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第1章 ファイル7

 キールに取り付けた発信機を受信して、車のナビに映し出す。

 どうやらターゲットは長谷川カンパニー本社に向かっていると思われる。

「長谷川本社ビルの中に確か高性能技術が備わっている修理センターがありましたよ。自分を修理するつもりですかね?」

 その問いに闇絵黒子は鼻で笑って答える。

「私にはかかってこいと言ってるように思えるがな」

 途中。キールの走るスピードが彼女の予想を超える速さだったのか、やむ無く高速道路をつかう。

 そして彼女はコートのポケットから、先ほど長谷川宅の机の上からくすねてきたと思われる一枚のデータ資料を取り出して目をやった。

「それより藤野。モアリジシタンって知ってるか?」

「あ、あれですよね。軍事用シェルターとかに使われてる断破防壁材……って! まさか!?」

 黒子は人差し指を藤野の鼻先に向けた。

「そのまさかだ……ヤツの造りはそのモアリジシタン製。アキレス腱部分は‘マグナム弾レベル’で撃ち抜けたが、ヤツの体のほとんどがソレだ。家庭用ロボットにしては物騒すぎて開いた口も塞がらんだろう?」

 まったくもって冗談では無いレベルである。

 戦争でもおっぱじめれるかのような機体。

長谷川の手に入れた殺人兵器は初めから戦うための機能を備え付けられて造られたとしか思えない戦闘兵器だった。

「そんなヤツに太刀打ちできるんですか?」

「うむ。外装は剥がれても肝心の内部は無傷、運動量も半端じゃないうえに装甲の高度も軍事級ときたもんだ。ヤツの機動力を削ぐにはバズーカ砲でも持ってくるべきだったかな?」

 闇絵黒子は不適な笑みを浮かべる。

 しかし藤野は相手にばかり感心してはいなかった。

 異常といえば、そのキールに対等に渡り合った彼女もまた半端ではない。

「僕が思うに黒子さんも十分に‘軍事級’だと思うんですけどね。その強さも、その銃も」

「この強化された肉体は私の能力のオマケのようなものだ。だが次は様子見なんて柄にもないことはしないつもりだ……私のペースに引きずり込んでやる」

 彼女が根拠のない嘘を言えるような人物でないことは、小一時間ほど対話すれば誰でも分かるくらいだ。

 先ほどの戦いは本当に彼女は本気では無かったのだろう。

 まさに化物と化物の戦いと言っても過言ではない。

 そして彼女はガンホルダーから、先ほど長谷川宅で使用した銃を取り出した。

「そしてこの銃はベレッタを元に私が改造して作った『NDSK』というハンドタイプの拳銃だ。威力と飛距離を二つのギアをいじれば自由に変えることができる」

 確かによく見るとトリガー付近にギアが二つ付いているようだ。

 彼女の銃に対しての改造技術は、素人の目から見ても器用というレベルを遥かに超えている。

 彼女は説明を省いたが、銃身装着照準器の新型ビルホースをはじめ、特別発注である特殊グリップに軽量されたシリンダー。

 しかし弾薬は支給用通常弾……つまりは刑事であれば手に入る品だ。

 だが火力はギア調整次第では、雑誌を撃ち抜くことすらできない威力からマグナム弾のソレを簡単に凌駕するほどの破壊力をもつ。

 拳銃というサイズに収まった悪魔の火器。大型軍用ライフル銃が可愛く見えてしまう。

「さらに普段はコレに二挺加わるがな。今は二挺ともメンテ中のうえ、今回の相手には『魔力を持った銃』はあまり効果に期待できなかっただろう」

 黒子のその言葉の理解に苦しむ藤野。

 だが紛れもなく、黒子は三挺拳銃使いである。


「とにかくそれでも十分すぎるくらい頼れるってことは理解しましたけど、キールの殺人動機の件は実のところまだ分からないんですよね」

 藤野は黒子が異例と言う家庭用ロボット・キールの殺人動機に焦点をおいた。

 藤野は黒子の顔を伺う。

 彼女の見とれてしまうその美貌から、ナイフのように鋭い眼差しをみせる。

「アイツはね……本田なおみの事件は事故ということにできたんだ」

「……事故ですか?」

「あくまで‘命令’したのは長谷川玄八郎だからな。だがアイツはターゲット以外である本間毅のボディガードを四名殺害している……殺人を楽しんだんだ」

 キールの変化が見られたのは、本間毅の殺害任務からだろう。

 その後のオーバーキルは彼の意思に間違いはない。

「そして主である長谷川本人も殺した」

 佐々木と黒子の二人の意見を、失礼ながらも詭弁に思う藤野。

「う〜む。AI知識学も本格的に勉強しておくべきだったかな?」

 黒子は運転席側の窓を開けて、寒空の夜風を肌身に感じてから口を開く。

「人工知能は単純に言うとコンピュータに人間と同等の知能を実現させるための基礎技術のことだ」

 彼女越しに見える眠らない街、大東京都市の高層ビルが藤野の視界に入る。

 妖艶な彼女の美しさに合うネオンサインのその景色は美術的価値すら感じるほどだ。

「アイツはロボット三原則を無視し、学習機能を働かした。そしてAIは部分的に殺人というシステムを構築したんだ。

つまり家庭用ロボットが踏み込んではならない領域に進化して当たり前のように統合し、そして生成して出来上がったのが殺人鬼キールということだ」

 藤野は自分の顎に手を当てて、考えながら彼女に問いただす。

「哲学的に例えていうなら思考や論理プログラムが人間の基準に並び、ヤツは検証して認識したと?」

「そんなところだが、納得いかないと言った顔だな。ハッキリとした答えが無いと不満か?」

 藤野の脳裏では人間と機械の区別をハッキリとさせてしまっているためか理解するのは難しいようだ。

 しかしロボットが暴走して自ら殺人を犯した事実に変わりはない。

「コレを佐々木はロボットには魂が宿ると言ったんだ。なんとも笑えない話だな」

 はぁ、と溜め息をつくように藤野は彼女に対して返事をする。

「しかし黒子さんの知識力はスゴいですね。自分のイメージではコンピュータ関連には無縁かと思ってましたよ」

 藤野の問いに彼女は即答で応じた。

「たわけ。私はお前のイメージ通りのアナログな女だぞ……覚えているだけであって理解はしていない」

 黒子の発言に再び藤野は溜め息に似た返事をした。


――バリバリバリバリッ!!


 直後。ヘリコプターが黒子の愛車の上空を通り過ぎた。

 ヘリから聞こえる爆音に、藤野は軽く耳を塞いだ。

「GC42型スナイパーバレー。特殊機動隊のシコルスキーヘリだな」

「本社に向かってますよ。忍先生が連絡したんでしょうか?」

 確かに応援を寄越したのは鑑識課の木村忍だった。

 知世の情報を黒子に提供後……事件の事の大きさを自らの判断で、長谷川宅と本社のビルに特殊部隊の出動要請を杉田署長に提出したようだ。

 確かに家庭用ロボットが殺人を犯すという空前絶後な事件に防衛省も黙ってはいない。

「このまま本社に部隊が突撃して事件解決ですかね?」

 藤野の言葉にヘリを目で追いながら黒子が答える。

「どうせ持ち場で待機および現状維持が手一杯だろ? まったく頭のキレるイカれたクソ野郎はいつも敵側だと相場は決まっているな」

 そう言って運転席側の窓を閉める。

「藤野。四課のルールをまだ言ってなかったな」

「ルール?」

 彼女は耳に掛かった髪を掻き分けた。

「生死を問わず(デッド・オア・アライブ)。拘束不可の場合は破壊(殺す)を許可されている。――ルールに従え」

 黒子の教えに藤野は黙って頷き、改めて気を引き締めると徐々に視界に入ってくる長谷川カンパニーに目を尖らせた。

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