新しいお母さま
お妃さまが亡くなってから何年か経ち、白雪姫は五歳になりました。
庭で花々にかこまれてはしゃぐ白雪姫のすがたに、まわりのひとびとがみんな笑顔を浮かべています。
「白雪姫、お前に話があるんだ」
父である王さまの声に白雪姫はふりむきました。どうやら王さまはしらない女のひとをつれているようです。
「なぁに? おとうさま」
「お前にこの人を紹介したくてな。新しいお母さまの、メーラだよ」
白雪姫は王さまの言葉に首をかしげました。
「おとうさま、なにいってるの? このひとはわたしのおかあさまじゃないよ?」
「今からお母さまになるんだよ。挨拶しなさい」
怒気をふくみはじめた王さまの声に白雪姫の体がふるえます。
「メ、メーラおかあさま、はじめまして。しらゆきひめです」
たどたどしい白雪姫の挨拶に、メーラのくちびるは美しい弧をえがきました。
「貴女が白雪姫ね。私はメーラよ」
優雅に挨拶をこなすそのすがたに、白雪姫は思わずうっとりとしました。
夏の燦々と降り注ぐ陽ざしを浴びてつやめく、ぬれたような髪。そしてどこかなまめかしい光をはなつ瞳。メーラはとてつもない美女だったのです。
白雪姫がメーラの美しさにぼおっとしていると、気が付いた時には彼女はいなくなっていました。
* * *
暗い暗い部屋にひとつの炎が灯っていました。あるかげが鏡にうつります。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは、誰?」
メーラの声が狭い地下室に響きわたりました。
この鏡は、メーラが持っているまほうの鏡でした。鏡にたずねればなんでも答えてくれるのです。
「それはメーラ女王様、あなたさまです」
メーラは鏡の答えをきくと満足そうに笑みをうかべました。ろうそくの炎を受けてその瞳はアメジストのようにかがやきます。
「そう、世界で一番美しいのはこの私よ」
けれど、鏡にはみにくい魔女の姿がうつっていたのでした。