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魔女のしんぞう。  作者: 枝。
4/6

31回目の今日

今日の予定。

8時40分までに登校。

9時から1年生の入学式を行って、その後2年と3年で始業式を行う。

その後1時間程宿題の提出やらクラスの皆と馴染む会やらを行って帰宅。

家に帰る途中で先輩より告白される。

31回目も今日は変わらなかった。

朝はトーストと目玉焼きを適当に食べ、パパが会社に出掛けたあとママが間違えて私の分までお弁当を作ってしまったといいながら私に渡してくる。

可愛いおにぎりと綺麗な卵焼きとタコの形に焼かれたウィンナー、それからごぼうの天ぷらが半分くらいみっちりと詰まっている。

ごぼうの天ぷらは昨日の晩御飯だったようだが、もう31日も前の昨日の晩ご飯は覚えていない。


何年間通ったかわからない高校の新しみのないクラスメイトに31回目の新学期の挨拶をして、31回も1字1句寸分たがわず同じ話をする校長先生と教師に心の中で労いを述べながら居眠りをする。

春休みの宿題を提出して、高校生にもなってるのに新学期の顔合わせと称して自己紹介。


31回目の高校2年生が始まった。



「あー、今日こそ明日になりたい。もう校長先生の話なんか暗唱しちゃったよ〜...」

「道を変えてもダメ、学校に留まってもダメ、帰る時間を変えてもだめ。

今日は何をしてみる?32回目の高校2年生になるのはちょっと飽きてきたね〜」

「飽きたどころの騒ぎじゃないよ...先輩を幻滅させても、事故ってみてもダメ。帰る手段を変えてもダメ...あ〜どうしたらいいんだろ...」


今日の午後11時頃、私は告白される。

見たこともなかったような先輩に、ごぼうの天ぷらがみっちりと入っている弁当を川辺で食べている時に話しかけられ、彼女になってくれと頼まれる。

もうその事自体は全然嬉しいけど、なんなら先輩もちょっと好きになってきたけど。それは神像にとっては都合が悪い。

私は魔女の子を産まなければならないから。ママのようになると困るから。

いつか魔女の血が絶えてしまうから...


「って言うけど私別に魔女の血を絶やすなとか思ってないんだけどね〜 逆に春見てたら可哀想に思えてきちゃう。魔法も使えない、魔女にもなれない。だけど魔女の神像に縛られなくちゃならない。可哀想〜」

「本当に、私って可哀想。こんな魔女に寝る時は添い寝されてトイレはじっと見られてお風呂は強引に一緒に入られて、プライバシーがもう0。」

「だって春は魔法が使えないから、いついかなる時になにが起こっちゃうかわかんないじゃん!?」

「何が起こってもどうせ神像が朝まで戻しちゃうんだから変わらないよ!神像の呪いでどうせ子供を産むまで生かされるんだから!」

「違わないよ!春の記憶に残るんだからそう何回も春を死なせるわけにはいかないじゃん!」


人の死というのは案外気軽にくる。

車に轢かれたり、転んだ時打ち所が悪かったり、強盗に襲われたり、学校に暴徒が乗り込んできたり。私は案外何度も死んでいる。

死んだり死にそうになったりすることは勿論神像に都合が悪いため、無かったことにされる。

そうなると私は、大変痛い思いをしたり、苦しい思いをしたりしても 次の朝にはケロッと健康のまま過ごすことが出来る。

なお、それが幸せと取るか不幸と取るかは人次第だ。私としては、RPGなんかの主人公はこんな気分なのかと思ってしまう。


私にとってのゲームオーバーは大きくわけて3つだ。

1死ぬこと。またはそれに準じて死にそうになること。

2不純異性交遊に繋がるようなことが起きること。

3魔女の存在の否定。


これらのことが起こると、気がつくと朝になっていて1日をやり直すことになる。

魔女はそんな私の隣にいつもいて、たまにチャチャをいれてくる。


なんでもない1日。なんでもない今日。でもこのままだと明日は来ない。


「あの」


件の先輩に声をかけられる。ああ、またやり直しか。

面倒くさそうな顔を振り払い、貼り付けたような笑顔で答える。


「はい。なんでしょう。」

「葉っぱ、着いてますよ。その、髪に。」


ん?


「あ、ありがとうございます...あ、ほんとだアハハ...」

「いえ。」


先輩は会釈して私を追い抜く。

おかしい。


「おかしい〜!」

「うるさい魔女!」

「魔女納得いかない!」

「耳元で騒ぐな魔女!」


先輩はいつもならここで私に告白をしてくる。

話がしたい。うちもお袋が間違えて弁当作ったんだ。一緒に食べよう。

そんな感じで。


「予定通りに、ならなかった日って...初めてじゃない?」

「おかしい〜!!」

「うるさい!」


時計を見る。11時少し前だ。いつもよりも少しだけ早い。

予定通りの今日だったはずなのに、少しだけ変化が起きた。

先輩が見えなくなってからも呆然と道を見て立ち尽くした。

31回目の告白とはいってもロマンティックの欠けらも無いものだ。

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