魔女は神にはなれない※流血あり
昔話というものは残酷なものだ。
...破かれたページがある。
魔女は青年の家に1晩留まることになった。
青年は魔女を精一杯に持て成した。
娘が青年の家を訪ねる。
「先程はありがとうございました。本当に、本当に感謝しております。
着きましてはもう1つお願いが御座います。
魔法の稲穂が畑1面に広がるまで村に留まることはなりませんでしょうか。どうか、お願いします。」
魔女はしばらくの間考えてから答えた。
「実は、明日にはどうしても行かねばならない場所があるのです。
この土地の行く末を見守りたいことは山々ですが、そこへ向かわねばなりません。」
「魔女様のお力が必要なのです。実は、山には大変横暴な神がおります。その荒神が魔法の稲穂など、放っておくはずがありません。
魔女様にお見守りされていなければすぐに奪われてしまいます。どうか、お願い致します。」
魔女は娘を、この土地を哀れに思った。
しかし、この土地に居続けることは出来ない。
魔女は悲しげな表情で、娘にこう伝える。
「ごめんなさい、中途半端な哀れみなど持ってしまったからこうなってしまったのですね。
私から山の神にはお話をしておきます。
ですが、私がこの土地に住むことはなりません。」
娘は肩を落とし、帰って行く。
魔女は懐から神像を取り出し、祈り始めた。
ああ、神よ。どうかこの土地に厄の無きよう。
私は神にはなれませぬ。ああ、山の神よ。
その様子を見ていた青年は、急ぎ猟師より1番良いナイフを借りてくる。
魔女が床に着き、しばらく経った後に、ナイフを持って側まで近寄る。
青年はまず、魔女の腕を切断した。
魔女は激痛からか目を覚まし、暴れ出す。
しかし、青年は背後からナイフを突き立て、魔女を倒れふさせる。
逃げられぬよう、脚を切断し、魔法が唱えられないように舌を抜く。
魔女は死なない。死ねない。痛みで意識が朦朧とする。
青年は魔女の腹にナイフを突き立てる。
そして“魔女の心臓”を取り出し、満足そうに笑う。
「山神より魔女の心臓を頼まれていた。
魔女の持ち物はなんでも高く売れるだろう。銭も沢山手に入る。
最初から銭を寄越していればよかったのだ。そうすれば、助けてやったのに。」
魔女は心臓を取られても死なない。
魔女の神像がある限り、魔女は死なない。
青年は魔女の神像を手に取り、笑う
「墓の代わりにこの像を建ててやろう。
魔女は簡単には死なないだろう。この家でずっと暮らしてもらう。」
魔女には最早なにかを考えることは出来なかった。
しにたい
しにたい
しにたい
これから永遠とも言える時間をこの土地で過ごさなければならない。
しにたい
しにたい
しにたい
次の魔女はいずれ産まれる。ああ、なんてあわれな
しにたい
しにたい
しにたい
あのとき、たちどまらなければ。
魔女はこの土地に留まることになった。
青年は山に出掛けたきりに帰ってくることはなかった。
後日、娘が青年の家に向かうと、赤ん坊が神像を抱えて眠っていた。
娘はその子を大切に育て、神像を庭に建てる。
魔女様。どうかこの土地をお見守りください。
やがて、娘は、土地中を黄金色に染め、立派に赤ん坊を育てた。
めでたし、めでたし。
真実というものはもっともっと残酷なものだ。