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第1章 ファイル10

 この死闘もクライマックス。


 そう思いながら藤野はツバを飲んだ。

 その彼の瞳は少しばかり惜しむような瞳にも見える。

 自分が危険な目にあったにも関わらず、まるで舞台を優雅に舞う踊り子のように美しいこの戦いをもっと見ていたい……そんな瞳である。


 しかし黒子にそんな余裕は無い。

 いつも全力で戦うことを心がけている黒子は、戦いを楽しむことと同じくらいに戦いを長引かせないように意識していた。

 決して戦闘狂のように長い死闘は望まない。

 例えどんなに優位な戦況でも、瞬時に立場が変わってしまうことを彼女は十分に理解しているからだ。

 それにアーティファクト・オーバーサイドの発動できる時間というのも存在する。

 影が無いことにより彼女のこの力の発動時間はなかなかに短いようだ。


「決めた。土手っ腹に風穴あけてやることにしよう」

 グッと拳を握りしめて、黒子は堂々と構えてみせる。

 一方のキールも覚悟が出来た様子で構える。

 だが勝負は一瞬にして、そして呆気なく終わりを告げた。

「はぁぁぁぁ!」

 勢いよく駆け出した黒子に対してキールは遅れて前に出た。

 しかしキールの勢いを殺すように、彼女の拳が腹部を捕らえて貫いた。

 強度に絶対の自信があるハズのキールの体は風穴が開く以上に、上半身と下半身が千切れるように離れた。

 無数の部品がアスファルトの上に散らばりキールの体は虚しくも落ちた。

 遅れて下半身も膝から崩れるように倒れる。

「貴様に言って正しいか分からんが……永遠に眠れ阿呆」

 抵抗の様子を見せることなく、キールの機能は停止した。


 一瞬にして決着がついたのには訳がある。

 アーティファクト・オーバーサイドは錬金術や妖術、さらに魔術的な力が少なからず影響している。

 この類いの力を自分の意思では自由に使えない黒子には、この力を無意識に引き出しているという言い方が正しいだろう。

 その無意識で全ての属術を一気に撃ち放つことも、一つの属術を撃ち放つこともできてしまうのだ。

 これは相手の状況などに影響して、力そのものが自動で最適で有効な術を拳と同時に付加させている。

 敵にとってはあまりにも恐ろしい力と言えるだろう。

 今回の付加効力は錬金術によるモノであり、本人にとってただのボディブローでも力の影響でキールの体は脆い物質へと変化したのである。

 この力により、今では藤野の力でもキールを簡単に破壊できるだろう。


「今までも、そしてこれからも私に殺せないモノは無い」

 そう言うと黒子はその場に片膝をついた。

 同時にアーティファクト・オーバーサイドを解除する。

 最後の一撃には力の消費が激しいものだったらしく、さすがの彼女も大きく息を吐いて額に軽く汗が出る。

「まだ慣れんなコレは……それに検索能力も使い勝手が悪いし、得をしているのか損をしているのかイマイチわからん」

「大丈夫ですか黒子さん?」

 藤野はすぐに彼女のもとへ向かい具合を伺う。

「ん、骨も内蔵も大丈夫だ。心配いらない」

 戦いが終わったのを実感して、藤野は緊張が途切れるように顔を緩ました。

「作ったモノが壊れたのではなく、初めから壊れたモノが作られたんですね」

 藤野は倒れて動かなくなったキールを見つめながら言った。

「まぁ、その言い方は間違ってはいないな。なかなかに微妙だが」

 そして上空を飛び回るヘリと下にいる警官達を見下ろして、再び藤野が口を開く。

「この事件は独占で黒子さんの手柄ですよね」

「たわけたことを言うな藤野。幾人には捜査協力してもらったし、私は英雄的なのは嫌いだぞ」

 彼女は立ち上がると、藤野に背を向けてさっさとコートを拾って歩きだす。

「それより良かったな藤野」

 藤野は首をかしげながら曖昧な返事をした。

「本部の連中が隠しきれなかった場合は表沙汰になって、この事件は歴史の教科書に載るぞ。貴重な体験だな」

 その場合は市民も警察も互いに影響が及ぶことになり、藤野は苦笑いを浮かべた。



 夜中というより、もはや朝方にちかい現在。

 二人はある地下の劇場にいた。

 長谷川カンパニー周辺に群れていた同職人種を掻い潜り、やって来たのは歌舞伎・人形劇場。

「なんでこの時間帯に地下でこんなのやってるんスか?」

 ガラ空きの観客席、上手の方で座る藤野は隣の席でくつろぎながら劇を見ている黒子に問いただす。

「ん? 嫌いか?」

 彼女は集中していたあまり、藤野の質問をちゃんと聞いていなかったようだ。

「いや、だから時間帯ですよ時間帯」

「あぁ……ここはヤクザ御用達の劇場だよ。表の看板に小さく書いてあったろ? いろいろと奴らには都合がいいみたいだな」

 やっぱりこの時代の世の中は何か変だ、そう思う藤野。

「警察が堂々とココにいて大丈夫なんですか?」

 その問いに黒子は即答する。

「堂々としてるからいいんじゃないか。本部へ戻るまえの息抜きだ、大目にみろ。

それにお前も本部へ戻ってすぐに報告書を書くのも嫌だろ? そこんとこ署長はうるさいからな」

「そーいう問題じゃないですよ」

 藤野は不安げな顔で、だが一緒に劇を見るしかできないでいた。

 舞台では二人の操り人形。殿方と花魁との口喧嘩の最中だった。

 物語は幕末の時代の小さな町で、二人の男女が一夜の恋に燃える単純で分かりやすい話だった。

 花魁の持つ蛇の目傘がとても色鮮やかで魅力がある。

 藤野は作りの良さに感心する。

「好きなんですか、こーいう舞台劇」

「あぁ……歌舞伎や人形劇は好きだ。役者より黒子に興味があると言うべきかな。

役者は顔が命というだろ? その顔を隠す黒子は最高の役者だと個人的に思うんだよ。私と名前が同じだから親近感が湧くしな」


 そうこう会話をしているうちに劇が終わり、劇場はスポットライトで明るくなる。

 二人は席を立ち、表に留めてある車に向かった。

 途中、黒子はポケットからタバコを取り出して火を付ける。

 その光景を横で見ていた藤野はハッと気付いた。


「黒子さん。タバコの銘柄替えたんですね」

 藤野は口元で笑みを浮かべた。


「さっきココに入る前にコンビニで買ったんだ。これからお前に会う度に指摘されるのはうっとうしいからな」

 それはブラックスターからハーブ・ス・ルードという女性用の軽いタバコだった。

 地下を出る階段を上り、彼女の愛車が姿を現す。

 その黒いボディは憎いほどに輝いている。

 その車の前に立ち、しばらく考えた黒子は助手席に座った。


「藤野。お前が運転しろ」

「いいんですか? だって……」

「かまわん。今日は疲れた……安全運転で任せる」

 藤野はしばらく佇むと、我に返ったようにパチパチと瞬きを数回してから運転席に座った。

「了解です」

 朝日に照らされながら、ゆっくりと車は走りだした。



 第1章 『壊れた殺人鬼』 完

今回『追憶捜査ファイル黒子』第1章が完結です。

まだまだ続きがありますが、なかなかに執筆が大変で時間がかかる日々で……でも、おかげで勉強にもなりました。

なんとも頭の悪くて物語に矛盾や説明不足がありますが、これからも何とぞヨロシクお願いします。

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