交渉
ルイスは、酒場の裏口でアルビドゥスを待っていた。
薄闇の中で、アルビドゥスが業務ゴミを表に持ち出すまで、果てしなく長い時間が感じられた。
「アルビドゥス。おまえは、来週までには第二階層についていたい、そうだろうか?」
アルビドゥスは真顔でルイスを見て、頷いた。
「貴族が処刑されるからか?」
アルビドゥスは頷いた。
「電子新聞も止まっているのに、よく知っているわね。断頭台の整備を請け負っているの」
それは本当の話だった。
アルビドゥスの脳に仕込まれた通信機に、アイアンメイデンズから連絡が来ていたのだ。
「ねえ、まだ貴方の名前を聞いていないんだけど」
「ルイスだ」
「ルイス。わたしを乗せてくれる気になったの?」
「幾つか、話して貰えたら、考えてみてもいい。第二階層までなら、運び屋なら大抵は誰でも辿りつける。だが、二人乗りとなると話は違う。おれの飛空挺なら、間違いなくおまえを第二階層に送り届けられる」
ルイスは息を継いだ。
「亡き父チャーリーが最期に整備した、形見のフネだ。墜とす訳にはいかねえ。こっちだって本気を出す」
「だから、先に父の仇を教えろと?」
アルビドゥスは微笑んだ。
「それは最後よ、ルイス。第二階層に無事に着いてからの報酬。わたしは貴方の飛空挺を充分に飛ばせるだけの燃料や水を負担するわ。勿論、往復分ね。それに上乗せて、金貨で良ければ幾らか出せるわ。あと、貴方の望みは何?」
「おれは……大コンピュータに、何て登録されているんだ?」
「知らないわよ」
すげなくアルビドゥスは答えた。
「電子新聞も来ないし、第一階層の大コンピュータは動いていないみたいだもの。何処からもアクセスしようがないわ。そもそもわたしは、第一階層に用は無いんだから」
――それとも、貴方、大コンピュータの登録が気になるような事情を、隠しているの?
――本当は、第二階層民なのでは無いの?
アルビドゥスの無機質な目はそう告げていた。少女の視線が、ルイスの、第三階層民らしからぬ、病魔と無縁の綺麗な肌に流れる。運び屋が定住している例は少なくないが、階層を渡り歩いて放浪している場合もある。
ルイスの健康な肌は、第三階層以下の汚染された水を全く飲まない者の、それだった。
「……わかった。乗せるよ。いつ何処で落ち合う?」
ルイスはアルビドゥスの都合に合わせ、飛空挺を準備しておくと約束した。
前払いで金貨を数枚、必要経費の他に渡される。
「……船内の荷物を退けないと、二人乗りはきついな」
帰りがてら、夜空を見上げると、第二階層の影に重なるように、第一階層が遠く高みに見えていた。
アルビドゥスは、世話になったおかみさんと店主に、別れの挨拶をし、今までこっそり働かせてくれたことを感謝した。




