封筒と便箋。
その便箋に書かれていたのは”お伝えしたいことがあります。 放課後、校舎裏に来てください”というもの。
つまり、ラブレターだ。
今どき紙の手紙なんて珍しいが、アドレスが分からない相手の下駄箱に入れて用事を伝えるという意味では有効なのだろう。
校舎裏に入る前に桃香は大きく深呼吸をしてからそこへ足を踏み入れた。
「よし、いこう」
校舎裏には別クラスのいかにも持てそうなイケメン男子生徒が佇んでいた。
桃香は彼の前までゆっくり歩いていく
「すみません、おまたせしました」
イケメン男子生徒は口を開く。
「いえ、大丈夫ですよ、呼び出したのはこちらですし。
僕は1年D組の明石誠と言います」
「明石さん……ですか?」
明石誠は少し間を置き、覚悟を決めたかのように、続けて言う。
「ええ、メガネを外したあなたに僕は一目ぼれしました。
僕と付き合ってください」
笑顔を浮かべながらそういう誠に桃香はおずおずと答えた。
「ごめんなさい……私、あなたのことは全然知りませんし……、なので付き合えません」
ペコリと頭を下げた桃香に驚いたような誠の声がかけられる。
「ちょ、ちょっと待て、僕の告白を断る?!
なんでだ!」
「え、ですから……私はあなたのことあまり知りませんし」
「ぐうっ……俺が振られるなんておかしいだろう?!」
イケメン男子生徒がそういうと周りの隠れてる仲間が笑いながら出てきた。
「あーあ、ちょーだっさー」
「でもこれじゃ罰ゲームになんないじゃん?」
そう言いながら彼らはゲラゲラ笑う。
「くそっ、電波女のくせに良くも僕に恥をかかせてくれたな!」
誠の仲間はニヤニヤしながら
「顔だけはいいし生意気だから犯っちまっていくこと聞かせたらいいんじゃね」
「ぎゃはは、そりゃいいな」
桃香は後ずさりながら言う。
「や、やめてください!」
しかし 誠が腕を伸ばし
「まずはその気持ち悪い眼帯をとっちまおう!」
「やめてー!」
誠が桃香の眼帯を掴んでその糸を引きちぎると眼帯の後ろに隠されていた桃香の金色の瞳が誠とその仲間の姿を捉えた。
「な、なんだ?体が……」
「な、なんだ、なんなんだ!」
「動かない? 助けて!」
彼らの体が徐々に固まっていき暫くするとそれは金で出来た精巧な人の彫像となった。
それを見て桃香は大きく息を吐いた。
「また……やっちゃった……かぁ、もうここにもいられないのかな」
そこへふらりと現れた人影が桃香へ声をかけた。
「なるほど、金化の魔眼、それがお前の眼か」
その声の主は、地味で平凡な高校生であるはずの青木邦夫だった。