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第二階層

約束の、その日がきた。

ルイスとアルビドゥスは、ゴーグルとヘルメットを着用して、飛空挺に乗り込んだ。

アルビドゥスの工具箱は思いのほか大きく、腰回りのベルトにも工具が収納されていた。

機械技師と言うのは嘘ではなさそうだ。


「いつもより重いから、高度が上がりづらい。ゆっくり行くぞ」


ルイスはそう言って、炉に石炭をたっぷりとくべ、水量を確認し、第三階層を飛び立った。

ベルトを締めていても、ガタガタと機体が揺れる。

やがて気流を捕まえたのか、飛空挺の振動が安定してきた。

小さな丸窓から見える空は、高度をあげるにつれて澄んでいった。


二人は、全く会話をしなかった。

アルビドゥスは丸窓からただ外を眺めていた。

まるでとても珍しいものを見ているかのように。


第二階層が見えてくると、ルイスは船体を傾けて、旋回に入った。

徐々に第二階層に接近し、馴染みの飛空挺着陸場に近づく。

ふうっと一瞬、重力が無くなる感覚がして、続いて、車輪が滑走路をつかむ音がした。

ガタガタと飛空挺が揺れる。ゆっくり速度を落としていき、そして、やがて、車輪が止まった。


「到着だ」


ルイスはそう言って、後部座席を見た。

アルビドゥスは、ヘルメットとゴーグルを外し、髪を整えて「そのようね」と答えた。

大きな工具箱を手に、不慣れな様子で飛空挺から下りる。

少女の足が地面についたのを確認し、ルイスは自身もフネから下りた。

「最後の報酬、忘れていないだろうな」


滑走路は第二階層のぎりぎり際にある。

アルビドゥスは、下を覗き込んで、「第三階層ってあんなに小さいのね」と呟いていた。

「小さく見えるだけだ。第二階層より大きい筈だ」


耳がツンとなったのを、いつものように唾液を飲みこんで治しつつ、ルイスは答えた。

「さあ、父を殺したのは、誰なんだ?」

足元を食い入るように見つめ、身じろぎもしない少女に、急かす。


「お母様を傷つけたのは、貴方?」


逆に聞き返される。何を言っているんだ、とルイスが思った瞬間、彼は何時の間にか、アイアンメイデンズに取り囲まれていた。

無理矢理、取り押さえられそうになり、慌てて身を躱す。

パリパリと、アルビドゥスの顔を覆っていた人工皮膚が破け落ち、王女アルストロメリアの顔が現れる。

ああ、とルイスは息をついた。国民なら誰もが知っている顔だった。

大コンピュータが生きていたら、アルビドゥスなんていう人間は存在しないと検索出来たのだ。

その手段を破壊したのは、ルイス自身だった。


「貴方……ロストナンバードアリスね」


王女は確信した。でなければ、アイアンメイデンズに体さばきで抵抗出来る訳がない。


「男の格好をして、お母様を襲った罪から逃れていたのね。貴方の飛空挺に、手榴弾の部品が残っていたわ。機械技師でなければ気づかないところだった。火薬臭も微かにしていたわね。あの爆破テロは、貴方の仕業? 答えてくれたら、最後の報酬をあげましょう」


「違う! おれは、元から男なんだ! 身体が女に生まれついただけで……!」

「トランスジェンダーという性別かしら? それでアリスを追われたのね。その恨みでも晴らそうとしたの?」

「違う違う! おれは、おれ達は、もっといい世界になると信じて……」


「お母様を、爆破したのね」


ルイスはとうとうアイアンメイデンズに羽交い締めにされた。ズルズルと、滑走路の際に引きずられていく。

うな垂れたルイスの顔を、優しく王女は撫でた。

「お母様の抗体を持っているから、汚染された水を飲んでも大丈夫だったのね。その時点で気づくべきだったわ。わたし達、親の仇同士ね……ふふ。まあ、お母様はわたしが直すけれど」


「! じゃあ、父を殺したのは……!」


ルイスが答えに気づいた時には、考えるより先に体が動いていた。

市井で男として育てられた身体は、ある意味、アリス達より、タフだった。

「父の仇ッ!」

彼はアイアンメイデンズを振りほどいて、王女にタックルをかましていた。

王女は足を踏み外し、第二階層の端から空へと落ちていった。

ルイスは危ういところで第二階層にとどまった。


咄嗟にアイアンメイデンズが、落ち行く王女に一斉に手を伸ばす。

「あとは任せたわ、アリス達! お母様を、この国を、お願い!」

アルストロメリアは、女王の心臓を素早く胸から取り出し、アイアンメイデンズに向かって投げた。

アリス達の、機械で出来た腕がスルスルと伸びて、縄のように絡みつき、女王の心臓を空中で確保する。

アルストロメリアはそれを見届けると、目を瞑り、己の運命に身を委ねた。


騒ぎの隙をつき、ルイスは自分の飛空挺に飛び乗り、滑走路から逃げ出していた。

逃げる飛空挺に、近衛が移動式の銃を向けて、連射する。

しかし、ルイスは飛空挺をうまく操って、雲の陰に隠れてしまった。


数日後。

アルストロメリアの、無惨に壊れたバラバラの遺体が、第三階層の外れで発見された。

部品は全て回収され、アルストロメリアは国葬となった。

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