僕、試験受けます
*
「リス…アリス…起きるのです、アリス!」
「ふぁいっ!!」
耳元で叫ばれた反射でガバッと飛び起きる。働ききってない頭であたりを見回しここ学園へと行く馬車の中だと思い出した。
「アリス、窓の外を見てみるのです。学園はすぐそこなのです」
シャッとカーテンが開き、車内が光に包まれる。窓から外を眺めてみると、出発した時ののどかな田舎の風景とは打って変わって賑わいを見せる都になっていた。
「ここが首都リュミネリア…」
「そうなのです。そしてあそこに見える城がリュミネリア魔法学園なのです」
窓から見える城、前世でいえばホグ〇ーツ魔法学校みたいな外観をしている。
城から突き出た塔は今にも空に届かんばかりである。
「これが僕がこれから通う学校なんですね…」
「ちなみに寮はあの塔なのです」
(まじか…)
馬車が大きな門をくぐり学園の敷地へと入っていく。今日は休校日なのか煉瓦で舗装された道はたくさんの生徒が歩いていて興味深そうにこちらを見ていた。
「申し訳ないがこのまま試験場に進むのです。今ここで降りるとちょっとした騒ぎなのです」
辟易した風に言うアデルの顔は複雑に歪んでいた。うれしいけど困る、といった表情である。
「…なるほど、アデルは人気者なんですね」
「私は望んでないのです…」
幼女のような容姿に学長ができるほどの実力、話してみた限り知識も学者並にある。
人気が出ないのはおかしいほどに人気者の素質がある。
その時馬車が止まり、戸がノックされた。
「どうぞなのです」
アデルが入室を促すと、端正な顔立ちの長身な青年が現れた。
「アデル、武術場につきました…その子がアリスですね。さぁ、時間はないですよ」
「わかっているのです…アリス、ついてくるのです」
青年に続きアデルが車外にでてアリスがそれについていく。
馬車を下りると大きな館が目の前に建っていた。
「城の敷地内に館…」
「ここは一番初めに建てた建物なのです。生徒たちの実技試験や魔法の練習、試合はここでするのです」
重厚感のある扉を開けると広がっているのは宮殿のダンスホールの様にきれいな広場。
よく見てみると壁のいたるところに、青白く光る機械が等間隔に設置されている。
「アデル、あの機械はなんですか?」
「あれは私が開発した魔法断絶機械なのです。このホールでは放った魔法が館の外に干渉しないように外と仲を魔法的な壁で隔ててあるのです」
たしかにあの機械からは微かな魔法の気配がする。魔法を否定するような意味合いが持たされているために冷たいような、嫌な感じのオーラである。
「さぁ、アリス。試験を行うのです。セル、試験内容をアリスに教えるのです」
そういうとアデルはとことこと歩いていき壁に置いてある椅子に座ってしまった。
「初めまして、僕はセル・グリナギア。イデルの兄にあたるよ、僕とも是非砕けた感じで話してくれるとうれしいな」
「初めまして、アリス・カータレットです、よろしくお願いします!母様の兄上様なんですね…!母様ってすごい御家の出なんですね…」
「イデルは家のことを話したがらないからな…さて、試験について説明するよ」
そういうとセルは空間に手をかざし架空の用紙を出現させた。
「君には各級の魔法を1つずつ使ってもらうよ。災厄級は使わせられないけど、神聖級は試してもらう。魔力が足りなくなったら申告すること。その時点で試験は終わりだ。魔法の順番は君次第、僕の目の前で全部の級の魔法を使って、見せておくれ」
そういうと紙は消え再び静寂訪れた。
初級~神聖級の魔法を今ここで使う。別々にやっていたら魔力が持たない。
では、初級のものに重ね掛けをしていったらどうだろうか?再度新たに魔力を注ぎ込む必要もないし、時間も少なく済む。
「わかりました、やってみます…神聖級の魔導書をお借りしてもいいですか?」
「今出すのです」
アデルがそう言いポケットに手を突っ込むと明らかにサイズ感の合わない大きな書物が小さなポケットから出てきた。
(〇次元ポケットだ…)
「ありがとうございます」
魔導書を受け取り中身を確認する。今回は自分が使ったことのある風魔法を用いることにした。
深呼吸をし、精神を落ち着かせる。このあいだの様に魔法の暴走などしないように。
「では行きます…『聖なる風は安らぎを運ぶ【清風】!』」
小さな竜巻が手の上で踊る。初級はクリア。ここに新たな魔法をかけ、中級の魔法にする。
『地を撫でる風よ、ここに現れろ【cyclone】!』
さらに大きな竜巻が手の上に現れる。重ね掛けは成功、概念的に可能であることが証明された。
『大地を揺るがす神聖な風よ…、我の願いを聞き、我に耳を傾けよ…【cyclone・burst】!』
さらにあの時家の壁を壊した竜巻が現れる。今度は魔法コントロールで無理しない大きさにとどめられている。
次は神聖級。初めて使う魔法だし、そろそろ魔力が尽きてしまう。
『世を吹き消す力を持つ竜よ!我に力を貸し、その力を我をもって顕現せん!【maximum・cyclone・burst】!!!!』
もはや強風が過ぎて何の音も聞こえない。ただ魔法を放ち立つだけで精いっぱいである。
足に力が入らない。明らかな力不足。魔力が尽きかけている。
(はやく魔法を終わらせなければ…)
家でやったように竜巻を手繰り寄せるように、手の中にしまい込むようにそっと引き込んでいく。それと同時に竜巻も段階的に小さくなっていく。
「まさか…魔法の後退もできるなんて…」
セルのつぶやきは今のアリスには聞こえない。魔法を小さく終わらせていくことで精いっぱいである。
やがて竜巻は小さな緑色の光を放つ球になっていった。しかしアリスの魔力は尽きてしまいその球もすぐに消えてしまった。
その場にへたり込むアリス。セルが慌てて駆け寄ってきた。
「お疲れ様アリス。…すごかったよ、今の1学年で神聖級を使えるのは君を除いて1人しかいないんだ。君を1学年Aクラスに歓迎するよ、僕が担任をするクラスさ」
「あ、ありがとうございます…光栄です…」
そういってアリスはそのまま眠り込んでしまった。起きていることすらままならない疲労量だったのだろう。
そのアリスをセルが抱えアデルのもとへ運ぶ。
「想像以上なのです…この子は6歳ですでに大人すら使うことが困難な神聖級をマスターしているのです…」
「イデルはとんだバケモンを生み出したな…」
「皇帝に見つかったら完全に徴兵、皇帝直属魔術師決定なのです…」
「せめて卒業までは隠し通さないと…」
アリスの意識がない状態で進んでいく話は、これからアリスを困難の渦に沈めていく火種となるのだった。
ここまで四日連続で連載してきましたが、来週からは週4作連載とさせていただこうと思います。
今まで以上に中身を練り、面白いと言っていただける話を作っていこうと思います。