葬儀
かかりつけ医の検死が済んだ。医師は首をゆっくりと振った。
病死、だった。
チャーリーも、ナイトも。
キノコの群生か、火山で生まれた岩石のように、病原菌が蔓延し、全身の皮膚がボコボコになって、命を落としたのだ。
機械化されていない内臓にも病原菌は繁殖し、あらゆる箇所をデコボコに変容させていた。
遺体の惨状を直視出来ず、ルイスは唇を噛みしめた。
解せないのは、病気の進行速度だ。
直前に一緒に食事をした時は、こんなでは無かった。
チャーリーも、ナイトも、病気ではあったが、まだ元気だった。
ルイスが手に入れた高級ベーコンステーキを、一緒に食べられたであろうくらいには。
アルビドゥスは、目立つような吸血痕を残さなかった。
針で刺したような小さな傷は二つ残ったが、それもボコボコの皮膚の影に紛れて分からなくなっていた。
少女吸血鬼は、チャーリーとナイトの体から、抗体と白血球だけを吸い取っていた。
病気への耐性が失われた肉体は、みるみる病気に負けた。
……本当は、ちゃんと御礼をして、立ち去るつもりだった。
でも、チャーリーは、手術の後に、こう言ったのだ。
「お嬢さん、もうひとつ、心臓があるだろう? この機械の心臓は、誰のものなんだ?」
興味本位で聞いた様子では無かった。
電子新聞も停止しているのに、何かを知っている目だった。
明らかに、回答次第では、再び壊される可能性があった。
アルビドゥスは、チャーリーと、チャーリーの死を周囲に知らせて回りそうな犬の、命を奪った。
「ごめんなさい」
カチカチと歯車を回し、牙を収納して、少女は謝った。
少女が去って、数時間後、ルイスは帰宅した。
すぐにかかりつけ医を呼び、チャーリーとナイトの死を確認する。
最初は信じたくなく、蘇生の可能性がないか、何度も医師に問いかけた。
医師は、時間が経ち過ぎていると答え、ルイスは肩を落とした。
葬い方法として、第四階層へと流れる滝を利用して水葬にするか、それとも火葬にするか、選ばねばならない。
無論、水葬にすれば、第四階層の水が穢れ、今回は病死故に、更なる被害を及ぼす場合もある。
だからルイスは火葬を選んだ。
一緒に食べようと思っていたベーコンステーキも、借りた火葬場で遺体と共に焼いた。
自身の手で愛犬とチャーリーを焼き尽くした。
トランスジェンダーの自分を受け入れてくれた、数少ない養父だった。
よく吠えるけれど、懐いて可愛い愛犬だった。
溶けた鉄を避けながら、骨を幾つか拾い、砕いて粉にして、お守り袋に入れて首から下げた。
「天国があるなら、いつか一緒にディナーを食べような」
ルイスはぐしぐしと、滑らかな顔を義肢で擦った。
涙は流さないつもりだったのに、涙腺の制御が出来なかった。
誰であれ、大事な家族の命を奪った者を始末してやる。そんな気持ちがふつふつと滾っていた。
彼は工房にこもり、機械式小型爆弾の仕込みに打ち込んだ。
愛する家族を奪った相手を突き止めて、息の根を止めてやるのだ。
今は、絶対王政を永遠に続けようとする女王への義憤よりも、家族を殺した犯人への憎悪が、心を焦がしていた。
しかし。
台所のないルイスの家では、作業に熱中していても、やがて空腹が襲ってくる。
ルイスは手を止め、いつもの食堂兼酒場へ向かった。