爆破テロ
その夜、エルトミーナ国、第一階層・宮殿内にて、幾つかの爆音が響いた。
女近衛が女王ヴィクトリアの居室に駆けつけた時は、機械女王は胸を押さえて蹲っていた。
「お母様!」
機械技師でもある王女アルストロメリアが駆け寄り、破損した女王の真鍮の心臓を外して、居室の非常用人工心臓に女王を直接、繋ぎ直した。
機械女王ヴィクトリアは一時的に、覚めない眠りについた。
アルストロメリアは、続いて、ねじを巻いて自身の胸を開けると、傷ついた女王の心臓を、胸部に脈打つ自分のそれと繋ぎ、破損を食い止めようとした。
背後から、再び爆音が聞こえる。
今度は歯車機構エンジンで動かしているアナログコンピュータのクランク部分が吹き飛んだ音だ。
あれがなければ、国民全員のパーソナルデータが分からなくなってしまう。
不老不死の機械女王による、完璧な管理社会が、絶対王政が、停止してしまう。
それにしても、と王女は眉をひそめる。
この第一階層に存在するのは、女王の細胞を移植された存在――王女とその控え、アイアンメイデンズと呼ばれるアリス達、そしてアイアンメイデンズから抜擢されて成長した女近衛だけだ。
しかし、従順なアイアンメイデンズにも、近衛にも、こんな謀反めいた言動は似つかわしくない。
彼女等は完璧な女王のしもべだ。
誰が一体、こんなことを。
『アリスナンバーサーティーン、認証』
ルイスは一人、自動防衛システムをかいくぐって宮殿にアナログ爆弾を仕掛けていた。
自身がアイアンメイデンズだった記憶は、幼すぎて覚えていない。
彼がまだ彼女だった頃、物心がつくかつかないかの、幼いアリス達の一人と呼ばれていた頃、左腕に本来女王の細胞を移植されたものにはあるはずのない、陽性腫瘍が見つかった。
彼女はアリスの一員に相応しく無いとされ、第三階層に放棄されたのだ。
左腕は切り落とされ、今はゼンマイと歯車で動く義肢をつけている。
義肢とアナログコンピュータを繋ぎ、自分を再認識させるなんて、容易だった。
その証拠も爆弾で吹き飛ばし、ルイスは、主犯のジョンと、数少ない仲間と共に、隠していた飛空挺で川に突っ込み、水の流れと共に第一階層を去る。
不老不死の機械女王は葬った。国民全員のパーソナルデータを掌握する大コンピュータは停止させた。
フライトに必要な航空官制系統は、意図的に生かしてあるが。
ジョンの言葉を借りれば、これで女王主導の絶対王政の時代は終わる。
あとは、第二階層の貴族たちを、第三階層の富裕層が引きずりおろすだけだ。
市民の、市民による、市民のための政治体制に、近づこうとしている。
ルイス達は、そう思い込んでいた。