プロローグ
こういう小説は初めてです、遅筆拙筆ながら頑張ります。
良ければ感想を書いて頂けると励みになります。
「今、ボクは転機を迎えようとしている!」
そう、高校デビュー!地味な自分を抜け出すチャンス!
勉強しかしてこなかった過去におさらばして、いけてる男子高校生としてのスタートを切ろう!
そうはいってもボクには、いけてる男子高校生なんてどんなものかわからない。カッコイイ人や憧れている人はいても、いけてる人は見た事がない。それはきっとボクがそんな人たちと関わってこなかったからだろう。
だからいけてないのかもしれない。
いけてる人に出会ってないからいけてないのかもしれない。
いけてるって何だろう……。
「やっぱり茶髪かなあ」
コンビニで買ってきたファッション誌のモデルと学習机でにらめっこしながら前髪をいじる。
写真の中の青年は知らないおしゃれな街中を颯爽と歩いていて、親戚のお下がりを着ている今のボクとは月とスッポン、似ても似つかなかった。
中でも一番ボクと違うのはこの髪の色だ、モデルの青年は亜麻色の髪をサラサラとなびかせていて、ボクの髪の色は炭みたいに真っ黒でゴワゴワしていた。
「でも……」
そうだ、茶髪になんてしたら校則違反じゃないか。
「高校デビュー、あきらめるしかないのかな」
でもそれじゃ何も変わらない、地味だった中学生時代と同じじゃないか。
ボクは頭を抱え、しばらくしてまた雑誌に目をおろした。端正な顔立ちをした青年がすました顔で街を歩いている。ボクは見ていられなくなって、逃げるように雑誌のページをめくった。
そうしているうちにふと、ある広告の前で僕の手は止まった。
『イマドキ男子はさりげなさで勝負!ワンポイントのシルバーであいつの一歩先を行く!!』
そんな見出しに飾られたページには、ボクみたいな男の人がごつごつした銀色の腕輪や指輪ペンダントなんかを付けて堂に入ったような顔をしていた、ボクにはそれがさっきの青年ほどでは無いにしろいけてるのだろうと思った。
……これだ、これならきっと無事に高校デビューが果たせるはずだ。小さい物であればさほど悪い印象も持たれないだろう。
そうと決まれば早速と言いたい所ではあるけど、もう日も暮れてしまったし、明日にしないとな。
そうしてボクは雑誌にしおりを挟んでベッドに入った。
翌朝、ボクは身支度を済ませると、雑誌を入れた肩掛け鞄と一緒に玄関を出た。電車に乗ってお店の最寄の駅についたら、雑誌についた小さな地図を頼りに店を探す。
「交差点右、すぐそこ……、あったぞ!」
地図で示された場所には、厳ついコンクリートの壁に蜂が丸まったようなロゴマークが大きく描かれていた。その店の両開きの扉は閉まっており、ノブには"CLOSE"という文字が書かれた金属の板がぶら下がっていた。
そんな、これじゃ何一つ変われないままじゃないか。ボクは落胆して来た道を戻ろうとした。
その時、後ろから声がした。
「そこの人、なにか買ってかないかい」
ボクは突然話しかけられびっくりして声のした方に振り向いた。
そこには埃のかぶった異国風の布を巻いた壮年の女性が微笑んでいた、どうやらこの人がボクを呼んだらしい。見ればその女性の前にはワゴンがあって、その上にはキラキラしたアクセサリーが所狭しと置かれていた。
ボクはまだ戸惑いながらもその声の方へ歩いていき、ワゴンに目を落とした。ワゴンの上には磨かれた玉がついたものや小さなレリーフが彫ってあるものなど、素人目にも良い物だと判った。ボクはその中にあの雑誌で見たようなアクセサリーがないか探し始めた。
そのうちにボクはひとつのアクセサリーを手に取らずにはいられなくなった。それはシンプルな楕円形をしたリングの飾りのついた革のネックレスで、いけてるかどうかはわからないけどボクはそれがとても大切な物のように思えた。
「すみません、これ試しにつけてみてもいいですか」
その女性は、ボクの方を一度見やると何かボクの知らない所で合点が言ったような表情を浮かべて
「もちろんいいですとも、あなたはそれが気に入ったのでしょう」
「ええ、とても」
そう言ってボクはまた自分の手にあるネックレスのほうに目を向けた。銀色の楕円が揺れる。
これでボクは変われるのだろうか、あのモデルの青年みたいに颯爽と街を歩けるだろうか。ボクはネックレスを目の高さまで上げながら思う。
『試しにつけてみるだけ』それだけでもすごくワクワクして緊張してる、そんな言葉にできない期待の中で、ゆっくりとボクは自分の首にそれをかけた。
途端に僕の意識は落ちていった、意識が途切れる寸前に楕円のリングが目の前で光ったようにみえた。
そして
「とてもよくお似合いですよ」
あの女性の声でおぼろげにそう聞こえた……
……ボクはいつまでそうしていただろうか、最初に気づいたのは自分の首にかかっているネックレスの重み、土の匂いの混じった風の流れる音、そして頬をなでる草の感触。ここがあのコンクリートの路地裏でないのは目を開けなくてもわかった。
つづく