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ルーニアの馬車3

扉を開けたとたん、ガラスや金属がガチャガチャと忙しなげにぶつかり合う音や景気良さそうに話すたくさんの人の声、それを煌々と照らすシャンデリアの明かり。まるで真昼のような喧噪と明るさが飛び出してくる。

 その慌ただしさにボクはなんでか引け目を感じて少したじろいでしまう。

 ボクはグッと息を止めてから扉の間に身体を滑り込ませる、そして自分の出来うる限り静かに、音の立たないように扉を閉めた。止めていた息を吐き出す、どうしてもこういった場所は緊張してまともに動けなくなってしまう

大きく息を吸う、夜の空気で冷えた自分の中に入って来る暖かさに少しだけ安心する、それでもまだドキドキするのを努めて平静に振る舞いながら少女にいわれた通りの場所へ歩いて行った。

 彼女の説明は的確でわかりやすく、迷うことなく目的の小さなテーブルに付く事が出来た。

 しかしたどり着いたはいいが待っている間どうにも手持ち無沙汰になってしまう、なぜなら今、ボクのかばんにはハンカチとティッシュペーパー、それとなけなしの一万円札とテレホンカードがお財布の中に入っているだけで、暇をつぶせるような物は入っていなかったからだ。


 何か無いかと周りをきょろきょろと見回してみる。

 明るい部屋の中は変わらずウエートレスたちが食べ物やグラスをのせたお盆を手に、たくさんのテーブルの間を忙しく飛び回っていた。

 そしてそのグラスがおかれるテーブルはルーニアさんほどでは無いが逞しい男性が囲んでいた。見た限りほとんど男たちは各々帳面や分厚い紙を取り出していて、眉間にしわを寄せて難しい話をしているようだった。

 話の内容は喧騒に紛れてしまってここからでは聞こえなかったけれど、時折話している片方が大きなリュックサックから取り出して見せる 奇妙できらびやかなものは僕の目を釘付けにさせた。

 他のテーブルも机に出される品物が多少変わるくらいで同じ様な物ばかりだった。


 そんな中でボクは一人の背の高い男に目がいった。その男は紙束を手に持っていてテーブルの周りをうろうろと歩き回っていた。

 また、よく見ればテーブルを回って紙束を広げては何か話しているようだった。最後には必ず話している相手に関係なく、笑われたり 呆れられたりしてテーブルから追い出されていた。

 そして男はいそいそと紙束をまとめると、隣のテーブルにまた同じ話をしにいっていた。

 そんな風に男は広いロビーの中をあちらこちらへウエートレスとぶつかりそうになりながら歩いていた。

 ぼんやりしていたからかボクはその男がこのテーブルの方へ歩いて来るのに気がつかなかった。


「やあ、お兄さん」

「うひぃっ!はい、なんでしょうか」

いきなり声を掛けられて、ボクは素頓狂な声を上げてしまった。

「どうもどうもお兄さんはここにに来たの初めてかい?もし時間があれば俺の話を聞いていってくれよ、こんな時間にこんなところに居るって事は同業者なんだろう?ものは相談なんだが、とりあえずこれを見てくれよ」

 そういって男は何も狭いテーブルに紙束を広げていった、紙には見たことのないような文字が書いてあったが、指輪やネックレス、そして複雑な機械の大きな図案もあったので大方内容の見当がついた。

 男の話は大方ボクの予想通りで、早口で捲し立てられるのもあってほとんど聞き流していた。

 ボクが相づちを打っているうちに男はだんだんと不機嫌そうになって行った。そして急にテーブルに身を乗り出すような勢いで男はこう言った。

「なあ、君は本当に聞いているのかい?たしたに俺の話は突拍子も無い物だろうけれどもはなから聞こうともしないってのは流石に態度が悪すぎるんじゃないかね」

「はい、そう思います」とボクは小さく答えた。

 男は肩を落として椅子に座り直した。

「で、どこまで聞いてたんだよ」男は怒った調子で訪ねる。

 ボクは萎縮してし待てただ首を振る事しか出来なかった。

「じゃあ全然聞いてなかったってことか?」

ボクがうなずくと、男は深くため息をつきながら軽く頭を抱えて他のテーブルの方を見やった後少しの間考えこんでから、口を開いた。

「仕方ない、俺も今日は大方回っちまったし、こいつも何かの勉強だろうな、うん。」

 男はぼそぼそと独り言をつぶやいた後に声を大きくして続ける。

「じゃあ最初からゆっくりと説明してやろう、まず俺たちがいつも使っている魔法の事だが、こんなふうに図形を描いたり刻んだりして使うだろう」

そう言って男はポケットから木切れを取り出してペンで五角形をかいた。それを手に持って男はそれをじっと見つめる、するとパチパチッと音を立てて小さな火がついた。

「わあすごい、どういう仕掛けになってるんですか?」

ボクは目をこすってその火をまじまじと見た。男は手慣れた手つきでそれを使ってタバコを付けてみせた。そして口から煙を漏らしながらムッとした顔になって「はぁ?」といかにも不機嫌そうな声を出して続ける

「魔法だよ魔法、お前冗談言ってんじゃ無いぞ仕掛けも何もあるかよ。いつも使ってるんだから知ってるだろ」

「い、いえ全然こんなの初めてで……魔法ってあの魔法ですよね、あの、だから手品とかじゃ……」

そんな風にボクがへどもどしていると後ろから声をかけられた。


「おおヒュガ遅くなったな、」

そういってルーニアさんはボクの隣にどっかりと座りこんだ。

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