万引ききんぞく
ひさびさの更新
近所のコンビニが無人レジになったので、興味を持って行ってみた。
自動ドアを入ると、『いらっしゃいませー!』と肉声に近い音声が、店内スピーカーから鳴った。
挨拶は犯罪を抑制する、と通学路のおじちゃんに小さい頃教えられた。
たしかに無人であろうと、人間の存在をこう匂わされると、悪いことをする気はなくなる。
俺はゼリービーンズを探して、お菓子コーナーへ行く。
このコンビニには、レジというものがそもそも存在しなかった。
ホットスナックのケースが置かれているカウンターは存在するが、そこにヒトやレジキャスターはない。
ゼリービーンズがなかったので、かわりにペットボトルのコーラを手に取る。
そして「そのまま」、自動ドアへ向かう。
胸がドキドキとする。
ウィーン。
俺の肉体が、コンビニ店外に出た。
後ろを振り向くと、自動ドアが閉まっていた。同時にスマホに通知が来る。
『お支払いを完了しました』
万引きをしたわけではない。
このコンビニの商品には、すべて認証のためのセンサーのようなものがついているらしい。
店内のカメラで、商品が店外に持ち出されるのを確認すると、自動的にクレジットカードから支払い手続きが実行される。
このような仕組みなため、事前の会員登録の手間はあったものの、レジに全く並ぶ必要がないというのは非常に便利であった。
俺は、コーラのキャップを開けて、半分ほど一気に飲む。
慣れないシステムに、緊張で喉がカラカラだった。
「また……来てみるか」
新しいものに触れるこのワクワク感は、クセになる。
後日、深夜に目を覚ました俺は小腹が空いたので、もそもそと布団から這い出し、ジャンパーを羽織る。
そとは少し肌寒かった。温かいものを食べたいと思いを巡らす。
無人コンビニにはおでんがなかったが、ホットスナックまではいけても、おでんは技術的に厳しいのだろうか。
自動ドアをくぐり、コンビニに入ると、他に客は誰もいなかった。24時間営業とはいえ、深夜はこんなものである。
労働力不足で、24時間コンビニは廃止されるかもしれないと考えていたが、このように無人コンビニが増えれば、安泰かもしれない。
夜に闇が返されるのは、まだまだ先となるだろう。
俺はカレーパンを手に取る。包装の袋には、激辛!とポップなロゴが踊っていた。
べつに激辛に強いわけでもないので、辛さに耐えるための飲み物を買おうと、飲料コーナーの冷蔵ボックスに向かうと。
そこで、四つ足のロボットがかしゃかしゃと歩いていた。
「なにこれ…?」
思わず独り言が漏れる。四角い銀色の箱に、四つの足と、一本のアームが生えている。
ロボットは、アームを用いておつまみコーナーの燻製たまごを、箱の中に放り込む。そのあと、パスタコーナーを物色して、ペペロンチーノを箱にいれた。
「買い物代行ロボット……的な?」
首を傾げる。しかし店内の入店には、虹彩センサーが使われてると聞いた。ロボットが1人で入れるはずがない。
そう思って、ロボットを覗き込むと、箱の表面に、綺麗なビー玉のような球体が埋め込まれていた。
「まさかこれが眼球のかわりか?」
無人コンビニに、買い物代行ロボット。
不思議な、いやマッチしすぎている組み合わせだ。人間である俺こそがこの場ではイレギュラーなのかもしれない。
俺は悪いこともしていないのに、肩身が狭くなって、カレーパンを持ってさっさと店内から出ていった。
後日ニュースで、無人コンビニで万引きする四つ足ロボットの動画を見た。
ロボットの箱の中に商品を入れると、センサーが遮断されるらしい。
俺は通報しなかった罪悪感を持つと同時に、少し試してみたくなって、無人コンビニに向かった。
杏仁豆腐を服の内側に入れて、万引きチックに、店外に出てみたのだ。
『お支払い完了しました』
通知はちゃんときた。服程度ではセンサーは遮断できないらしい。
万引きをするにも、かなり高度な知識が必要になる時代になったものだ。
こうやって悪の技術者と正義の技術者が戦うことで、より世界は発展していくのだろう、とわかったようなことを考えながら、俺は帰宅した。