第七話『魔導戦士リュウオウセッカ』
ここで今一度、多重世界イーデル・アーディアスの説明をしよう。
多くの異世界人がやってくるとはいっても、この世界の大半は現地人で占められている。
時に異世界人は世界の発展を促し、時に異世界人はある種の災害のような扱いも受ける。
それでも放置したままなら、世界はたちまち無法地帯へと変わるだろう。生活に優劣はあるものの、人が人らしく過ごすことができているのは、古来よりいくつもの王国が土地を支配しているからだ。
ここローエンヴィリア大陸には、五つの王国が存在する。
世界でも有数の高い科学技術を誇るガドロビット王国。
数えきれない程の悪性異世界人アーリンマを退治し生きる神話と呼ばれる救世王が統治するアストロウン王国。
科学技術とは反対に魔法による技術が発展したロトウェルズ王国。
龍人、鬼、獣人、といった人外が中心となり統治するギャオガニオ王国。
四つの巨大な王国と、他の大陸の十分の一程度の土地しか所有しないラーゼグリフ王国。
各王国には、それぞれ統治する力を持った王がイーデル・アーディアスを創造したとされる世界神グランドセルから力を授かり、代々受け継いできたのだ。
※
オデルブーケまでの道中、おじいちゃんがそんな話をするが、実のところ私は初耳だった。
「私、初めて聞いたんだけど……」
「ムツミちゃんは、まずお外に興味を持たなかったからのう」
「確かに」
ぐうの音も出ない真実にあっさりと納得したところで、興味深く聞いていた麗衣刃が質問をした。
「世界神グランドセルて、本当に存在するんですか? 私達の世界にもこういった神話はありますが、どれも創作物が多いですし……」
危うく聞き流してしまいそうな麗衣刃の疑問におじいちゃん以外の全員が耳を傾ける。
「うむ、実際に王達が神にも等しい力を持っているのは真実じゃよ。それがグランドセルによって与えられたかどうかは何とも言えんがの」
「まあ、神が与えた力を持った王が統治する。ていう謳い文句だけでも、ある程度の抑止力はあるわよね。語り継がれてきた神話というよりも、語り継がなければいけないって感じがするけどね」
歩き出した当初とは違い、舗装された道になったことで軽い足取りで進んでいた桜花が付け足すように言った。
最初はトリスの手伝いをしようとしていたおじいちゃんが、汗を流すこともなく黙々と台車を引っ張る姿に安心したようで、今では私達との会話に意識を完全に向けているようだ。
「世界神グランドセルの存在を説明する神話はいくつか残されているが、これは話すと長くなるんでのぉ。もし機会があったら、その時に話すとしよう。――ほれ、見えてきたぞ」
少しずつ斜面が緩くなってきていたことに気づいていたが、幸いにも話に集中していたことで心配していた足の疲れを感じることもなく目的地まで近づいていたようだ。
およそ一キロ程先に、小さな町が見えた。イメージしていた町は、もっと行商人とか行き交っているいるような想像をしていたが、遠くから見ればずっとこじんまりしているように見える。町の中に入っても、このイメージは変わらない気がするが。
台車のスピードが若干早くなった気がした。トリスも表情や言葉にしなくても無意識に興奮しているのかもしれない。
「小国ラーゼグリフにある数少ない町の一つ、それがここオデルブーケじゃ」
開けた土地と美しい河川の流れを脇にぽつんと立つ町を見ていると、いよいよ別世界感が出てくる。私を含めた戦隊ヒロインの面々も、こういうことには耐性が無いらしく、自分達が今から向かう場所だというのに到着するまで呆けたように眺めながら歩いていた。
そうしていく内にあっという間に、私達はオデルブーケの小さなゲートを潜る。
「おじいさん、ここに守衛はいないのですか?」
「はっはっはっ、小さな国の小さな町にはいちいち守衛はいないよ。それに一人一人検問していたら、この町はやっていけないのさ。王都なら話は違うかもしれないが、よそ者だらけのこの異世界で商売する為には多少のことは目を瞑っていくものじゃよ」
朗らかなおじいちゃんの笑い声にトリスは抱いていた疑問を口に出すことを止めた。これ以上の下手な詮索は野暮なことのように思えたからだ。
二人の会話を聞きながら町に入ってみると考えていたより町は活気に満ちていた。
レンガや木や藁、土や石といった入手できるあらゆる材料で組みましたという家々にもいくつか種類があり、大きな家や小さな家、屋根が頑丈そうな素材のものからほとんど藁を被せたような家が通りを中心に左右に並ぶ。
家を改装して作っているのか、家の中から飛び出すような形で置かれた木箱には売り物が置かれていた。肉屋もあるらしく、さすがに傷みやすい物は薄暗い場所に保管しているようだ。
私が見た肉屋は、通りに面した方の壁を半分くり抜き、そこから店主が顔を出すようにして肉を販売している。元の世界で言うところのお肉屋さんから冷凍ケースを取り除いたようなものなのだろう。それでも、売買している人を見ると奥からはガチガチに固まった肉塊が出てくるので、私の知らない技術が活躍しているようである。
ヴィジュアル的に目立つ集団だが、周囲のおじさま方の注目を一番集めていたアイリーンが今度は問いかけた。
「おじい様、この町を収める方とかはいらっしゃるのですか? 小さな町とはいえ、それなりの人口もいるみたいですし」
「ほう、アイリーンちゃんは細かいところまで見ているんじゃな。ここに町を収める人間はおらんが、この辺一帯を王様から任された領主様はいるぞ。しかし、もっと大きな街にいるんで滅多なことでは顔を出すことはないがな」
「あの、あまり考えたくはないのですが……。もし何か良くないこととかあった場合は、どうなるのですか?」
「ああ、それはのう――」
突然、視界の外れにあった二階建ての建物の一角が弾き飛んだ。内側から爆弾でも爆発したかのような音と衝撃に、下で商いをしていた人達はその場から大急ぎで散っていった。
「な、なに……」
足に根が張ってしまったかのように身動きのできなくなった私と違い、戦隊ヒロインの四人は駆け足で爆心地まで向かっていた。
瓦礫の隙間から怪我人を救い出し、素早く非難させる動きは慣れたもので、過去に見たことのあるテレビのヒーローそのものだった。
「ムツミちゃん、あれを見るんじゃ」
どうやら、私よりもずっと落ち着いているらしいおじいちゃんが指差すままに顔を上げた。
崩壊した建物の一角の部屋には、二人組の男の姿があった。大柄でスキンヘッドの男と、男性の平均的な身長よりも幾分から小柄な長髪の男が崩れた建物中から見下ろしていた。
男達は示し合わせたように同時に二階から飛び降りると、瓦礫の積もった山の上に着地した。
「アンタ達、何なのよ!」
真っ先に声を上げたのは桜花だった。
スキンヘッドの男は不思議そうに桜花を見た後、隣の小柄の男と笑い合った。
「お嬢ちゃん! 勇気あるじゃないか! だがよ、勇気と無謀は違うって言葉を聞いたことはないのか!?」
「博識でゲスね! アニキィ!」
得体の知れない相手に噛みつく桜花、周りは戦場独特の緊張感に包まれている。のは確かだが、小柄の男のような『ゲスね』という語尾を付ける奴は九十九パーセントぐらいの確立で悪者だ。
おじいちゃんが両手を口の方に伸ばしてメガホンのような形を作れば叫んだ。
「みんな、気を付けておくれ! 奴は、前に話していた悪者アーリンマじゃぞ! おそらく、どこかの世界から飛ばされてきたんじゃ!」
おじいちゃんに言われてしげしげと観察してみると、確かに男二人組はこの世界の服装とは違う格好をしていた。
肩にはトゲトゲの付いたアーマーを装着し、ベルトの辺りには見たこともない形をした拳銃のような物が下がっている。ゴミ袋のような謎のごわごわした素材のズボンを履いているが上半身何も着ていないので半裸だった。
おじいちゃんの声を効いた桜花は身構えると、首から提げたコンパクトミラーをぎゅっと握りしめた。
「待て! ここで変身するつもりか!?」
「止めないでよ、麗衣刃。こいつとやり合うつもりなら、まともに戦ってもダメに決まっているわ。……変身しないと勝てない」
麗衣刃は舌打ちをすると、「チェンジグローブ」と言うと、いつの間にかその右手には様々な機械が組み込まれた分厚いグローブが装着されていた。
「だったら、ボクも協力する。これで二対二だ」
慌てて二人の肩を掴んだのは、アイリーンの細い手だった。
「待ってください、二人とも。彼らはどこかの世界の人間なんですよね!? 怪人でも無い人を相手に変身して戦うなんて……」
「――やめろ、アイリーン」
低い声でアイリーンの腕を掴んで押しのけたトリスは低い声で言った。
「よく見ろ、大勢の人達が傷ついている。……私達が戦う理由は、それだけで十分だ。力の価値や扱い方の説教を聞く前に、私達は目の前の人達の笑顔を守る。……違うか?」
「トリス様……」
トリスに威圧されたアイリーンは、伸ばしかけた手を引けば、視線を逸らすと一歩下がった。それがアイリーンなりの意思表示だと判断したトリスを中央に桜花と麗衣刃の間に立つ。
「威勢の良い姉ちゃんだな、後で可愛がってやるかた楽しみにしておけよぉ!」
下品な笑い声にトリスは気分悪そうに眉間にしわを寄せた。
「一つだけ教えてもらおうか、お前らは何者だ。何故このような破壊行為に手を染める」
「本来なら俺は死んでいたらしいんだが、気づけばここで第二の人生さ。でも俺達はそもそも悪。だったら、やることは一つしかねえだろうが! 壊して、奪って、泣かせて、暴れる! 悪ってのは、そういうもんだ!」
「さっすがでゲスねえ、アニキィ!」
怒りを募らせるトリス、桜花、麗衣刃と違い、まだ希望を捨てきれないアイリーンが訴えるように問う。
「お二人とも! 前の世界では悪だというなら、この世界で善いことの為に生きていこうとは思えないのですか!? 新しい生を受けたなら、やり直すチャンスが出来たとは思えないのですか!?」
アイリーンの発言がよほどおかしかったのかゲラゲラと腹を抱えて二人組は笑う。
「ひーひー……笑い過ぎて、腹が痛くなっちゃまったよ! 目覚めた時に聞こえたんだ、お前は悪としてアーリンマとして生きていけと。悪者には、それが嬉しかったんだよ。お前の役割は悪だと言われたことで、世界から俺達らしさである悪を認められたってことだからな!」
「最高ですゲスな、アニキィ!」
「それにほら、見てみろよ。今もここの宿屋で悪さしたばかりなんだぜ。これを見ても、俺達を説得できると思うのか?」
スキンヘッドの男は親指を崩壊した二階の部屋に向けた。その時、アイリーンは息を呑んだ。
部屋の中には若い娘とその両親らしき男と女が屋根の木材の潰されて身動きが取れなくなっていた。そして、小柄な男の肩には麻袋に包まれた物が入っており、袋の中身が金品であることは疑いようがなかった。
奥歯を噛みしめた桜花が、変身アイテムであるコンパクトミラーを握る手にさらに力を込めた。
「いくわよ! こいつら、もう許さない!」
トリスと麗衣刃も頷くと変身しようとするが――。
「――あぎぃ!?」
スキンヘッドの男が見えないハンマーにでも殴られたかのように、頭が大きく揺れるとそのまま体が反転し足と頭がひっくり返れば地面に顔から叩き落された。
「ア、アニキィ――イギャァ!?」
小柄の男の体が後方に吹き飛ばされると、路地の横に積まれた木の樽に直撃して軽快な音を立てて直撃した。
「……銃撃か」
出来事に気づいたのは、麗衣刃だった。どこか遠くの視覚外から、この二人を狙い撃った人物がいる。
麗衣刃の発言にその場にいた全員が身を硬くしていたが、おじいちゃんは顎の髭を撫でつつぽつりと呟いた。
「どうやら、来たようじゃな」
「え、おじいちゃん、どういうこと?」
まだ息がある男達は、頭を振りながら立ち上がろうとしていた。しかし、男達の前には今まで見たことのない人物が立つ。
一人は若い青年でパーマのかかった濃い茶髪に、人当たりのよさそうな柔らかい表情をしていた。デニムのジャケットにスニーカーを着ているところを見ると、どうやら私に近い世界の人物のようだが。
「な、なんだ、ガキがぁ……」
スキンヘッドの男と小柄の男はふらふらしながら立ち上がると、真正面から青年を睨んだ。
「こう見えても、二十五なんだけどな。まあ、若く見られることはいいことだね。――僕の名前は、優斗ゆうと。この町を守る為に、善人ユーティアとして雇われている」
「ユーティア……ああ知識はあるが、まさかおめえみたいなガキとはな……。俺達も舐められたものだぜ……」
「だから、こう見えても……てそれはいいか。どうやら、まだ一度もユーティアには会ったことないようだね。なら、それは仕方ない。そして、これから負けることも仕方ない。だってさ、悪の栄えた試しは無いんだよ」
「じゃあ、今から栄えるんだよ!」
二人組の男達は腰の拳銃を抜き取るとあろうことか己の首元へと突きつけると引き金を引いた。
サーチライトに引き金を取り付けたようなおかしな形の銃から光の玉が発射されれば、二人組の男達頭がガクンッと激しく揺れた。追い詰められて命を絶ったかとも思えたが、それは思い違いになる。
男達の肌の色がみるみる内に変色していけば、スキンヘッドの男は紫色に小柄の男は緑色に変色する。血管を全身に浮かび上がらせながら、身長はそのままに体が変形していった。
まずスキンヘッドの男の鼻が大きく膨らみ潰れれば、いつの間にか目が数倍も大きくなった頃には、上と下の歯の間から口から飛び出す程の大きな牙が生えていた。男は、猪のような顔に変身した。
次に小柄の男は、目を針金のように細くなったかと思えば瞼の下から巨大な目がこじ開ける。細い腕はさらに細くなり、口からは長い長い舌がおさまりきらないとばかりに垂れて飛び出していた。男は、カメレオンのような顔に変身した。
異形の存在を前に、トリスの「まるでオークのようだ」と吐き捨てるような声が聞こえた。
優斗と名乗った青年は、こういうことに慣れているのか涼しい顔をして二人を見つめていた。
「やっぱり悪役だけあって、変身した姿も醜いね。名は体を表すてのは信じられないけど、心が体を表すてなら理解できるかも」
「何をしたか知らんが、俺様をバカにしたお前は徹底的に噛み潰す! 潰して潰して、豚共の餌にしてやるわっ!」
臨戦態勢をとった豚男は、腰を低くすれば一気に駆け出した。
「何やってんのよ、アンタ! 早く逃げなさい!」
桜花が走り出し青年を守ろうとするが、青年は桜花へ向けて制止の手をかざす。
「心配してくれて、ありがとう。でも、僕は大丈夫。……おいで、セツカ」
何かが私や桜花達の脇を通り過ぎた。風のように流れたソレは、猪男の顔面に直撃し動きを止めることに成功する。
「さっきの銃撃!?」
「違います、よく見てください!」
アイリーンの声に促されて一同の視線が集中した先には、着物を着たおかっぱ頭の少女がいた。少女は黒をベースに赤と青の鳥が羽ばたいた刺繍のされた着物を着ており、私が考えていた着物に比べればミニスカートのように丈が短く少女なりのアレンジがされているようだった。
「さっきのは銃撃じゃなくて、この少女が攻撃をしていたのか……」
感心したような驚いたような声で麗衣刃が、着物の少女をまじまじまと見た。
おかっぱを揺らし気の強そうな瞳の少女は何らかの攻撃を加えた猪男にも、猪男を心配して駆け寄るカメレオン男にも目も暮れずニコニコとした笑顔の優斗に近づいた。そして、軽く足を上げると――。
「――ばか」
「いだあっ!?」
優斗の脛をおかっぱの少女の蹴りがヒットすれば、唸りながら優斗は蹴られた左足を押さえながら痛みにぴょんぴょん跳ねている。
「い、いきなりなんだよ、セツカぁ……」
「それはこっちの台詞。私一人だけでも奴は倒せた。奴らの目では、私を捕らえることはで不可能」
セツカと呼ばれた少女は眉を少し吊り上げつつ、げしげしと足を蹴りながら優斗に抗議をしている。
「何だか、桜花と同じ臭いがするね」
「うっさい!」
麗衣刃がしみじみと口にした一言に、桜花以外のメンバーが全員頷いた。そんな私達を、セツカと呼ばれた少女は血のような濃い色の瞳で映した。
「そう、貴女達のせいで優斗が危険な目にあっているのね。優斗がここまで出てくる必要が出たのは、貴女達がでしゃばったからその身を案じて優斗が行動した。……優斗、違う?」
優斗と呼ばれた青年はセツカと呼ばれた少女には頭が上がらないようで、気の抜けた苦笑でお茶を濁しているようだがセツカの怒りは収まらないようで、私達のことを一人一人まるで標的を確認するかのようにその目で焼き付けているようだった。
「そ、それはそれとして! セツカ、悪人退治を終わらせようよ!」
後ろ髪引かれるようにして渋々とセツカは優斗に体を寄せながら、鼻息荒くする猪男とカメレオン男を見据えた。
「くそがっ! 今すぐその余裕を粉々に砕いてやる! やるぞ!」
「へい! アニキィ!」
カメレオン男が猪男の肩に飛び乗ったかと思えば、
「透明化スケルトン」
魔法を唱えるような一言をカメレオン男が言えば、猪男ごとその姿がみるみる内に景色と一体化していった。つまり、その場から姿を消したのだ。
「がーっはっはっはっ! コイツは触れた奴の体を透明にすることができるんだ! 俺のパワーとコイツの特殊能力である透明化スケルトンが合わさることで、俺達は無敵の力を発揮するのだっ!」
電車がすれ違った時のようなひゅんという音と共に、優斗とセツカの近くにあった露店が粉々に吹き飛んだ。
「うわわわっ」
おどけた様子で優斗は降り注ぐ破片から己を守るように頭を下げた。セツカは溜息を吐くと、降り注ぐ瓦礫に拳を伸ばせば細かく粉砕する。
再び猪男の笑い声が響く。
「どうだ、どうだっ! 姿が見えなければ、手も足も出ないだろう! 次は当てるぞ、クソガキがっ!」
姿は見えなくても猪男の鼻息が耳元まで届くかのように感じられる。猪男は変身してから、明らかに理性を失っていた。元々、頭のネジが緩みきっていた男達は頭にきている様子で、このまま長引けば何をするか分からない。戦隊ヒロインの面々も、頼りない優斗の姿に苛立っているようにも見受けられた。
優斗の雰囲気が一変したのは、その直後だった。
「――優斗、いつまでも遊んでないで決着つけましょう。また、誰かが傷つくことになるわよ」
「――分かった」
セツカの囁くような声を効いた優斗が背筋を伸ばして立ち上がる。まるで人が変わったように表情を引き締めた優斗が、鋭い眼差しで本来なら視認できなずの空間を睨んでいた。
おもむろに優斗は手を頭上に掲げた。
「魔導機人装甲セツカ。――魔装着」
セツカが赤と黒の光になって溶けたかと思えば、それが蛇のように空中でねじれて巻き込み回転すれば、優斗の肉体を包み込んだ。
赤い光は優斗の手足を包む装甲となり、黒い光は装甲以外をカバーするスーツとなり、弾けた淡い光の粒子は優斗の顔を覆う竜をモチーフとしたようなマスクへと変化する。
肩と足の装甲からは燃える鬣のような攻撃的な鎧、顔は神話のドラゴンをずっとヒロイックにしたデザインをしていた。
天に掲げた優斗の手はいつしか拳となり握りしめられ、それを見えない敵に狙いを定めて構えを取った。グッと前方に構えた拳からは、炎のような光が閃光スパークを放つ。
「変身! 闇を消し去る魔法の導き、魔導戦士リュウオウセッカ!」
私は目撃し思い出す。ここは、ヒーローが当然な顔をして闊歩する異常な世界だということを。