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第二話 ルーニアの馬車2

全く持って遅いの一言、どうか見てってください

 「……あれが?」

 彼がさす先には真ん中に大きな扉のついた石造りの真っ白い壁だけが視界の端の方まで広がっているだけだった。

「ああ、そうさ。あの白壁こそ俺たち旅商人の故郷よ。お前もここを目指してきたという事はでっかい倉でもたてて、あの大扉から馬車を出せるようになりたいなんて思って来たクチだろ」

「あの、ルーニアさん」そんなボクの言葉を制して、彼は続けた。

「いい、言いたい事は大体わかる。あんな扉がほんとに開くのかって思ってんだろう、始めて来るやつは皆そういうんだ。」

 はは、と笑って彼は続ける。

「もちろん開くさ、だがいつでもって訳じゃあない、例えば神餐の日、あとほかで一番近いのは夏節の帳面替えのときだな。要するに節目ふしめの晴れやかなときに開く訳だな」

「そうなんですか、すごいですね」

「凄いの凄くないのってもんじゃあないさ、国中の倉ほとんどが開くようなもんだ、大きな通りがみんなこの世の華やかさを一所に集めたみたいになるんだ。そんな通りを荷をたらふく積んだキャラバンで抜けて行くのはまた、とても言い表せん程の爽快さだな」

うん。と一度大きくうなずいてからルーニアさんがこちらに振り返る。そしてボクの顔をまじまじと見ると少し気まずそうな顔をして確かめるように言った


「ヒュガ、お前さんが聞きたかった事はひょっとすると俺が言ってた事じゃあないんじゃないか?もしそうだたらすまない、恥ずかしい事だがもう一度聞き直させてくれないか」

「あっその、別に全然気にしてませんから!とても勉強になりましたから」

 そういってボクは顔のまえで両手を振ったフォローをしようとした。

「いやいや、聞いてもいないような話をうだうだするなんざ恥ずかしい事この上ないもんだ。それに俺が新入りにここまで気を使わせちまうってのは面目が立たねえ、後でやってやれないような事じゃなきゃ何でもしてやるからよう……さっきの事は誰にもいわんようにしてくれよ」

 ルーニアさんはますます気まずそうにする。

「で、なにを言いたかったんだい?」

「あ、違うんです。実はボクここがどこだかもわからなくて、それに、全然商人とかになるとかでもなくて、えっと……」

 しどろもどろになりながら僕は必死に今の状況を伝えようとする。こんなふうに自分のことを話すような経験は少なくてさっきのルーニアさんのようにハキハキとは話せなかった、けれどルーニアさんは真剣に聞いてくれた。


「つまり、お前は気づいたらあそこにいて、こっちの事は何も知らない、自分がどうやってここに来たかかもわからないって訳だな?」

僕は大きくうなずく。

「で、確かそれはお前のその首にかけているペンダントを行商から買った後に起こった出来事なんだろう。じゃあ大方それが原因なんだろうな。」

ルーニアさんは少し考えてからボクに言った。

「なあ、それじゃあお前さんはうちのギルドの新入りになりに来たわけじゃないんだな。知らなかったんじゃしょうがないが、しかしどうだ、もうこの馬車は俺のギルドの前に着いちまってる」

 ルーニアさんは馬車を止め、ボクの方を向き直って続ける。

「さっきのお前の口ぶりだと行く宛も無いようじゃないか、それならどうだ、心づもりがまとまるまでうちの部屋を貸そうじゃないか。ここなら人の出入りも多いし、お前がもといた所の手がかりも見つかるかもしれないだろ。それから、部屋を借りているからといってべつに必ずうちのギルドに入らなくてもいいさ。な、悪くない話だろ」

 確かに悪くない話かもしれない。ルーニアさんもいい人そうだし、何より今ボクはこの場所の事を何も知らないし、これ以上無いような誘いだと思った。

「あ、ありがとうございます、これからお世話になります」

ボクはそういって頭を下げた。ルーニアさんはそんなにかしこまらなくていいと笑って、馬車から降りて後ろに回った。

「おーいニッカ、荷下ろしを手伝ってくれ!」

 ルーニアさんがそういうと、ボクの後ろの荷物をもそもそ動かしながら鎧姿の女の子が気の抜けた返事をしながら立ち上がった。そして手の届く範囲にあった袋をいくつかまとめて担ぎ上げると、ひょいと馬車から飛び降りて、「親方、これはどこにおけばいいの?」とルーニアさんに尋ねた。

 それから彼女はルーニアさんと何か少し話をしてから、ランタンを片手に大きな倉の中に入っていった。

そしてルーニアさんも荷物を担いで行ってしまった。

 しばらくして、ニッカと呼ばれていた女の子が戻ってきた。そしてさっきと同じように荷物を担いで行こうとする。

「待ってください!」

 ボクはじっとしていられなくなって声をかけた。

 ニッカは軽く振り返って「どうかした?」と笑う。

「あの、何か手伝える事は……」

 しばらくの沈黙の後、何か感づいたように少女はにっこりして

「ああ大丈夫、お客さんに手伝ってもらうことは無いよ、でももし馬車にいるのが退屈だったらギルドの入って右あたりにテーブルがいくつかあるはずだからそれに掛けて待っていなよ。親方にもそう伝えておくからさ」

 そういってニッカは作業に戻って行った。


 そしてボクは彼女にいわれるままギルドの扉を開いた。


つづく

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