第三話『戦隊vs戦隊』
目覚めた金髪美少女はトリスロッティ・ガウェインと名乗った。
なおトリスロッティちゃんの希望としてトリスと呼ぶことにする。自己紹介を簡単に済ませてトリスの指示に従い、せっせと残り四人の人命救助を行った。よほど頑丈な体の作りをしているのか、幸いにも四人とも軽い擦り傷程度で済んでいる。
四人を掘り起こす際に穴を見てみたが、百六十センチ前後の私の体が腰の辺りまで入ってしまう大きさの穴もあり、まるで宇宙から隕石が落下したかのような陥没具合だ。もしかして、彼女達は未知の異星人関係の人達なのだろうか。三分しか滞在できない巨人ヒーローなら専門外だ。
救助風景のトリスのことを思い出してみる。
下半身丸見え少女を勢いよく引き抜こうとする美少女の絵面はなかなかシュールだったが、悪人とは縁遠そうだ。他の四人もなかなかに端正な顔立ちをしていたので、彼女達の頭が急に割れて触手とか出てきたら命の危険以上にショックが勝るのは間違いない。
何はともあれ、私達は地中に埋もれたままの少女達の救出を終えた。
※
四人の少女達を空いてた部屋のベッドに一人ずつ寝かせた後、私、おじいちゃん、おばあちゃんと向かい合うようにしてトリスとテーブルを囲む。
さて、誰から話を始めようかと私達側の三人が無言の譲り合いをしていると、急にトリスが深々と頭を垂れた。
「……申し訳ございません、緊急時だったとはいえ、ご老体に鞭を打つような真似をしてしまって……。本来なら、私がご老人達の何倍も働かなければいけないのですが、大変失礼いたしました」
普段から畑仕事で慣れた老夫婦からしてみれば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、先程から腰が悲鳴を上げている私の方がよほど重症な気がする。
トリスが目覚めてすぐに、泥団子を食わせようとするおばあちゃんとセクハラ行為を働こうとするおじいちゃんを目撃したのだ、あれを見て労わろうという気持ちが出てくるだけでも聖母のような発言に拝んで頭を擦りつけたくなる思いだ。
「き、気にしないでおくれ……。わしらだって、突然の事態に混乱していたから、トリスちゃんが来てくれて助かったわい」
おじいちゃんは自分の行いを混乱で済ませることに、私は戦慄を覚える。おばあちゃんは視線で夫を殺すが如く睨んでいるが、おじいちゃんは突然転がり込んだ美少女にデレデレの様子だった。
心よりほっとした様子でトリスは息を吐く。
「それならば良かったです。聞きたいことがあるのですが、いったいここはどこなのでしょうか?」
トリスの発言に私達三人は確実に既視感を覚えたに違いない。そして、この世界はその既視感に耐性がある。
相手の素性を理解しつつあるおばあちゃんが口を開く。
「ここ、いいえ、この世界はイーデル・アーディアス。複数の世界が絡み合った末に生まれた世界とでも呼べばいいのかもしれないわね」
町や村の名前が出てくるのを期待していたトリスは、きょとんとした表情でおばあちゃんの話を聞いた。何かの冗談と思ったらしく、私とおじいちゃんの顔を見るが、この世界の説明をしただけなので私達は真顔で頷くことで理解を促す。
「ほ、本気で言っているのですか……。つまり、ここが異世界であると?」
「理解早いね、トリスちゃん。私も元々別世界の住人なんだけど、気が付けばこの家の前に立っていたのよ。今では居候として、二人の脛にむしゃぶりついているところよ」
「え、え、え!? てことは――」
トリスは異世界先輩としての私の発言で信憑性を確かにさせて、酷く狼狽しているようだ。であれば、先輩としてエスコートするしかないだろう。さて、美しい彼女からどのような言葉が飛び出すのかと、震える指先をこちらに向けるトリスに私はドヤ顔で視線をくれてやる。
「――元の世界へ帰還を目指すわけでもなく、世界に呼ばれた原因を探索するでもなく、恩人である彼らの思いに報う為に奉仕することもなく……ただ無駄にごく潰しとして、怠惰な日々を送ってきたということですか!?」
「「「……」」」
至極ごもっともなトリスの発言に、私達三人は言葉を失う。
おばあちゃんが私に声をかけようとするが掛ける言葉を思いつくことなく手を引っ込め、おじいちゃんは慰めるようにして肩を抱こうとするが、そこはかとなくいやらしさを感じて私は手を跳ね除けた。
「――元の世界へ帰還を目指すわけでもなく――!」
「――いいよ! 聞こえているよ! 言い直さなくていいよ! ばっちり聞こえているから、こっちは黙ってるんだよ!? あーあーあー! 優しい二人しかいないから、今まで触れてこなかったことを言っちゃったね!? ニートは現実が一番怖いんだよ!? 知ってた!?」
頭を抱えてテーブルに突っ伏す私にトリスは、ふん、と鼻を鳴らした。先輩どころか一晩待たずして一瞬で、見下す対象に降格である。
そりゃ私だって半年もだらだらしていれば、何かした方がいいのかなぁとか寝る間際に考えることもあったけど、楽すぎるんだよ。困難がないんだよ。まだまだスローライフ味わえそうだなぁとかゆっとりした考えに脳内満たされまくりだっての。
トリスは椅子から立ち上がれば、外に向かって歩いていこうとする。
「ト、トリスちゃん、どこに行くんだい?」
「皆様には感謝しています。大変、お世話になりました。ですが、このままここに居ても有益な情報は得られそうもありません。……私は己の力でこの危機を乗り越えようと思います」
「で、でも……この世界にはモンスターとか特殊な能力を悪用するアーリンマて呼ばれる異世界人が居たりとか、危険もたっくさんあるんだよ!」
もし私がここで一度でも外に出てから何かしらの危険に触れる機会があれば、助言やトリスの足を止める話の一つでもできたかもしれないが、こちらの世界で箱入りで育てられた私には気の利いた発言なんてできなかった。
異世界先駆者を信じたトリスだったが、口角を歪めた。
「この世界にも悪が存在するのか。であれば、好都合だ。私の存在意義とは、そもそも悪を滅ぼす善なる脅威。……心配には及ばないさ、私には戦うだけの力が備わっている」
「力? それって――」
――ズゥン、と腹の下を震わせるような爆音が突如として響き渡った。
「に、庭の方からじゃ!」
おじいちゃんの声を聞いた途端に引き寄せられるようにして、トリスが家から飛び出していた。
さらなるトラブルを予感しつつ、私達三人はトリスから遅れるようにして駆け出しくのだった。
※
庭に飛び出した私が目撃したのは、地中に美少女四人が埋もれていた時よりも驚くべき光景だった。
先に飛び出したトリスも言葉を失っているようで、口を半開きにしたままその光景を眺めていた。
「はあ! やあ! でやっ!」
黄色のスーツに鷹に似た鋭さを感じさせるバイザーをメットにした――戦隊ヒロインが、金色と銀色の輝きを放つ槍を手にして戦っていた。
「せい! やあ! とおっ!」
もう一つの影がイエローと交錯する。
その影は全身黒のスーツを着ており、腰から釣り道具で見かける糸を巻くのに必要なリールと酷似した形をした銃を手にする。
「くらえっ! リールガン!」
技と武器の名前を兼ねているのだろう。ブラックが引き金を引けば、光の帯がマシンガンのようにイエローへと放たれる。
超人的な反射神経でイエローは槍を振り回して、すかさずブラックの銃弾を槍で弾いてガードを行う。
――キィン。
呆けたように眺めていた私の頬を銃弾の一発が掠めた。首を傾ければ、家の壁には弾丸の痕跡がばっちり残っていた。
そこまできて急激に、現実感が戻ってくると同じく危機感がやってきた。
「――て、これなになになに!? どういうことなの!? 説明してよ、トリス!」
トリスの肩を掴んでガクガクと揺さぶれば、トリスの表情は驚き以外の他の感情も沸いているようだった。複雑そうな表情で深く息を吐いた後に、私の体を押しておじいちゃんとおばあちゃんを庇うように前に出た。
「正直、私には彼女達のことは分からない。何せ初対面なものでな。……だが、この状況ですべきことは早々に理解できた。……ムツミ、下がっておくんだ! 二人を頼む!」
「え、トリスちゃんは……」
「私がやるべきことは一つだ。私の命は他者を守ることで浪費されるようにできている」
さらに一歩前に出たトリスの手にはいつの間にか、刃渡り五センチ程の長さの小さな剣が握られていた。細部まで装飾された小さな剣は、端から見ればよくできた美術品のようにも見えるが、不思議と強大な力のようなものを感じさせた。
心配で声を掛けようとするおじいちゃんとおばあちゃんの体を押して後退しつつ、その後に起こることを逃すまいとトリスの背中をじっと見た。
トリスは小さな剣を一度天高く掲げた。
「変身っ!」
上に向けた剣を再び下げれば、次は正面に構えた。瞬間、剣の先からまばゆい光が溢れてトリスの全身を包み込んだ。
ベール状の光がトリスの体に巻き付き、光の消えた先にーー赤いスーツを着た新たなヒロインの姿があった。
「――女騎士戦隊ワルキューレレッド! 騎士道に則り、正々堂々といざ正義の戦場に立つ!」
ワルキューレレッドに変身したトリスの手からは小さな剣は消え、新たに身の丈にあった銀の剣が握られていた。