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プロローグ後編

 ――二つの世界で戦隊ヒロインが命を散らしている頃、とある世界でも命の輝きを燃やす少女がいた。



 この世界に大陸は二つある。

 一つは人間が暮らす地上、そしてもう一つは翼人達が暮らす天上界だった。

 二つの世界は大昔に激しい戦争をしたものの、今では共に手を取り合い、長い平和な歴史を築いていた。


 ――しかし、平和は崩壊の兆しをみせる。


 地上と天上の征服を目論み長年機会を窺っていた地底帝国ハーデイスの侵攻が突如として始まり、地上は一夜にして災禍の炎に包まれた。地上が侵略させればいずれは天上界にまでハーデイスの手が伸びることを予感した翼人王は五人の少女達に『女神戦隊エンジェルレンジャー』の力を与えて、ハーデイスの侵攻を止めるように使命を与えた。


 地上に降り立った五人は、目立たないように翼人の誰もが持つ背中の翼を隠して、エンジェルレンジャーの正体を隠しながらハーデイスの悪の軍勢である地底悪魔『メイカイジーン』との戦いの日々を過ごしていった。


 約一年程にも及ぶ戦いは、地底王ハデスの敗北により勝利したかに見えた。だが、ハデスは自分が死ぬと同時に地底界に設置した爆弾が爆発し地上を焼き尽くそうと画策していたのだ。

 大地は揺れ、地脈は乱れ、火山は噴火し、海辺の町は大津波に襲われ、嵐があらゆる場所で巻き起こった。

 最後まで諦めることなく懸命に戦い、民間人を天上界まで避難させたエンジェルレンジャーの少女達だったが、いずれは地上界どころか天上まで被害に合うことを予測できる災害を前に全員が嘆き膝を折っていた。


 「もう駄目だ」

 「自然が相手では勝ち目なんてない」

 「何の為に戦ってきたの……?」

 「私達は無力だ……」


 一人一人が絶望を口にする中、エンジェルレンジャーレッドだけが聖母のような優しい笑顔と共に変身した。

 エンジェルレンジャーの姿は全身スーツに、背中からは各カラーに合わせた翼を生やしていた。そして、マスクの耳の辺りからは翼の装飾を付け、マスクのバイザーはハートの形をしている。


 「いいえ、みんな諦めてはいけません。忘れましたか? 私達は、女神戦隊エンジェルレンジャーですよ」


 当然のように断言するレッドに仲間達は諦めから頭を垂れる。レッドの言いたいことは嫌というほど伝わるのだが、体が動こうとしないのだ。それこそ無駄な努力になると無意識に思ってしまっているのだった。

 仲間達の反応を分かっていたのかレッドからは微塵も怒った様子はなく、そっと両手を広げる。


 「最初はレッドであるはずの私はいつもみんなの足を引っ張ってましたね。それでも、みんなは怒ることもなく私をサポートしてくれました。受けた恩はちゃんと返さないといけません。今が、その時なんですよね」


 エンジェルレンジャーは天上王から受け取った羽の形のネックレス『エンジェルウイング』を使って変身する。一見すると鮮やかな七色の羽だが、そこにはエンジェルンジャーに変身するパワーが秘められている。

 仲間達のそのエンジェルウィングが黄金色に輝きだすと、ふわふわと宙を漂いながらレッドの手の上に舞い落ちる。

 事態が飲み込めない仲間達は、呆けたようにレッドを見ていると、はっきりとした口調でレッドは語りかける。


 「実は、この危機を止める方法が一つだけあるのです。秘密裏に、地上が侵略された際に天上から攻撃するため、天上王が開発していた武器があります。その名は『超天神砲塔エンジェリックブレイカー』。一度撃ってしまえば、ハーデイスの侵攻を阻止する代わりに地上は人の住めない星に変わる程の兵器です」


 「そんな、天上王様が……」


 愕然とした仲間達の様子は当然である。

 最初レッドだけが天上王からエンジェリックブレイカーのことを聞かされていた。だが、天上王はエンジェルレンジャーを通して地上の人達を知り交流していけば、いつしか情が湧いていたのだ。最終決戦の直前に、ハデスが地上の火山を全て噴火させて大地を火の海に変えようとした時には天上王は自ら戦場に現れて共に戦い、そして火山の活性を止めてたがハデスの不意打ちにより息絶えたのだった。

 エンジェリックブレイカーを開発するまでの時間稼ぎに使われていたという事実に驚愕する仲間達だったが、それよりもショッキングだったのは地上を愛していると思ってた天上王が地上ごと滅ぼそうとしていた事実だった。

 仲間達の気持ちを汲んだレッドは、諭すように喋りだす。

 

 「それでも最後は天上王様は世界を愛してくれた。だからこそ、エンジェリックブレイカー開発途中のままだったのです」


 「開発途中て……だったら一緒じゃないの……それに、地球を滅ぼしてしまうなんて……」と肩を落とすグリーン。


 「いいえ、今の状況な地底の爆発と相殺できるはずなので、地球を滅ぼすことはないでしょう。ただし天上王様は自分と同等のエネルギーを込めることで、エンジェリックブレイカーが放たれるように調整していました。地上を燃やすなら、せめて自分の命を引き換えにしようと思っていたのでしょう」


 「で、でも! もう天上王様はいないじゃない!?」 


 いつも冷静なブルーが喚いたが、レッドはゆっくりと首を横に振った。


 「――私が天上王様の代わりをします」


 今度こそ仲間達は言葉を失った。絶句する仲間達だったが、ピンクがレッドに腰に飛びついた。


 「やめてください! 命を大事にして! もしかしたら、天上に戻れば大丈夫かもしれないんですよ! レッドは自分のことを悪く言いますが、私はレッドの良いところをたくさん知っています! 私は、いつだって……レッドに憧れていたんです!」


 生意気な発言ばかり目立ち、何かと仲間達と対立することの多かったピンクの思わぬ言葉にレッドは嬉しそうに小さく笑った。


 「ありがとう、ピンク。もう思い残すことはありません。……世界の為、この命殉じます!」


 仲間達の伸ばした手を跳ね除けたレッドは、背中から大きな翼を広げる。翼人の弱点でも武器でもあるその翼を広げて大空へと飛翔した。


 ――己の命を燃やし弾丸に変え、世界を滅びから救うために。



    

 レッドは仲間達から受けた熱い友情を胸に、エンジェリックブレイカーの中でその命と世界の命運を引き換えにした―。





            ※




 およそ三人の戦隊ヒロイン達が、別世界とはいえほぼ同時に命を失った。

 無限にある平行世界でも、これは非常に珍しい瞬間でもある。そして、不幸な偶然というのは時として連続するものである。それが世界規模ならなおさらなのかもしれない。




 数ある平行世界の中でも、この世界は地球の世界と酷似していた。

 穏やかながらも争いはあり、平和の中でも悲劇は少なからず存在した。だがしかし、そのいずれも一般市民達で戦える脅威であった。しかし、そんな世界に普通の人々では戦うことのできない脅威が近づいていた。

 ――組織の名前は『ヤンツン』。ヤンツンは世界中をあらゆる方法で病ませて、人々の争いを目論むことを喜びに感じていた。また、ヤンツンは呼ばれる神と同等の力を持つ嫉妬と悲恋の魔神『ヤンデーレ』を指導者とし、人智を超越した凶悪な力を発揮していた。


 ヤンツンの暴走を止めるために、愛の魔神『アフロディーチェ』は温かな心を持つ五人の少女に協力を求めた。――選ばれし五人の少女達こそ、『不器用戦隊ツンデレンジャー』。

 ツンデレンジャーは、「ぶ、不器用て何よ。せ、世界のために仕方なくやってるんだからね!」の精神をモットーに燃え萌えで戦い続けたのだ。


 例外なく、ツンデレンジャーも最終決戦へと到達しようとしていた。


 長いこと探し続けたヤンツンの秘密基地は、宇宙空間のさらに先の異空間に漂っていた。一見すると城の形をしていたが、城の壁面にはびっしりと目がくっついており、侵入しようとする者がいるなら容赦なく壁一面の目が敵を知らせ、接近するなら目から放たれるレーザー光線で消滅させようとするのだ。しかし、脅威以前にそれを見たツンデレンジャーの少女達は目が付いていようが、宇宙の暗闇の浮かぶ城は気味の悪い物体にしか見えなかった。

 巨大合体ロボ『スナオニナレナイオウ』で敵地に突っ込んだツンデレンジャーの面々は、やってくる雑魚魔人達を薙ぎ払いながら突き進んだ。いよいよ、最終決戦の場である神の間に五人は到達した。


 「とうとう、追い詰めたわよ! ヤンデーレ!」


 レッドが一歩前に乗り出して、骸骨や生き物の臓物のような物体が絡みついたグロテスクな装飾のされた玉座に腰掛けるヤンデーレを指さした。

 ヤンデーレは人間の少女のようにも見えるが、紫の唇に常人よりも二回りは大きな漆黒の瞳、蛇のようにうねうねと動く赤茶色の長髪はやはり人とはかけ離れているようだ。

 深くヤンデーレが深く息を吐けば、それは黒い霧のような色をしていた。アフロディーチェから教えてもらった、邪悪な魔力が強い証でもある。ヤンデーレが玉座から立ち上がれば、見覚えのある手鏡を手にした。


 「そ、それはっ!? 冗談でしょう!」


 悲鳴を発したグリーンにヤンデーレは返事をすることはない、他の仲間達も動揺で反応できていない様子だった。――ヤンデーレが手にしたそれこそ、ツンデレンジャーの変身アイテムである。


 「変身」


 低い声でヤンデーレは鏡の周りを花びらの形で装飾した手鏡を天に掲げた。すると、宇宙空間だというのにヤンデーレの周りに淀んだ色の落雷が落ちたかと思えば目の前には紫色ヴァイオレットカラーのツンデレンジャーが現れた。

 フェイスヘルメットには戦隊ヒーローにしては鋭すぎる悪役のような眼光のバイザー、顔の右側の頬の辺りにはデレの部分を表すように星形マーク、左頬にはツンを表すように雷マークが入っており、胴体には肩から腰までツンデレの複雑さを表現するかのように星と雷が交錯したラインが描かれていた。その姿は紛れもなくツンデレンジャーのそれだった。

 カラーだけ違うツンデレンジャーヴァイオレットだが、禍々しいオーラは隠しようがない。すぐにツンデレンジャーは戦闘態勢をとる。


 「ツンデレンジャー共よ、これまでの戦いで気づかぬか? 人は内に弱い心を必死に隠そうと生きている。であれば、それを開放し思いのままに苦しませ悲しませてやろうという私はある意味では救世主と呼べるのではないか?」


 「――そんなの間違っている!」


 前に出たのはイエローだった。イエローはことあるごとにヤンデーレと遭遇することが多く、心のどこかで互いを宿敵のように感じていた。

 イエローは親友をヤンデーレに殺され、ヤンデーレは実の兄であるヤンドールをイエローに倒されていた。


 「間違いとはどういうことだ、イエロー。私は奴らが鍵を掛けて心の奥底に閉じ込めたソレを開錠しているだけだ。人が人らしく生きる世界とは、こういうことであろう」


 「バカじゃないの!? 辛く苦しい心に人は負けそうな時もある、時にはそれを吐き出す時だって当然のようにあるわ! でも、それを我慢してるからこそ、乗り換えるからこそ人は美しいのよ! こんなツンツンした私達でも、人を好きだとデレられるのよ!!!」


 ヤンデーレはこれ以上会話をしても無駄だと思ったのか、短く唸れば手を振り上げれば見えない手で薙ぎ払うのように横にスライドさせる。


 「ーーきゃ!?」


 横に滑らせた手の動きに合わせて邪悪な波動がツンデレンジャー達を襲えば、五人が壁や地面に激痛と共に叩きつけられた。

 受け身をうまくとれなかったイエローはメットが半壊し目の辺りが露出していた。


 「大丈夫でございますか、イエロー様っ」


 お嬢様気質のブルーがイエローの元まで駆け寄り助け起こす。酷い頭痛を感じながら周囲を見れば、イエロー以外のメンバーは無事なようだ。

 気配を感じて前方を見るとイエローとブルーの前にヤンデーレが立ち見下ろしていた。


 「偉そうなことを言っていたが、お前達の力はその程度か?」


 再び手を振り上げるヤンデーレに思わずイエローとブルーは目を閉じるが、続いて聞こえてきたのは間に入って魔剣ツンデレブレイドを振るうレッドの姿だった。


 「こいつを倒すには必殺技を使うしかない! 私が相手をしている間に必殺技の準備を頼む!」


 レッドの剣撃を受け止めたヤンデーレの手に握られているのは、ツンデレブレイドの贋作とも呼べるデザインのヤンデレソードである。


 「いいだろう、私がお前の相手をしてやろう。どこまで耐えられるか見せてもらおうか」


 戦闘能力の優れたレッドは高速移動するヤンデーレに合わせて、すぐさま刃を重ね始める。暗い部屋の中でレッドとヤンデーレの剣が交錯する音がこだまする。

 イエローとブルーが頷き合うと気を失ったままのピンクを叩き起こし、レッドを除いたイエローのツンデレスピア、ホワイトのツンデレシールド、ブルーのツンデレアロー、ピンクのツンデレハンマーの武器を組み合わせて四人で中途半端な必殺武器を完成させた。後はレッドの武器さえ手に入れば、『ツンデレオルタナティブバースト』が出来上がる。

 レッドがヤンデーレの剣を受け止め返した瞬間を見計らい、四人はレッドに組み上げた必殺武器を投げ渡した。受け取ったレッドは、驚愕するヤンデーレにほぼゼロ距離でツンデレオルタナティブバーストの引き金を引いたーー。





 ヤンデーレの敗北が決まり、ヤンツンの基地の崩壊が始まった。

 ツンデレンジャーのメンバーは一人一人自分のロボットに乗り込み地球へと向かい飛び立つ。そんな中、イエローだけは基地に残り、ある人物を背負っていた。


 「ぐっ……ここは……」


 「起きた?」


 イエローの背中に背負われているその人物は短く悲鳴を上げた。


 「は、離せっ」


 「こっちだって疲れているんだから、静かにしなさいよ。――ヤンデーレ」


 暴れて抜け出そうとするヤンデーレだったが、すぐに全身に痛みを覚えて抵抗するのを諦めた。

 基地のあらゆる場所で炎が上がり、天井は崩れ、瓦礫が降り注ぐ中でイエローはヤンデーレを背負い進む。変身解除をしていないイエローなら、駆け出せばすぐにでも逃げ出せそうな状況であったのだが既に余力はなかった。


 「自分のしていることが分かっているのか……。お前は、私を助けようとしているのだぞ」


 「そんなの百も承知。容赦のないピンクなら、アンタを捨てて逃げろって騒いでいるところよ」


 「置いておけばいい。それがお前らの考える世界の為というものだろう。ツンデレンジャーの最後の一撃を受けた今の私は魔神エネルギーを持たない、変身アイテムであるスナオミラーもご覧の通りだ」


 手にしたままだった変身アイテムの手鏡は柄のところだけを残して粉砕していた。手の力を抜いてそれを落とすと、もう抵抗するのも虚しく思ったのかうなだれるようにしてイエローに身を預けた。


 「何故、助けるのだ」


 「悪なら助けないわよ。でも、アンタはまだ本当の悪にはなっていないはずよ」


 「それは新手の皮肉か。私は、お前の友の命を奪っているはずだが……」


 イエローは肩を揺すって噴き出すように笑った。


 「ほんっとにツンデレね、アンタ! いや、アンタならヤンデレてやつかぁ。……アンタてさ、私の友達の花梨に頼まれたんでしょ? 頼まれて世界を混乱させようとしたんじゃない?」


 「……全て私の意思だ」


 「はいはい、ウソウソ。花梨の日記が見つかってね、中に書いてあったわ。余命いくばくも無い花梨が……どれだけ世界を恨んでいたのか。花梨が失踪する前に、ヤンデーレという魔神と友達になり、ある願い事をしたことを」


 「契約者はお喋りだったようだ」


 「きっと、口では悪く言っても内心怖がっていたのよ。だから、恐怖から逃げるために日記を書いたのでしょうね」

 

 花梨の名前を出してから、明らかにヤンデーレの様子は変わっていた。どこか悪意の抜けたような角が取れたような状態だった。

 口をつぐんでしまったヤンデーレを無視して、イエローは言葉を続けた。


 「アフロディーチェからヤンデーレのことを聞いたけど、本来なら病気で苦しむ人の最期の願いを叶える魔神様だったらしいいじゃない。ただし、それはどんな恐ろしい願いでも絶対に叶えなければならない契約になるのよね。……花梨は不治の病に人生を狂わされ、世界を恨んだ。そして、世界の破滅を願い事としてアンタと契約したのよね。それってつまり、アンタは悪くないってことにならないのかしら?」


 「……お前が何を言おうとも、最後に悪神か善神を決めるのは民だ。その考えであれば、間違いなく私は悪神だろう。例え私が奴の願いが私を悪に変えたとしても、本来は持たないはずの人間と同じような肉体を手に入れたとしてもだ……」


 ヤンデーレが目覚めてからどれだけ経過したかは不明確だったが、気が付けばイエローの乗ってきた合体ロボの一機の操縦席が壁に埋もれる形でそこにあった。幸いにも操縦席は瓦礫に埋もれていないので、搭乗しロボを起動すれば瓦礫を押しのけるパワーを発揮するはずだ。


 「ここまででお別れのようだな。どう見ても一人用だ。それに、もうこの基地には脱出ポッドは残されていない」


 イエローがコックピットのハッチを開放する。


 「ええ、そう……ね!」


 担いでいたヤンデーレを下ろした先は、鉄板のように熱くなった地面ではなくイエローの乗るはずのロボの操縦席だった。

 状況が理解できないヤンデーレは呆けたようにイエローの顔を見上げた。

 

 「イエロー……お前は何をしている……」


 「何って、見て分かんない? アンタを逃がしているところなんだけど」


 「そうではない、死ぬべきは私のはずだ!」


 感情的にヤンデーレはイエローを怒鳴りつける。変身を解除すればすぐさま熱風で体内を焼かれる危険性のあるイエローは変身をしたままだったが、ヤンデーレからは困ったように笑っているのがよく分かった。


 「気づいていないかもしれないけど、今のアンタの姿は花梨にそっくりなのよ」


 「私、が……」


 ヤンデーレが顔に触れてみると、確かに骨格が変形しているらしい。まるでそのまま人間のような顔をした自分にヤンデーレは大きな衝撃を受けていた。


 「花梨は破壊を願ったのかもしれない。でも、本当の願いはただ生きたかっただけじゃなかったのかな? ヤンデーレは死を代償とした魔神だから、絶対に花梨の願いを叶えることはできなかった。その事実に花梨はさらに苦しみ世界を呪った。でも、最後にヤンデーレが希望を信じるようになったからこそ、死の魔神から花梨の願いを叶える存在に変わったと思う」


 「そんな話、前代未聞だ。……それに、私は花梨ではない」


 イエローは花梨の顔をしたヤンデーレの頬に触れると、いつしかヤンデーレから流れ出していた涙を拭い取った。


 「花梨じゃないのは確かだけど、アンタは花梨の生きた証でもあるのよ。……これからの世界は、アンタに任せるわ。花梨として、人として……そしてツンデレンジャーとして生きることが貴女の贖罪よ」


 「ま、待ってくーー」


 イエローに手を伸ばそうとするヤンデーレを完全を遮断するように、コックピットを閉じると、音声認識で地球へ帰るように素早くロボに指示を出すと突進した瓦礫を吹き飛ばしてロボは異空間に飛び去った。 

 迫りくる炎の中でイエローは変身解除をすれば、炎の中に押し出されて異空間の中に肉体が放り出された――。


 ツンデレンジャーイエローは、世界の外に溶けるように消えた。

 後にこの世界では、新たな脅威が出現することになるが、大切な仲間を失った四人の隣には新たなツンデレンジャーが居るのだった――。

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