第四話『戦隊vs戦隊vs戦隊vs戦隊』
忙しく引き金を絞り続けるブラックの銃弾をかいくぐり、イエローが手にした槍をブラックへと狙いを定めた時だった。
「なにっ!?」
「きゃぁっ!」
例え懐に飛び込まれても避ける自信のあったブラックと次の一撃が必殺の一振りになることを想像したイエローだったが、両者の戦闘は第三者の介入によって強制的に中断されることとなる。
イエローとブラックの体にゴムでも付けて引っ張ったかのように、壁際まで戻された。
受け身をうまく取れなかったイエローと違い、ブラックは悠々と体を捻り着地する。いずれも争っていた二人の視線は、戦いの真っただ中にやってきた人物に向けられていた。
「何を争っている! 細かい装飾は違うが、その姿は紛れもなく私と同じ戦隊の一員ではないのか!?」
イエローとブラックは、端から見ているこちら側からでもはっきりと分かる程に呆然としている雰囲気が感じられた。
突如現れたワルキューレレッドの出現に混乱はしているが、とりあえず争いは収縮していくかと思われていた――が。
「戦隊……?」
「同じ一員……」
ゆらりとした動きでイエローとブラックは歩き出す。友好的には見えない体を引きずるような歩き方に、ワルキューレレッドも身を固くしているようだ。
次の出方が分からない両者とその間に挟まれたワルキューレレッドの間に緊張が走る。そして、次に行動を起こしたのはイエローとブラックの両者だった。
「そんなこと変身した時から、分かってんのよおぉ――!」
と叫びながら槍を構えて駆け出すイエロー。
「そこのレッド! 怪我をしたくなければ、どけ! この女には、一度痛い目を見せなければならない!」
エネルギーを溜める意味でもあるのかリールのハンドル部分を掴んでグルグル回したブラックが、腰を低くする。
「ちょっと、待っ――」
ワルキューレレッドの制止なんてまるで聞こえなかったように、イエローとブラックの影は交錯し第二ラウンドの鐘が鳴る。
先手必勝とばかりに槍を薙いだイエローだったが、ブラックが懐に潜り込むようにして前転を行えば、イエローのがら空きとなったわき腹へと引き金を絞る。
「ッ――!」
ブラックの銃から放たれた光帯を浴びたイエローは火花を上げながら地面に叩きつけられて体を跳ねた。
膝をつきながらでも立ち上がろうとするイエローに追い打ちをかけるようにしてブラックは銃を構えるが、今度はワルキューレレッドが明確にブラックの敵として間に割り込んだ。
「ボクの邪魔をするな、どこぞのレッド」
「何故、争いに発展したのかは知らないが、もう決着は着いた。これ以上の戦闘は無意味としようじゃないか!」
品定めするようにブラックがレッドをまじまじと見つめ、一旦銃を腰に戻そうとしたがすぐに構えなおした。
「そこのイエローが素直に降参したら止めようと思ったけど、そうもいかないみたいだよ」
はっとしてワルキューレレッドが首を傾けると、イエローは再び槍を握り直し、ふらつく足で立ち上がろうとしていた。
「ここで負けたらぁ……ツンデレレンジャーイエローの名折れよ!」
「み、妙なところでガッツを出すんじゃない! そういうのは別の機会に取っておけ!」
致命傷を受けたことでふらつくツンデレレンジャーイエローに手を貸そうとするワルキューレレッドだったが、伸ばした手を素通りし向けられたのはツンデレレンジャーイエローの槍先だった。
「さっきから、ごちゃごちゃうるさいのよ! アンタこそ、邪魔するならそこのブラックを倒す前におネンネさせるわよ!」
「はあ!? 君もさっきから何を言っている! そもそも、君達がここで戦えばこの家の人に迷惑がー―くうぅ!?」
ワルキューレレッドの口を止めるようにしてツンデレレンジャーイエローが槍を振れば、当たる直前に剣の面で受け止めることに成功したものの間違いなく敵意の表れだった。
受け止めた槍をワルキューレレッドは押し返しつつ、後退したが反射的に危険を感じ取り剣の面を翻した。
「これは、どういうつもりだ」
剣の面が激しく振動した。それは、ブラックがワルキューレレッドへ向かって銃を放ったからだった。
「あそこのイエローに会話は通じないだろ。だからこそ、ボクだって望まぬ戦いをしている。……けれど、うろちょろするレッドは邪魔者だってのは同意するかな」
ワルキューレレッドは剣を両手に握り直して、二人の中間を探るようにしてじりじりと小さな歩幅で後退する。
「よく聞け、ここは私達が助けてくれた恩人の家だ。そこで戦闘することは失礼とは感じないのか!?」
「もしかしたら、敵の作戦かもしれないだろ? ボクらはそういう戦いを何十回もやってきたんだ」
「ええ、そうよそうよ。そこのブラックに賛成するわけじゃないけど、こういう妙な世界に放り込まれたことだって一度や二度じゃないわ! ちょっとはまともなこと言うじゃない……」
問答無用ともとれる二人の発言に、重ねた我慢の限界を迎えたワルキューレレッドは声を荒げた。
「いい加減にしろ! ……いいや、いや、いや! もういい! 私は決めたぞ! お前らを止めて納得させるには、ここで私がお前達を倒すしかないようだ! 後で降参しても許さん! 土下座で済ませるなら、鼻で笑ってやる! つまるところ……徹底してお前らを再教育させてやろうということだ!」
大きな波が膨れ上がるようにしてワルキューレレッドの周囲から強烈なエネルギーの光が舞った。
次に光が収まる頃には、ワルキューレレッドの下半身が馬のように変身する――ペガサスモードへと変化していた。
ワルキューレレッドの姿に動揺はなく、口先だけではなく幾戦ものの戦いを潜り抜けてきた二人にはさして珍しいことではないのだろう。
「こちらのレッドもやる気になったみただし、第三ラウンドといきますか」
「最終ラウンドの間違いじゃない?」
「粛清! 再教育! 正義の鉄槌!」
三者三様、思い思いの言葉を叩きつけながら次の戦いが始まろうとしていた―ー。
※
「あーもうどうしたらいいんだろう!? で、でも――」
私は正義のヒロイン同士の争いを指をくわえて見ていることだけしかできない。できないのだが――。
「――ものすっごい興奮する!!! ブラックのアクロバティックな動きもイエローの力技も、レッドのダイナミックな変身シーンもこんなのテレビじゃどれだけお金出してもみれない! ああいうギミック一杯の武器を見ているとコレクター魂が揺さぶられるし、トリスの変身アイテムも一周して斬新でしょう!? 何よりスーツも高級感あるし、チェックの形とか無いし、より身近なヒーローがここにいるなんて! 協力して悪を倒す展開こそ王道だけど、こういうのもアリだよねえぇぇぇぇぇぇうひょほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
私のテンションはこの世界に来てから一番上がっている。おばあちゃんがハンバーグを作った時よりも、アドレナリンが暴走しまくりだ。
荒い呼吸に顔を高揚させながら三人の戦いを見守る私は、一歩間違えば、いや、既に変質者の域に達しているだろう。だが、構わない。目の前で戦う戦隊ヒロインの姿を見せられれば興奮ノンストップだ。
「あ、あれ」
目が覚めるように、唐突に我に返る。
今目の前に繰り広げられている光景が、テレビの中の世界だったら極上の見世物として涎を流しっぱなしで傍観しただろうが、あれはフィクションでこちらでは現実だ。このままワルキューレレッドも参戦して戦いが長引けば、庭はおろか家まで壊されてしまいそうだ。
特撮好きな私はよく分かるが、割と奴らは付近の被害をさほど気にしないのだ!
次に私を襲ったのは、戦った後の処理だ。テレビなら次の週に何事もなく街は修復しているが、これは現実だ。頬に受けた弾丸だって、よくよく考えればヒリヒリするじゃないか。
先程までとは打って変わって、私があーでもないこーでもないと頭を抱えていると――。
「――あら、お困りのようでね」
朝焼けの空に響き渡るファンファーレのような空気を一変させるような清廉とした声が耳に届いて振り返る。
そこには、一人の少女……と呼ぶよりも既に女性と呼べるような落ち着きと母性を感じさせる女が立っていた。
栗色をさらに淡くさせたような髪は全体的にウェーブのかかった長髪で、垂れた目は聖母のような慈しみで満ち、少女らしい可愛らしさを持った三人とは違う愛らしい美術品を思わせる可憐さもその顔立ちに備えていた。
「状況を教えていただけませんか?」
垂れた眉が少しへなっと下がったところで、私はようやく我に返った。同性にここまで見惚れたのはうまれて初めての経験だった。
「あ、えっと、実は――」
説明する私ですら情報が少なすぎるので、この世界のことをざっと説明しても五分も必要とはしなかっただろう。奇想天外な内容のはずだが、その人は時々相槌を打ちながら最後まで聞いてくれた。
「情報が少なすぎて、よく分かりませんねー」
へらっと一欠けらの悪意もない顔で笑えば、ですが、と言葉を続けた。
「今ここで困っている人と困らせている人がいる。……それだけの理由があれば十二分に、私のやるべきことは決まりました」
あの三人の喧嘩は、特撮のとんでも設定通りなら常人なら介入しようがない。しかし、今までの話を全て耳にして、猫の喧嘩でも止めるような軽やかな足取りで向かった彼女はきっと只者ではない。
「あの人も、やっぱり……」
呟いた私の言葉の先はきっと、彼女が行動で示してくれるのだろう。
「変身します。――正義の翼と共に空を駆ける、『エンジェルレンジャーレッド』」
背を向けた彼女の姿が光に包まれた――。
※
「――皆様、御機嫌よう」
一滴の汗すら三人の戦隊ヒロインのゴングになろうとしている中、そよ風のように耳心地の良い声が届いた。
三人は新たな来訪者の方向に目をやれば、いずれも声や仕草で驚きを露わにする。
「また新手ですか……」
溜息のような声を発したワルキューレレッドの前には、翼を生やした戦隊ヒロインが立っていた。――彼女こそ、『エンジェルレンジャーレッド』。
当初はブラックとイエローの争いを止めるために動いていたワルキューレレッドも当初の目標を忘れているようで殺気立っている様子だった。仲介役すら巻き込まれてしまった惨状を前に、エンジェルレンジャーレッドは「あらまあ」と言いながら頬の辺りに手を置いた。
「お前も止めようとするつもりか。説得してもボク達は止められないぞ」
ブラックは奇襲を恐れて銃をワルキューレンジャーレッドとイエローを交互に向けつつぶっきらぼうに言う。対して、エンジェルレンジャーレッドはやんわりと首を横に振った。
「ええ、ブラック様とイエロー様は戦わないと気が済まない状態みたいですし、お馬さんのレッド様も我慢ならない様子。……神の教えを説いても、同じ釜の飯を食べようとも、裸のお付き合いをさせても、母の涙に訴えようが、いくら説得しても無理でしょう」
「であれば、」と言葉を一度区切ったエンジェルレンジャーレッドの翼が大きく広がる。その時にすぐに三人とも反応できていればまた違った結果が生まれていたかもしれないが、全ては後の祭りである。
「――愛の鞭でお尻ペンペンです」
傍観していた者には、一陣の風が吹いた程度しか感じられなかっただろう。
「ぐわぁ!」
「ひぐぅ!?」
「がふっ!?」
何かが飛来しエンジェルレンジャーレッドの前に居た三人の体が宙に舞うと、スーツの限界に達したのか変身は強制的に解除された。大きな音を立てながら落下した三人は、そのままぴくりとも動かなくなった。
※
傍観していた私がエンジェルレンジャーレッドの変身が解除されるたのを見て、戦いに決着が着いたことを理解した。
慌てて駆け寄ると先程の女性が、私に向かって優しく微笑みかけた。
「安心してください、三人ともご無事ですよ。峰打ち? いや、峰羽ですかね? お手伝いしますので、三人を介抱させてからゆっくりとお話を聞くことにしましょう。何しても私達には情報が少なすぎますから」
きっとこの人が言うなら、三人は無事なのだろう。私は頷くと倒れた三人のところまで近づいた。三人とも気を失っているが、目立った怪我は見当たらない。その代わり、彼らの傍らには無数の羽が落ちていた。その内一つを拾うと、羽とはいえ硬い金属のような物質で出来ているのが分かる。
「正直、不意打ちでないと三人をまともに倒すことはできませんでしたよ。この羽は、私の翼から作る武器で『エンジェルフェザー』という名前の羽です。事前に大量の羽を上空に用意しといて、彼らの集中が途切れた時を見計らって空から攻撃したのです。まともにやれば、コンクリートも穴だらけにできる威力なので加減が難しいですが、彼女達には丁度良いぐらいでしょう」
「へ、へえ……」
もしかしたら一番怖い人はこの人かもしれないと思いつつ、爆弾でも触っているかのような気持ちでそっとつまんでいた羽を地面に下ろした。
「さあ、皆様をお運びしましょう。イエローの方なんて下着丸見えですし。……あ、申し遅れましたが、私の名前はアイリーン・キリシアと申します」
「わ、私はムツミです。よ、よろしく……」
「はぁい」
温かな握手と母性的な抱擁を受けながら、確実に私の周辺に変化が訪れようとしているのを感じていた。