「運び屋」ルイス
忌ま忌ましい。
ルイスは、親父であり、養父であり、親方でもあるチャーリーの横で、オレンジエードのジョッキをどんとテーブルに音高く置いた。
繰り返し、頭の中に鳴り響く電子音声。
『アリスナンバーサーティーン、認証』
「俺は男だ……!」
未だに、第一階層の大コンピュータは、世界は、彼を「彼女」と認識しているのだ。
ルイスは、身体こそ女性に生まれついたが、心は男性だった。
王宮から捨てられ、チャーリーと共に住むようになってから、女性らしい部分は全て機械に変えてしまった。
周囲の理解を得るのにも時間をかけた。
なのに、あの忌ま忌ましいコンピュータめ……。
「荒れているねえ、ルイス。お子様はオレンジエードで我慢しておおきよ」
ルイスは十七歳、飲酒を許されるには一歳足りなかった。
それを知った上で、酒場のおかみさんは、オレンジエードに少しだけビールを混ぜてくれた。
本来なら違法だ。だが、昼飯時の食堂兼酒場の喧騒の中、そこまで煩いことを言うものはいない。
皆、茹でただけの芋や、焼いただけの干し肉に、食らいついていた。
「そういえばね、チャーリー、ルイス。川の水が少し濁っているようなんだよ。上の階層で何かあったかね?」
ルイスはおかみさんの質問を知らないふりでスルーした。
嫌でも、明日には電子新聞を賑わせて、おかみさんの目に留まるだろうと思ったのだ。
今はただの「運び屋」、そう、ただのルイスに過ぎない。
ただのルイスは、大コンピュータを止めたために、電子新聞が停止したことに、思い至っていなかった。
ルイス達が食事を終えて、出て行った後。
数分経って、ガチャン、と重い扉が開き、ドアベルが鳴った。この扉は一般的に普及している、機械仕掛けの扉だった。扉の表面に手を置くと、圧を感知して、歯車が回り、幾つかのロックが外れて、同時にカンカンとドアベルを小さなハンマーが叩いて、開く仕組みだ。
「いらっしゃい」
おかみさんが珍しい客に声をかける。
「何処かに、いい腕の技師は居ませんか? わたしは、アルビドゥスといいます」
カチカチと、喋る度に喉から機械音がする、十四歳くらいの少女が、そこに立っていた。