僕、魔法が使えるようです
1.
(ん…おぉ…俺転生したな…)
少し成長してから突然よみがえる前世の記憶。今までわからなかった計算や世の常識が瞬時に理解できるこの感じ。確かに、今、転生を果たした。
「いかにもファンタジーゲームに出てきそうな西洋風の家だな…」
思わず出した声は成熟しきっていない幼い声。
部屋の隅に置かれた鏡を確認して記憶との照合をする。
今世の自分はアリス・カータレット。カータレット家の長男。騎士の父と魔術師の母を持つ、村でも有名な家の子供。
「まぁアリス、鏡なんて眺めてどうしたのかしら?」
「イデル母様…いえ、身だしなみを整えていました」
イデル・カータレットは美しさと可愛さを兼ねそろえた最高の女性だと、子であるアリスは思っている。自我が芽生える前からアリスはイデルにべったりだった。
「ふふっ、アリスはおしゃれさんね。今日も書斎に行くの?」
「はいっ、父様と母様の集めた書物はとても面白いです!」
そう前々世、前世はニートに社畜でゆっくり活字を読むことなんてなかったので、今世では本をよく読みゆったりとした生活を送りたいのだ。
「母様は庭でお洗濯ものを干してくるわね、父様も庭で剣を振ってるはずよ、何かあったら呼んでね」
「はいっ」
子供らしく元気に返事をし母親を見送る。
(さて、書斎に向かうか…)
最近の趣味は母親所有の魔導書を読みまくること。初級から上級、さらに上の神聖級、災厄級の魔法が書かれた書物もある。
「今日は実際に魔法使ってみようかなぁ…」
今までは頭の中で文章や呪文を読み込むだけ。ただ、頭の中で呪文を詠唱すると体の中を何かが巡る感じがした。イデルに尋ねるとそれが魔力だ、と教えてもらった。
「まずはこれから…」
書斎の一番下にある初級魔法の魔導書を手に取り、ぱらぱらとめくる。初級魔導書はかなり読み込んだためにほとんどのページを暗記してしまっている。
「よし…『聖なる風は安らぎを運ぶ【清風】!』
アリスがそう唱えると同時に弱い風が吹き部屋の埃や汚れを綺麗に取っ手った。
魔法が使えたという確かな手ごたえ。これはアリスにとって大きな自信に変わった。
「使えた…!よし、今度は無詠唱で……!」
空間に手をかざし魔力を掌にこめる。
程なくして手の上に小さな竜巻ができた。今度は竜巻をそのままに維持してみる。
しかし5分ほどで竜巻は消えてしまった。
「ふぅ…どうやら俺…いや、僕には魔法の才能があるようだ」
ふむふむ、とうなずき初級魔導書を棚にしまうと今度は上級魔導書を手に取った。
(この調子なら上級魔導書でもできそうな気がするなぁ…)
「うん…よし…」
上級魔導書の風魔法のページを開き、片手で持ち再度片手を宙にかざす。
『大地を揺るがす神聖な風よ…、我の願いを聞き、我の声に耳を傾けよ…【cyclone・burst】!!』
それは、すぐに起こった。
ドオォォォォォォォ!!!!
アリスの体の大きさを優に超える大きな竜巻がアリスの手から吹き出し、止まらない。
書斎の壁は大きな穴をあけ、外のきれいな景色を映し出している。
(この竜巻を止めないとまずい…!)
しかし、勢いを増す竜巻は止まる兆しを見せない。
(もっと…もっと掌に収めるイメージで…!!)
閃光を放つ手を手繰り寄せるように握りしめる。そうすることで激しい竜巻は空に飛んでいくように消えた。
急激な魔力消費で思ったように立てずアリスはその場に座りこんでしまった。
「アリス?!大丈夫なの…?!」
庭にいてアリスの魔法を見ていたイデルは一目散に飛んできてアリスのもとに跪いた。
「か、母様…」
上級魔法で息絶え絶えなアリスをよそ眼に続いて部屋に入ってきた父親、レノックスが落ちていた魔導書を拾う。
「イデル、こんなのが落ちていたぞ。これはお前の魔導書だろう?まさか…アリス、魔導書の魔法を使ったのか…?」
レノックスが信じられないという顔で床にへたり込むアリスを見つめる。
「そうなの?アリス…」
「は、はい…ごめんなさい…」
勝手に魔法を使った挙句に家を壊してしまった。これは大目玉だ、と目をぎゅっとつむったが、叱責は飛んでこなかった。
かわりに、抱きしめられた。
「すごいわ~~!!さすが私たちの子ね!!この年でもう上級魔法が使えるなんて…!」
「か、母様…怒ってないんですか‥?」
びくびくと尋ねると優しく目を細めアリスの頭を撫ではじめた。
「怒ってないわ、むしろとっても嬉しい…!あなたの成長がこの目で見れたんですもの!…あなた、この子を魔法学校に飛び級で入れましょう!!」
「ま、まてまてイデル、この子はまだ6歳だ。魔法学校は適正年齢は10歳だぞ?飛び級申請なんてできるのか…?」
困惑気味に尋ねるレノックスをよそにイデルは魔法で手紙を書き始めた。
「魔法学校の学長とは顔見知りなの」
楽しそうにわらうイデルは手紙に封をすると手紙に魔力を込め始めた。
『雲を突き抜けて私の望むところへ!』
イデルがそう唱えるのと同時に手紙がほのかに光り、鳥の形になって空いた壁から飛んで行った。
「魔法学校…僕、魔法を学びに行けるんですか?」
「そうよ!アリスは魔術師の才能があるわ!」
自分を抱きしめ嬉しそうに言う母をみてアリスはうれしくなった。母の期待に応えることができる、と。
しかしそこで納得のいかない顔をしている男がいた。レノックスである。
「俺はアリスには剣術もやってほしいんだよなぁ…」
そうだ。ここは剣と魔法の世界。男の人は大体剣を持つ。アリスも剣は使ってみたいと思っていたのだ。
「大丈夫よ!あそこの学校、剣術と魔術の合技をやってる教師がいるもの。剣術はその先生に習えばいいわ!」
自分をよそにどんどんと進んでいく話にとまどいを隠せないアリス。
「さ!そうと決まれば準備よ!あそこの学校は全寮制だもの、物をそろえなくちゃ!いくわよアリス!」
「ちょ、か、母様?!母様どこに連れて行くんですか…?!」
騎士であるレノックスと互角の戦いをできるイデルの拘束から逃れることはできず、アリスはイデルに連れていかれた。