たくさんのりんご
鏡が予言を下したその日から、城の中にはりんごが増えていきました。
白雪姫の様子がだんだん陰っていくのをみてメーラは喜びます。けれど、白雪姫にはある秘密がありました。
「りんごなんて大きらいよ。りんごをたべるなら、うえじにしてやるわ」
彼女は自分の部屋にとじこもって呟きます。
「おしろにはりんごしかないのかしら。せかいからりんごなんてなくなってしまえばいいのに」
そう、白雪姫はりんごが大嫌いなのでした。
今では城の全ての場所にりんごがあり、城の全ての料理にりんごがふくまれていました。りんごを目にしたくもない白雪姫は部屋にいるしかありません。
「こんなせいかつ、なげだしちゃいたいの」
白雪姫は床下にあるはずのメーラの部屋を見つめました。りんごが増えた理由として考えられたのはメーラだけだったのです。
* * *
その頃、メーラはたくさんの毒りんごを作っていました。
白雪姫にも秘密があるように、メーラにも秘密があったのです。それは、メーラはりんごの魔女である、ということでした。りんごの魔女はりんごにしか魔法をかけることができません。けれど、りんごの魔女になりたいものは多くいました。魔女のりんごを食べれば美しく若くいられたからです。
メーラも、若いころに魔女のりんごを欲しがったものの一人でした。その魔法の果実を願って、願って……。
若いころを思い出してしまったメーラは頭をふりました。
「あのいまいましい娘を早く殺さなくてはね。私がこの姿でいるためにも」
メーラは火にかけた壺をゆっくりとかきまわします。彼女の瞳にどろり、と溶けた草花がうつります。
「自分の愛するはなばなで殺されるなんて、どんな思いかしら」
作った毒を魔法の力でりんごに流し込むと、うっとりとして目を閉じました。あとはこのりんごで華やかなケーキをつくればおしまいです。
「あの子の命も、今日で終わり」
メーラは満足げに唇をなめます。
けれども。メーラがそう呟いたころには白雪姫は城からいなくなっていました。
「あんな、りんごがいっぱいなところになんていられないわ。おとうさまったらどうしちゃったのかしら」
りんごだらけの城に嫌気がさした白雪姫は逃げ出しました。




