僕、学校に行きます
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イデルに連れられ街に必需品を買いに行って早二日。
魔法学校からの返信があった。
中身は、イデルの息子であり上級魔法が使えるという状況により特例で編入を許可、並びに、魔法学校附属寮の入寮を命ずる、とのことだ。
何回目かもわからない学校生活。今までの経験で失敗も成功もして、どうやったらうまく立ち回れるかも学んだ。予習復習の大切さも知った。今世では成績優秀者の枠に入れるよう努力するのみ。
「さぁアリス、準備は整ったかしら?もうすぐ迎えの馬車がくるわよ」
わくわくとした面持ちでアリスを促すイデル。
「荷物は全部詰めました!大きい荷物も魔法便で輸送済みです!」
「さすが我が子、準備はばっちりね」
嬉しそうに頭を撫でるイデルだが、その表情はどこか寂しさをたたえていた。
レノックスも名残惜しそうにアリスを見ている。
それもそのはず、アリスはまだ6歳。親元で甘えているような年齢だ。
「母様、父様…」
なぜか両親を抱きしめたい欲求が勝手に湧き、ぎゅっと抱きしめた。
なぜか涙まで出てくる。子供の体というのはこんなにも涙もろいものだっただろうか。
寂しいという感情が無性に湧き出てたまらない。
「僕…僕がんばります!立派な魔術師になって母様と父様のところに戻ってきます!」
きゅっと眉をよせ、あふれ出る涙を抑える。
イデルとレノックスも泣き笑いの表情でしきりに頷いている。
そんなしんみりとした空気の3人の前に馬車が停車し、中から1人の女性が出てきた。
「イデル、久しぶりなのです」
その女性は、女性というより女の子といった感じの見た目をしていた。イデルの2分の1の身長で、顔は幼女そのもの。
「あらアデル、貴女が自らくるなんて珍しいこともあるのね…アリス、こちらはアデル・グリナギア、あなたが編入する学校の学長さんで、母様の妹よ」
「あ、アリス・カータレットです、よろしくお願いしますっ…!」
紹介され即座に腰を90度におり挨拶をする。前世、会社訪問をした際に挨拶が遅れて面接官の機嫌を損ね、面接に落ちたことがったので挨拶はすぐにするよう心掛けているのだ。
「レノックスの息子にしては礼儀の良い、いい子なのです。私がアデルなのです、よろしく、アリス」
話しぶりから察するにレノックスとも面識があるようで、アリスの後ろでレノックスが切れ気味でアデルを睨んでいる。
「ではアリス、出発するのです。道中、学校のことについて説明するのです」
「はっ、はい!…母様、父様、行ってきます!」
両親に一礼して地面に置いていた鞄をもち馬車へと乗り込む。
中は外見以上に広く、馬車というより小さな部屋。車内を見渡しているうちに気づけば馬車が発車していた。
「アデル先生、この馬車…魔法でできているんですか?」
うずうずと聞くのを我慢できなかったアリスが尋ねる。
「アデルでいいのです。この馬車は基本無詠唱の生活魔法で成り立っているのです」
魔法には2種、基本詠唱が必要な「攻撃型魔法」と、無詠唱で、魔術師であればだれでも使える「生活魔法」がある。この馬車は普通の馬車の中に建設系の生活魔法をかけ見た目以上の広さを実現させているのだ。
「僕にもこんな素敵な魔法が使えるようになるのでしょうか…」
イデルとレノックスは「自分たちのことは自分で」がモットーで生活魔法はほとんど使っていない。アリスも生活魔法は使ったことがない。
「生活魔法は練習したらすぐ使えるようになるのです。上級魔法も使えるアリスなら余裕なのです」
その言葉に安心した表情を見せる。
「ではアリス、私の学校、リュミネリア魔法学園について説明するのです。
リュミネリア魔法学園はジルスタ帝国の首都リュミネリアに位置する帝国唯一の魔法学校なのです。卒業後の進路は多種多様なのです。皇帝から選抜されて国お抱えの魔術師になったり、家に帰って村を守る魔術師になる子もいるのである。イデルは君が住んでいた村の守護魔術師としてあそこに住んでいたのです。アリスが編入するのは第1学年Aクラスなのです。ここまでは大丈夫なのです?」
「母様も、学園に通っていたんですか?」
「ええ、私もイデルも通っていたのです。学園は代々私の家が経営しているのです。じゃんけんで私が負けて学長をすることになったのです…」
悔しそうに呟くアデルをよそにアリスの頭の中では以前聞いたイデルの話が再生されていた。
『母様はね、昔は1人でダンジョン攻略もしたのよ~』
その話を聞いたとき学校に行けば母の様に1人でもやっていける、信頼のおける魔術師になれる。そう夢見たのだ。
「コホン…話を戻すのです」
「は、はい」
咳ばらいを1つしてアデルは姿勢を戻した。
「アリスには学園に到着したら実力試験を受けてもらうのです。魔導書を用いた簡単な試験なのです。あくまで実力を測るだけなので安心して受けてほしいのです。」
「わかりました、あの…もし物を試験中に壊してしまったりしたら…」
「そこは安心するのです。魔法に破壊はツキモノなのです。私が修復魔法で全部治すのです」
「よかった…」
先ほど家の壁を壊したのが若干トラウマになりつつあるアリスは静かに胸をなでおろした。
「アリス、今のうちに休息をとっておくのです。学園に着いたらすぐに試験なのです」
そういってアデルは毛布を空間から生み出した。それをアリスの膝にかける。
アデルが指を鳴らすと車内の光が弱まり、夕方のように暗くなった。車内に漂う香りが眠気を誘う。
魔法ってすごいな…。そんなことを思いながらアリスは微睡の中に沈んでいった。